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第十六話 支援魔導士、臨時パーティーと無双する


「おい、ちょっとこれはヤバすぎねぇか!」


「走っても全然疲れないじゃない!」


 迷宮の中に声が響く。それと共にそれを追い越すような勢いで探索者の集団がそこを駆け抜けていった。

 僕たち臨時のパーティーだ。現在全員に僕の支援魔法を掛けている状態である。

 効果は劇的だった。彼らの驚きの声からもそれは明らかだ。


「しかし、もう少し動きづらくなると思ったんだけど、こうして話す余裕すらある。……本当に全能力が上がっているのかい?」


 セイジがそんな感嘆の声を漏らす。

 このスキルの能力について、僕はまだ完全に把握仕切れていない。彼の質問に僕は簡単にうなずくことはできなかった。


「いえ、本当に全能力が上がっているのかは……」


「ああ、そりゃあそうだよね。話を聞いた限り、このスキルを手に入れたのはつい最近、なんだよね」


「はい、そんな感じです」


「……ごめん、詮索するような感じになっちゃったね。控えるよ」


 僕があまり答えたくない雰囲気なのを察したのか、セイジが笑いかけながら謝ってきた。

 そうやってずっと喋っている僕たちに、前を走っていたアリサが注意をしてくる。


「ちょっと、クエスト中でしょ! もっと真面目に……」


「まぁ、それはそうだがな、少しくらい余裕があったほうがいいってもんさ。人間ってのは緊張状態だと視野が狭くなる……もちろん油断することと、余裕を持つことは違うがな」


 ヨシヤは彼女の言葉に半分同意、半分反対といった感じでそう言った。


「ええ、それもそうかしら……二人とも油断だけはしないでね!」


「はい!」


「はは、分かったよ」


 僕たちはそれぞれ返事をした。と、そこでヨシヤが突然ストップをかける。


「ここから中層みてぇだ、多少気をつけた方がいい」


「えっ、もうそんなところなの!? まだ二時間しか経ってないわ」


 彼の言葉にアリサは驚きの声をあげ、小型時計を懐から取り出す。通常、中層までは半日ほど掛かるが、それが二時間で済んだ。


「はは、インチキじみた能力だねこれは……」


 セイジも今までの笑顔が少し引きつっている。額からは冷や汗を流していた。


「まぁ、それはともかく救出が先だ。行くぞ」


「はい」


 僕たちは再び走り出した。





 中層域では多少魔物が進路を阻んでくるようになった。僕たちはそれを倒しながら進む。

 中層では主に、ゴブリンの上位種、魔獣型の魔物が出現する。

 中層域で活動する探索者にとって、それは本来脅威となりうるが、今の僕たちにとっては、そうではなかった。


「……ふぅ。こりゃあ、おまえさんのスキル無しじゃあやって行けなくなりそうだぜ」


 目の前のハイ・ゴブリンにトドメを刺しながらヨシヤがそう言った。

 彼の仲間もそれに同意するように追従する。


「確かに、盾役の僕がこんなに早く動けるわけだからね。すごい事だ」


「だめよ、彼に迷惑でしょ。寄生行為もいいところだわ」


 アリサがヨシヤ達にそう叱りつける。

 そう言われた二人は困ったように頭を掻いて黙り込む。

 こうしている間にも迫りくる魔物を、僕たちは次々と蹴散らしていった。


「この調子なら、予定より早く付きそうだな」


 ヨシヤが走りながらそう僕に言ってくる。


「はい、早ければ早いほどいい。本当ならもっと早く……!」


 一刻も早くミカを助けたい。その上で自分の今のスキルは大いに役に立っている。今まで自分の持ったスキルを憎むことはあれど、感謝したことなどなかった。

 今回ほどありがたいと思ったのははじめてだった。


「中層をぬけるまであと少しね。もうほとんど深層域と変わらないレベルの魔物が出てくるわ」


「うん、気を引き締めてかかろう」


「っ!? イビルウルフだ! 中層域最強と言われている。個体によっては深層の魔物以上の脅威だ。気をつけろ!」


 深層域を目前にして目の前に現れたのは、中層の食物連鎖の頂点に立つイビルウルフだ。地上に生息するオオカミと似たような容姿をしているが、決定的に違うのは胸のあたりに光っている魔石の存在だった。

 この魔物は出現率は低いが、迷宮全体においても強さはかなりの上位に位置する。加えて中層に生息域を持つため、毎年かなりの探索者がこの魔物によって被害にあっていた。

 よって、中層においてこの魔物は最も警戒しなければいけない、危険な物だと言うことだ。

 今まで中層でずっと活動していた彼らはそれをよく知っていたのだろう。慣れた様子でその魔物に対し陣形を組んだ。

 僕はその後ろに立つ。


「ヨータ、少しだけ待ってろ。すぐに終わらせる」


 イビルウルフは僕たちをかなり警戒しているようで、そちら側からは手を出すことはなく唸り声をあげている。

 まるで僕たちが、彼以上の脅威であるかのようである。いや、実際そうだった。


「ふふ、ビビってるみたいね。こないだとは反応が全然違う」


 アリサが少し面白がってください言った。


「……ドーピングしてもらってるようなもんだ。アリサ、勘違いするなよ」


「分かってるわよ」


「ならいい。行くぞ!」


 その声と共にアリサとヨシヤが同時に突っ込む。ウルフはそれを避けようと飛び退くが、それよりさらに早く彼らの手が動いた。

 ウルフは彼らの攻撃を避けることは諦め、強靭な爪で受けようとする。しかし、二人の攻撃を同時に受け流すことは叶わず、ヨシヤの剣をまともに食らった。

 ウルフの脇腹に長剣が深く突き刺さる。ひと目でわかる。致命傷だった。


「こんなにあっさり倒せるなんてね。つい一昨日はあんなに苦労したのに」


 セイジが驚きを通り越して呆れたように言った。

 ヨシヤやアリサもため息をつく。


「まるで、私達の努力が否定されてるみたいね」


「はぁ、すいません」


 僕はそれに謝る。僕も同じ立場だったら同じことを思うだろう。すると、ヨシヤが慌てたようにそれを否定してきた。


「あー、勘違いしないでくれって! 別にヨータが悪いわけじゃないんだぜ? おい、アリサ、セイジ! いい加減失礼だぞ」


「そうね、いつまでも驚いていたらきりが無いし、時間も食ってしまうわ」


「じゃあ、早く行こうか。魔石はなかなか惜しいけど、目先の利益より人の命の方が大事だよ」


「ならさっさと出発だ。行くぞ、深層域!」


「「おー!」」


 「お、おー……」


 彼らは深層域へと足を踏み入れるのは初めてだ。そういうこともあって己を鼓舞する意味もあるのだろう。明るい声を出してそう意気込んでいた。

 僕もそれに小さな声で合わせる。


 この先は、いよいよ深層域だ。





 ――迷宮、深層域。


「おかえりっす! アニキィ!」


 そこの最深部にある住処へと、ガロンは帰って来ていた。

 背中には今日狩ってきた、大鶏と()()()()()()()()()()を背負っている。


「おい、カロンこの鶏を料理しとけ、あと邪魔だ。道を塞ぐな」


「す、すまねぇ……うぉあっ! いつもよりでかくないっすか!?」


「ああ、群れでいたからな。多分そいつらのリーダーだろう。こいつを殺ったらほかはみんな逃げていった」


「群れだったんすか? 災難でしたねぇ」


「そうだ! だから早く料理しろ! 俺はレウヴィス様の元へいく」


「分かったよ! 任せてくれアニキィ!」


 ガロンは子分オークにそう怒鳴りつけて、奥の部屋へと入っていった。彼が居なくなったあと、カロンは慣れた手付きでその鳥を捌き始めた。


「ガロン、その子はどうしたんだい?」


 奥の部屋、というより空間か。上下左右、どちらもあやふやな空間の真ん中の大きな椅子に腰掛ける男がガロンに問うた。


「迷宮でドラグーンに襲われていたようなのを拾ってきました」 


 ガロンがそう理由を述べると、男は片方だけ眉をピクリと動かす。


「へぇ、なんで? なんか気になることでもあったの?」


「はっ、それなんですが……」


 そう聞いてきた男にガロンはその詳細を話した。


「……で、この女を助けることは可能でしょうか」


「うーん、難しいね。右手の欠損、大量出血、まぁ助かるわけがないね。()()()()


「普通なら……?」


 ガロンが聞き返すと男はニヤリと、笑みを浮かべた。


「方法はあるよ。一応ね。……まぁ、私に任せてくれ。この、魔人レウヴィスに」

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