第十五話 支援魔導士、深層域へと出発する
「みんなレベル8,か」
彼らのステータスはそれぞれこうだ。
name:ヨシヤ age:26
生命力:185/185
体力:81/81
筋力:97
敏捷:48
防御力:72
スキル:竜騎士の剣術Lv.8/10
剣術補助(大)、攻撃威力アップ80%
name:アリサ age:23
生命力:114/114
体力:98/98
筋力:10
敏捷:53
防御力:61
スキル:魔女の破壊魔法Lv.8/10
広域破壊魔法(大) 範囲拡張40%
name:セイジ age:27
生命力:191/191
体力:81/81
筋力:84
敏捷:32
防御力:138
スキル:鉄壁王の大盾Lv.8/10
盾術補助(大)防御力ボーナス60%
やはり高レベルなりの高ステータスである。基本ステータスに至ってはレベル9のライオル達にも劣らない数値だった。日頃から鍛錬を怠っていないのだろう。
ヨシヤは剣士らしくバランスの取れたステータスだ。というよりは平均値に近いというべきか。アリサは典型的な魔導士タイプのステータス、僕とほぼ同じだ。
セイジは防御力が突き抜けて高い。スキル欄に防御力ボーナスとあるので、その恩恵だろう。防御力に限ればガレよりも高い。
ステータス面だけを見ればかなり優秀なタンクだった。
次にスキルだが、やはりスキル名についてはどれも似たようなネーミングだ。僕のが別段特別だという印象は受けない。
しかし、以前の僕のスキル欄に記載されていた、(封)の文字はどこにも見つけることは出来なかった。
あと気になる所といえば、セイジが最年長だったということだ。正直、彼らの中では彼が一番若く見えたのだ。
正直それが一番の驚きと言えよう。彼らのステータスはレベル8だけあって優秀だが、あくまで深層域に潜る探索者としては平凡な域を出てはいなかった。
「……十分すぎる強さだ。レベル9と聞いても疑わないですね」
それでも、今回は僕のスキルがある。これがあればライオル達以上の戦力として活躍することができるだろう。
「そうか? そう言ってもらえるとありがたいね。これでもしっかり努力してきたんだぜ? もう6年くらい、な」
6年にもなるのか。いや、やはりこれぐらいが普通なのだろう。経験値吸収能力にもボーナスがあると仮定していたが、どうやらその考えは間違っていないようである。
……そんな自分の能力に関する考察はともかく、はやく日程を練って出発しなければいけない。
僕は彼らに探索者証を返した。
「で、信用してくれるかい?」
「もちろんです。頼もしい限りです」
探索者証を受け取ったセイジがそう聞いてくる。彼らの戦闘能力に関しても、人格に関しても信用して良さそうだった。
「いやぁ、本当ごめんね。こんないちいち回りくどいことをさせて。キミの能力を先に明かしたのはその方が人員を集めやすいからだ。……一晩で集めるにはかなり効果的だったよ。彼らは慎重だったからね、報酬金で釣るのは正直かなり厳しかったんだ。許してくれ」
お互いの把握が終わった所でアレクが再び声をかけてくる。僕にそう謝ってきた。そういうことか。
僕がもう一度三人パーティーの方を見ると少しバツが悪そうに頭を掻くヨシヤが。
「バレちったか。お金もあるけど本当はおまえさんの能力釣られたんだ。深層にも興味はあったしな……わりぃな」
「そうね、ごめんなさい」
「はは、許してくれるかい?」
三人も口々に謝罪を述べる。もちろんだ。急に危険なクエストに行くことを半ば強制されるようなことがあったら、僕でも躊躇する。たとえ大金を積まれてもだ。
彼らに非などあるはずがなかった。僕は彼らの申し出にこくり、と頷く。
そうやって互いに信用を得たところで、いよいよ救出の段取りを決めに入った。アレクが取り仕切るように言う。
「じゃあ、作戦会議といこうか。目標はミカの捜索・救出だ」
◇
「本当ならボクも付いていくのが一番いいんだろうけどね。もう引退試合した身だし、役職のこともあって迂闊に動けないんだ。ヨータ君には嫌な思いばかりさせてしまって本当にすまない」
迷宮の前で、またアレクは謝罪をしてくる。僕としては仕方ないとは思っているし、探索者としての大先輩でもある彼女にこれ以上頭を下げさせるのも恐縮なため、慌てて僕はそれを止めた。
「もう本当にわかりましたから、ギルドマスターが部下である僕にそんな簡単に頭を下げないでください」
「悪いことをしたら誰にでも謝るのが普通さ。地位なんて関係ないよ。それにヨータ君は少し卑屈がすぎるような気がするよ、もっと自信を持つんだ」
「でも……」
「おい、いつまで長々と話してんだよ。もう出発の時間だ」
そうやって二人で話していると、ヨシヤが呆れた様子で僕たちのことを言い咎めてくる。
そんな声に僕は慌てて従う。……つくづく僕は人に使われるタイプの男だった。
「半日で深層まで降りるんだろ? そんな無茶をするんだから、しっかり頑張ってくれよ、支援魔導士さん」
そうだ。僕の能力を盛り込んでかなり無茶ぶりな行程にしている。僕がしっかりしなければいけない。
表情を引き締めた僕に、アリサさんがふふっ、と笑いかけて激励の言葉をくれる。
「期待してるわ、ヨータ」
「それじゃあ、ミカ君の無事を祈ると共に君たちの無事も信じて待っているよ! 気をつけて!」
「「「了解!」」」
アレクのその言葉力強く返事を返し、僕たちは深層に向けて出発したのだった。
◇
――迷宮、深層域。
そこを一匹の魔物が徘徊していた。いかつい猪のような頭、筋肉室内で大柄な胴、骨太で力強い手足。それらが彼が強者であることを物語っている。
「……レウヴィス様は最近わがままが過ぎないか? なんだってあんな魔物の肉なんか」
魔物は一人ブツブツ、……おそらく彼の上司であろう誰かに対して文句を垂れていた。
彼の背中には地上では見られないようなおぞましい姿形の大鶏が背負われている。すでにこと切れているようだ。
つまるところ、彼は狩りから帰る途中なのだった。
「帰ったらカロンの野郎に料理は押し付けるか。……ちっ、今日に限ってこの糞鶏群れでいやがって、本当に苦労した」
彼は明かりも乏しく、仄暗い深層域の通路を不満不平を漏らしながらずんずん下っていく。
ピチャ。
「……?」
と、唐突にそんな音がして彼は足を止める。
迷宮には水が流れ出たりする場所はほとんどない。水溜まりなどもってのほかだ。
しかし、実際に自分の足は濡れている感覚がある。一体これは何なのだろうか。
彼はそう思い、下を見る。薄暗くて分かりづらいがそれは……。
「――血」
おびただしい量の血であった。それは奥の部屋状の通路から少しはみ出るようにして流れ出している。
彼は目を奥の方へと向け、その源を確認する。
「ドラグーン、か?」
そこにはドラグーンがうずくまってうごめいていた。三つの首は何かを咀嚼しているようである。
彼は少し気になったため、それに静かに近づく。ドラグーンの真後ろまでくると、それが覆いかぶさっているモノの赤い髪の毛が一束はみ出しているのが見えた。
……おそらく地上から来た探索者だ。このドラグーンに敗北したに違いない。
この出血の量、おそらくもう死んでいるし、生きていたとしても助かる見込みはなさそうだ。
そもそも彼は迷宮に生きる魔物の一匹である。本来なら敵である探索者を助ける義理など無かった。
興味を喪失し、彼は再び家路につこうと歩みを進める。
「…………タ」
そうやってその場を放れようとした時、突然その探索者が微かだが声を発した。どうやら生きていたようだ。
なぜだかそこで彼は足を止めて踵を返した。
「グォァ?」
そしてドラグーンのところまで戻ってくる。彼がドラグーンの前に立つと、ようやくそれに気づいたドラグーンが探索者を咀嚼するのをやめ、首を上げる。
何か用か? と言わんばかりの様子だ。
「ああ、ちょっと用事ができて、な!」
ドッゴォ‼
彼がそういった直後、ドラグーンの頭が爆発した。彼が拳を打ち込んだのだ。
突然の出来事に、ドラグーンは混乱した様子で叫び声をあげる。
「グアァァァオアアア! ……ギッ!」
ドゴッ、ドゴッ!
彼はそんなドラグーンに体勢を整える隙すら与えずに、残り二つの頭も爆砕させた。
たった三撃。圧倒的だった。
頭を失ったドラグーンはその場にくずおれる。彼はどけると、下敷きになっていた探索者を観察する。
この探索者は女だった。赤い髪をツインテールにして結わえている。
「右手が欠損か。……治るか?」
気絶している。だが息があることを確認すると、彼は大鶏と同じように、屈強な肩にその探索者を抱えた。
そうして、今度こそ迷宮の最奥へと消えていくのだった。





