第五話 特級
「――宜しくね、仔猫ちゃん」
自らを特級探索者だと名乗ったチャラ男――、カンザキはミカに向かって軽くウィンクをしながらそう言った。
「……」
ミカは路傍の石でもみるような冷たい表情で彼を見る。
さ、さすがに露骨すぎて失礼じゃないかそれ……。
まぁちょっとイラッと来たのは確かだけども。
「まーまー、そんな顔しないで仲良くしようぜ! ”同じ”特級探索者なんだからさ」
「……そうですけど、あ、寄らないでください」
「ははは、つれないなぁ」
ミカは真顔で肩に手を回そうとしてきたカンザキを避ける。避けられた方は特に気にも止めていない様子で、今度は僕の方に視線を移すと、話しかけて来た。
「ヨータならわかってくれるだろー? オレ様と同じ男なんだからさ」
「……」
何を分かれと。
「可愛い女のコからあんな顔で拒絶されちゃったら悲しくない? ねぇ」
「さぁ、されたことないので分かりませんが」
カンザキはそう言いつつも悲しさなど微塵も感じてなさそうだ。
僕が適当に受け流しても、動じることはなかった。なかなか図太い。
「あ、そうそう。今度そこの金髪の子も一緒に食事でもどう? オレ様が奢るよ」
「結構です」
ミカの手を取ろうとして――、またもや回避されながらそんなお誘いを口にするカンザキ。馴れ馴れしいなコイツ。
僕はミカにやたらとスキンシップを仕掛けようとする彼に、少し苛立ちを覚えてしまう。
というか、ちゃっかりサラにも目を付けているようだ。
「……フー、中々手強いなぁ、ハハッ。……ねね、じゃあキミはどう?」
「えっ、あっ……その、私はっ」
カンザキは今度はサラの方へ歩み寄ると先程と同じように彼女の手を取ろうとする。
サラの方は避けたりすることはなく、相手が特級探索者だからだろうか、あわあわと体を強張らせて緊張している。
「ええと、キミは……初めて見る顔だね。名前は?」
「あっ、サラです! その、最近探索者になって、ヨータさんと一緒に依頼とかやってて、あの、その……」
名前を聞かれたサラは、更にあわてた様子で、噛みながら自己紹介を初める。
「へぇ、ヨータと組んでるのか。……そうなの?」
「ええ、まぁ」
僕に確認を取ってきたのでそこは素直に頷く。正確にはまだミカとレウヴィスはメンバーじゃないけど。
今日中にはそういう手続きは済ませる予定なので、問題はない。
「ふぅん、どうして特級探索者と探索者なりたての子が組んでいるのか知らないけど、今はいいか」
嫌味な言い方だな。なにか問題でもあるのか。
「それで、サラちゃんはどうかな? 食事」
カンザキに問い詰められ、困った顔をするサラ。彼女は少し思案してから、小さく答えた。
「ヨ、ヨータさんがいいなら」
「そっか、じゃ、いいや」
おい、僕には聞かないのかよ! ふざけてるのか?
僕はサラの答えを聞いた途端にぱっとその手を話すと、興味を失ったような顔になるカンザキに怒りを覚える。
「ごめん、俺様は男には興味がないんだ」
知るかボケ!
「……まさかとは思いますが、引き抜きが目的なら止めてもらいたいのですが」
十中八九そのつもりだろうけど、引き抜き行為はギルドの規約に違反する行為だ。……今現在は役に立たないだろうが、ギルドマスターがいる前でいい度胸をしている。
「いやいや、なんのことかな。あくまでもこれは”お誘い”でしかないよ。ギルドの顔とも言うべき特級の俺様がそんなことするわけ無いだろう?」
見かねた僕は彼にそう注意したのだが、僕の言葉を聞いたカンザキは適当なことを言ってはぐらかしてきた。
それにしても、ギルドの顔って自分でいうかそれ……?
「まぁ確かに、パーティには空きがあるけどね。二人ぐらいメンバーはほしいかな」
「あの!」
「おいおい、怒るなよヨータ。空きがあるってだけだぜ? お二人さんが俺様のパーティに入りたいってなら別だけど、今はまだその意思はないようだし、別に無理に引き抜いたりしないさ」
今はまだ……? 白々しい。
苛立ちが頂点に達した僕が言い返そうと口を開いたときだった。
カンザキの背後から高い声が聞こえた。
「カンザキ様、お時間です」
ミカも僕も、サラも声の主に視線が釘付けになる。
「入りたいなら話は別だけどね。……おっとこいつは失礼、時間だ」
飄々とした態度でふざけたことを宣っていたカンザキは、背後に現れた少女に気づくと、すぐに身を翻して言った。
先程からカンザキの後ろに立っていた少女は彼の仲間だろうか。
黒い髪に深い紫の瞳、年はサラと同じくらいだろうか、メイド服のような装備に身を包んでいる。頭にはコスプレ? なのかネコ耳がちょこんと乗っていて、同様に臀部からは尻尾のようなものが生えているのも伺える。
肉食獣のような鋭い目つきの彼女は、淡々とした様子でカンザキと話している。
「こんなところで何をしているのですか。このあとヨルカ達と壊れた装備を買い直しにいく予定のはずです。外で皆待っていますよ」
「わりぃわりぃ、ちょっと気になることがあったもんでね、……彼らは俺様と同じ特級探索者なんだ。アーシャもあいさつぐらいはしときなよ。俺様は外に出て待ってるから」
カンザキは特に悪びれもせず、彼女にそう言いつけると自分はあいさつもなしにさっさと外に出ていってしまった。
……終始失礼なやつだったな。
僕が修練場の出口を睨み付けていると、アーシャと呼ばれた猫耳コスプレ少女が、こちらの方に向き直り口を開いた。
「どうも」
「……どうも」
彼女は短くそう言うと、深くお辞儀をしたので、僕たちも軽く会釈を返す。
「アーシャと言います。カンザキ様がお世話になりました。では」
いやみじかっ。
「ちょ、もうちょっとなんか、その、……ないの?」
「何がでしょうか?」
ミカが思わずといったように聞き返すが、彼女は何かおかしいのか、とでも言わんばかりに首を傾げる。
「……、では一つだけ」
「は、はぁ」
アーシャは少し考えてからそう前置いて言った。
「カンザキ様には”私”がいるので、安心してください。くれぐれも余計なことはしないでいただけると助かります。では」
「ええっ!?」
少し棘を含んだ声できっぱりと言い切ると、彼女は今度こそ修練場を出ていってしまった。
面倒ごとはもうたくさんだ……。
サラもミカも、唖然とした様子で固まっている。
僕はしばらくカンザキ達が消えていった入り口を眺めていたが、しばらくして深く息を吐くと、アレクとレウヴィス達が戦っているはずの後ろを振り返った。
「はぁ、はぁ、……キミ、ボク相手にここまでやるとはね。気に入ったよ」
「ふふ、そちらこそ」
僕の目には、彼女たちが互いを認めあい、熱い握手を交わす様子が映ったのだった。
二人の間には、新たな友情が芽生えようとしていた。
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