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第三話 支援魔導士、真の力に覚醒する


 スキルアップデート。

 それによってスキル効果や、身体能力を向上させることが出来る。

 僕にとって、今回が五回目のアップデートということになる。

 正直、今回もあまり期待はできないだろう。せいぜい上昇したとしても3パーセント? いや、もっと少ないかもしれない。

 全ステータスアップと聞いただけなら凄いと感じるかもしれない。だが、現に役に立たない、要らないと言われてしまってはそれ以上の評価のしようがなかった。

 さっきスライムと戦っていた時だって自分に掛けて使っていたのだ。自分が弱いのもあるが、効果が薄いというのは本当なのだろう。


「まぁ、なんであれないよりはマシ、だよな……」


 僕はそう、誰にともなく呟くと、半ば投げやりにスキルアップデートを行った。

 了承ボタンを押すと、自分の身体が淡く光り始める。いつもの感覚だ。腹の奥底から湧き上がってくる高揚感。

 そしてそのまま光が収まるのを待っていると……。


 『――レベル5への到達を確認。リミッターを解除します』


 唐突に頭の中に何者かの声が流れた。


「!?」


 僕は驚き辺りを見回すが、それらしき人影は見当たらない。そもそも()()()()響いてきているのだから周りに居るわけもなかった。

 

『リミッターの解除を確認。”大英雄の号令”真の力を解放します』


 男か女であるかもわからない無機質な声はなおも喋り続ける。それにつれ、自らの身体を包む光も強さを増していく。


『……アップデート処理完了。再起動します』


 最後にはその声と共に、唐突に僕の意識は途切れた。





 どれくらい気絶していたのだろうか。朦朧とした意識がだんだんと覚醒してくる。

 僕はまだ力のはいらない身体を必死に使い、なんとか起き上がった。

 どうやらその場に倒れていたようで、見回しても目に入るのは迷宮の壁のみだった。手元には探索者証が落ちていたので拾い上げる。

 ぼんやりとしながらそれを眺めて、


「……なんだこれ!?」


 驚愕した。

 数値がおかしい。とにかくおかしい。全てがおかしい。

 ステータス値が全ての項目において今までの2倍以上に跳ねている。特にスキルの効果倍率においては、効果上昇率が5倍を超えていた。


name:ヨータ age:15


生命力:134/134


体力:72/72


筋力:103


敏捷:57


防御力:61


スキル:大英雄の号令Lv.5/10

味方の全能力を100%アップ。


 基礎ステータスが剣士職並の数値になっている。今ならかなり低層階の魔物も一人で倒す事が出来るだろう。

 そして、スキル。効果倍率がものすごいことになっている。これは最上級のレベル10の支援魔導士がようやく達する事が出来るか、というような水準だ。

 どう考えてもレベル5の僕には釣り合っていない。やりすぎだ。


 ……リミッター解除とはどういうことなのか。


 よく見るとスキル欄のレベル表記も少し変わっていて、(封)

の表記が無くなっている。

 能力が今まで制限されていた……? どうして?


 様々な疑問が浮かんでくる。僕は嬉しさよりも先に、恐怖を感じた。背中が薄ら寒くなる。


「は、はは」


 思わず乾いた笑みが溢れる。

 僕は無能じゃなかった。

 

「やっと……」


 僕は先程までの気怠さなど忘れ、勢いよく立ち上がる。

 居ても立ってもいられなかった。

 駆け出したその先で先ほどと同じスライムを見つけそのまま斬りかかる。

 体が軽い。先ほどより遥かに速く動けるようになっていた。 


「はっ」 


 突き出した短剣はいとも容易くスライムのゼリー状の膜を切り裂き核を貫通する。


 一発だった。


 と、ここまではまだスキルを使っていない。単純な身体能力のみだ。それだけの上昇率だった。


 ドヒュ ドヒュ ドヒュ


 僕はスライムの群れに突っ込むと、その全てを一撃で倒した。先ほどとは比べ物にならない効率に気分が高まる。


「ってスライムに勝って喜んでるなんてアホみたいだな」


 さっさと魔石を回収すると僕は奥の方へと向かった。





 一つ下の階層に降りると、そこでゴブリンと鉢合わせした。ゴブリンは常に群れで行動するので、一人でやるにはかなり厄介と言える。

 一匹の能力はそんなに高くないのだが、それでも大人の男並の筋力があるため、決して弱くはなかった。


「相手としては、ちょうどいいのかな?」


 僕は、そうつぶやきながら今度はスキルを発動し、自分に支援魔法を掛ける。


「せぇえいっ!」


 掛け声を上げながら短剣を横に薙ぐ。それだけで近づいてきた3匹の首が飛ぶ。抵抗は感じられなかった。


「「グギャッ!?」」


 残った5匹ほどのゴブリンは驚いたのか後ずさる。僕はその5匹に向かって飛び込むように跳躍する。

 体が浮いた。僕はまるで飛ぶような軌道を描いて一気にゴブリン達との距離を詰め――


 ガツンッ!


 天井に頭をぶつけた。

 そのまま床に墜落し、突っ伏す。


「……」


「「……」」


 辺りに静寂が満ちた。ゴブリン達もあまりも驚きに口をあんぐり開けて呆けている。


 やっちまった……。


 やらかした。ここは迷宮で天井があることをすっかり忘れていた。

 誰に見られているわけでもないのに顔が熱くなる。強化された防御力のおかげか痛くは無かった。

 僕はいつまでこうしているわけにも行かないのでゆっくりと起き上がろうとする。

 そうしているうちにゴブリンの一匹が立ち直り、慌てて仲間を正気に戻すと、一斉に襲いかかってきた。

 地に伏した状態の僕相手なら有利と判断したのだろう。

 彼らは手に持っているこん棒を振り上げ、人体の急所である頭を狙い打ちにしようとしている。

 木製のこん棒だが、堅く、重い材質なため当たればただではすまないであろうことは明白だった。


 ……普通の人間なら。


 僕はそのままそれらを頭で受け止めた。


「グギャッ!?」


 ゴブリンはやったか!? とばかりに鳴き声を上げる。

 確かにゴブリン達の得物はしっかりと僕の脳天を捉えていた。

が、僕には効いていなかった。

 僕はユラリと立ち上がると短剣を目の前の一匹に突き刺す。

 抜いた剣はそのまま後ろに薙いでニ匹仕留める。

 残りの二匹は逃げ出そうとしたので後ろから蹴りを繰り出し、首の骨を粉砕して仕留めた。

 

「すごい……」


 化け物じみた動きだった。およそ今まで自分とは思えないような、異様なステータスだ。

 もはや支援魔導士の動きとは言えない。支援魔導士とは後方で()()するから支援魔導士なのだ。前線に出て戦うような職じゃない。

 僕は倒したゴブリンからスライムより少し大きな魔石を回収しながら、考え込む。

 ……慢心してはいけない。僕は少し冷静になってから、さっきまでの行動を振り返る。先ほどの僕はいきなり大きな力を手に入れて、明らかに調子に乗っていた。

 そうなってはいけないだろう。それではライオル達と同類だ。


「……努力するんだ」


 そう、努力だ。僕のレベルはまだ5。この時点でリミッターが解除されたということはまだ伸びしろがあるということだ。

 ここで終わりじゃない。まだ伸ばせるんだ。

 基礎ステータスは筋トレなんかでも上げられる。僕の支援魔法はそれらを強化するものだ。母数がデカければデカイほどいいに越したことはない。


「よし、努力は報われるんだ! 頑張るぞ!」


 先ほどまで諦めかけて自暴自棄になっていたはずの僕は、そんな調子のいいことを言いながら迷宮を出ようと出口へ向かう。

 まずは新しいパーティーを探さなければ。今更ライオル達の元に戻るつもりはないし、何より今の僕ならすぐに見つかるだろう。

 謎は挙げればきりがないが、今気にしていても仕方のないことなので考えるのは後回しだ。とりあえず喜ぶことにしよう。

 気持ちの整理がついたからか、足取りも軽くなる。

 そうしてそのまま街に戻ろうとしたのだが……。


「誰か! 助けてください!」


 後ろの方から悲鳴が聞こえた。声からしておそらく自分と同年代の女の子だろう。

 僕は急いで声の聞こえた方へ向かう。入り組んだ迷路のような道を進んでいくと声が段々と明瞭になってきた。

 やがて角に突き当たると、僕は一旦そこで足を止めた。声はこの先から聞こえている。

 僕がそっと覗き込むと、そこで見えたのは。


「おいてめぇ、自分が何やったのかわかってんだろうなぁ〜ええ?」


「ひぃっ! ごめんなさいごめんなさい! 許してください、なんでもしますから!」


「アニキ、こいつブチのめしてやりましょう、そうしましょう!」


 地面に頭を擦り付けて土下座する冒険者風の少女と、それを取り囲む2匹のオークだった。

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