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第十七話 支援魔導士、臨時パーティーと共に深層に臨む


「おう、ここが深層域かよ……流石に暗いな」


 先頭を歩くヨシヤがそう呟きをこぼす。他のメンバー二人もゴクリ、と喉を鳴らすのが聞こえた。

 僕はもう何度も足を踏み入れているため、そこまで緊張はしていない。

 迷宮は基本的に下に行くにつれて暗くなる。深層ともなればもうほとんど明かりがない状態だ。反対に表層は昼のような明るさである。

 しかし、これだけの明かるさをどうやって維持しているかは未だ謎である。迷宮には()()()()()()()()()()()()からだ。

 迷宮全体がぼんやりと光っているのかとも考えられた。だが、石壁をいくら調べても光っている様子はない。

 迷宮は、まだまだ謎の覆い危険な場所なのだった。


「流石にはじめてだと、ドキドキするね」


「ええ。でも今回は……」


 そういった二人は期待のこもった視線で僕を見つめてくる。

 ……やめてほしい。


「まぁ、ヨータにそんなに迷惑は掛けられねぇだろ、俺たちが頑張らなきゃな」


 後ろでの出来事が見えているのかいないのか、ヨシヤはそんな事を言ってのける。


「え、ええ」


「……やっぱりそうだよね」

 

 じっと僕を見ていた視線がようやく僕から離れた。僕はホッと息をつく。やはり人からずっと見つめられているのはあまり心地の良いものではない。

 様子を見れば分かるが、彼らはかなり緊張しているようだ。彼らにとって深層は未知の領域だ。無理もなかった。


「……魔物は、来ないな」


 もう深層に足を踏み入れてから結構経っているが、未だに魔物の気配はない。元々深層に生息する魔物の数はそんなに多くないので、当たり前といえばそうなのだが、現在の状況に置いてそれは不気味な雰囲気を醸し出していた。


「はい、ですが何が起きるかは本当に分かりません、気をつけてください」


 僕は一応先輩であるから、再三の注意を彼らに呼び掛ける。

 ……なんだかこの状況は、僕にとってすごく歪な気がする。レベルは彼らの方が上だ。探索者歴も彼らのほうが長い。当然ステータスも彼らの方が上なのだ。

 自分の方が弱いのだ。そんな状況下で彼らに指示を出すというのは中々に精神がすり減る。

 だが、こんなことでへばっていてはミカを救出するなんて実現出来ない。人には後に引けない時があるのだ。

 そう考え、僕は気を引き締めた。


「はは、頼っても良さそうだね。少しだけ安心したよ」


 セイジはいつもの調子を取り戻したのかそう言って笑う。皆には極力リラックスしてもらいたい。いざと言うときにミスがあるかもしれない。

 僕たちは彼女を捜索しに来たのだ。失敗などしては面目が立たない。

 

「っと、ここを下に下るんだったな。行くぞ」


 僕たちは目の前の階段を降りていった。





「そろそろ、彼女が行方不明になった場所……置きざりにされた場所なんだよな?」


 ヨシヤが僕に聞いてくる。場所についてはガレから聞いているため、それにすぐさま答える。


「はい、もうすぐトリコロール・ドラグーンの生息地です。今のところ出てきてはいませんが、パラサイトワームの生息地でもあるので寄生されないように注意してください。奴らの消化液は、体を内側から溶かしてくる」


「……それは随分と嫌な魔物だな」


「私、ちょっと寒気がしてきたわ」


 僕の話を聞いたヨシヤ達は皆嫌そうな顔をする。まぁ、これが普通の反応である。僕だって寄生虫にやられて死ぬなんてごめんだ。

 そうやって皆でブサイクな顔をしながら進んでいたのだが、そこに、案の定というか、なんというかパラサイトワームが一匹だけ現れた。

 人間の腕一本分ほどもあるそれは、僕たちを見るなりすぐに襲いかかってきた。


「ちょっ、まじで勘弁してよ!」


「クソッ、気持ち悪りぃな!」


 アリサ達は悲鳴をあげ、慌ててパラサイトワームに攻撃を繰り出す。

 ワームは剣に切り裂かれ、魔法で爆破される。

 ワームはかなりの速度で動いていたはずだが、僕たちによってあっという間に仕留められてしまったのだった。


「あの、あまり大声は出さないで貰えると……」


 僕は肩で息をする彼らにそう申し出る。音を聞きつけて他の魔物が寄ってくるかもしれないのだ。


「ご、ごめんなさい」


 特に大きな声で叫んでしまったアリサは僕に平謝りである。とはいえ、よっぽど大きな音でもなければ、可能性は低い。そこまで怒ることでもないのでここでこの話は打ちきる。


「じゃあ、進もうか」


 少しドタバタしながらも僕たちは進みだしたのだが……。


 コ……コケ…………。


 何やら遠くから鳴き声のような音が聞こえる。それを聞いて僕たちはすぐに足を止めた。


「なぁ、なにか聞こえたか?」


 ヨシヤが皆に問う。その質問に僕たちは全員コクコク頷いた。

 

 コケ……コケケ……コケッ。


 再び音が聞こえる。今度は、はっきりと。

 音は段々と大きさを増して来る。


 コケーッ、コケ、コケーッコッコー!


「もしかして、私の声で呼んじゃった?」


 アリサが青い顔で聞いてくる。そうかもしれない、この声はたしか……。


「一匹じゃねぇ、複数だ! やばいんじゃないか!?」


 地鳴りまでしてきた。音の聞こえる方、先の通路の角から、ドタドタと大きな音を立ててそれは、現れた。


「大鶏だ! しかも群れだ……皆、早く武器を!」


 おかしい、大鶏は通常巣からほとんど出てこない。それがこの数、すごく殺気立っている。明らかに異常だ。

 僕達はすばやく武器を出すと、防御の体勢をとった。

 その直後、大鶏の群れが僕達の元へと突っ込んだ。





「深層、やっぱり格が違うね……」


 セイジが疲れ切ったようすでそう洩らした。他のメンツも似たような状態だ。


「あの大鶏達、一体どうしたっていうんだ」


「私達に脇目も振らずにどっか行っちゃった……」


 わからない。僕にも初めてだった。ただ、彼らは巣のある方向から出てきたのでそこで何かがあったのだろうことは簡単に想像出来た。


「とにかく、怪我はありませんか? ポーションで小まめに回復しないと、後々困ります」


 原因不明な以上、気にしていても仕方がないので、そう気持ちを切り替えるように言った。皆スキルのおかげで負傷は無かったようで、彼らは僕にサムズアップしてみせる。


「あとちょっとだっていうのによ、深層は手ごわいな」


 ヨシヤが真面目な顔をして言う。正確には今日が特別おかしいのだが、深層が危険な場所というのは事実だった。


「……落ち着きましたか? あともう少しですから、行きましょう」

 

 僕達は休憩を切り上げ、いよいよトリコロール・ドラグーンの生息域へと足を踏み入れた。

 指定の場所が近づくにつれて、だんだんと不安がこみ上げてくる。だが、反対に期待も、湧き上がって来ていた。

 もうすぐミカを助けられる、きっと無事でいてくれる。

 その一心で歩を進め続けた。


「……ここだな」


 そして、着く。ガレの言っていた場所で間違いない。

 そこは静かだった。トリコロール・ドラグーンがいるはずだが、気配はない。


「早く助けてあげなくちゃ、物陰とかを探しましょ」


 僕達はミカの捜索を開始した。みんなで手分けして、かつそれぞれが見える位置からは離れず、着々と確認をしていく。すみずみまで、徹底的に。

 もうすぐ見つかる、またミカの顔が見られる。もうすぐ……。


「まって、これって……」

 

 と、アリサが何かを見つけたようだ。僕たちは彼女の元へと駆け寄る。


「見つけたのか!」


「……ミカ!」


 ミカが見つかったのか。最初はそう思ったのだが、彼女の表情は芳しくない。僕は喜色に染まりかけた表情を引っ込める。

 彼女は目の前を指さした。僕はその指された方を見る。


「……なっ」


 まず鉄のような臭いが鼻をつく。血の匂いだ。

 彼女の示す先には血溜まりがあった。

 僕の心臓が高鳴る。

 まさか、ミカの物なのか。そういう考えが頭をよぎる。

 そんなはずはない、絶対にありえないとそれを必死に振り払おうとしながら、ゆっくりとそこに近づいていく。


「……そんな」


 そして、見た。……見てしまった。

 血溜まりの中にはある物体が落ちていた。

 細長く、折れ曲がった棒のような状態の物体は丁度人の――。


「これは……手?」


 セイジ僕の横で呟いた。


 ――落ちていたのは、人の右腕だった。

 

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