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第十四話 支援魔導士、臨時パーティーと顔合わせをする


 なんだか柔らかな感触に包まれながら、僕の意識は覚醒へと向かう。

 丁度人肌ぐらいの温度で、触ると程よい弾力でとても心地良い。しばらく揉みしだくようにそのクッションのような物体を触っていたのだが……。


「ひぅっ」


 その物体は()()()()()。僕は目を見開き飛び起きる。

 そこで今まで触っていた物の正体が分かった。今まで触っていたのはそもそもクッションとかそういうたぐいの物ではなかった。

 僕は寝ていた場所を立ち上がって見下ろす。そこで一緒に寝ていた彼女は顔を真っ赤にしてこちらから目をそらしている。

 つまり、僕が今まで触っていたのは……。


「すいませんでしたぁぁぁ……」

 

 サラの胸だった。僕は全力で土下座した。





「も、もういいですから」


 彼女が頬をかきながら、そう言う。その言葉に僕はようやく床に擦りつけていた顔を上げた。


「本当にごめん、僕がどうかしていた!」


 思えば昨日の行動だって非常識だった。まだ出会って間もない女性に突然抱きつき、あまつさえ顔を胸に埋める。明らかなセクハラ行為である。

 僕は立ち上がってから再び頭を深く下げた。


「その、本当に気にしてませんから。ミカさんが心配だったのも理解していますし、ヨータさんもそんな気にしないでください」


「ごめん、本当にありがとう」


 僕は最後にもう一度謝ってから、部屋を出た。

 本当は一日中でも謝り倒したいぐらいだが、そういうわけにはいかないのだ。

 僕は一刻も早くミカを助けに行かなければいけない。だから今は時間が惜しかった。

 ギルマスの言葉通りなら、今頃捜索隊の編成が終わり、その臨時のパーティーメンバーと共にギルドで待っているはずだ。

 僕は全速力で走ってギルドに向かった。

 ギルドへの道中で寝ている間の出来事を思い出す。

 僕は夢を見ていた。

 五年前、まだ村にいたころの夢だ。

 ただライオル達と、ミカと皆で村の近くの森で集まってかくれんぼをするだけの内容だ。

 何故今このような夢を見たのかは分からない。本当にありふれた、なんてことはない記憶。

 ただ一つ言えることはあの時、僕たちはまだ普通の、幼馴染としての関係だった。どこで道を違えたのかは分からない。

 でも少なくとも仲は良かった、と思う。

 そんな大したことはない夢だが、その中で一つだけ思い出したことがある。

 

「石、か」


 ずっと魔導士服の裏ポケットにしまっていた小さな石を取り出す。

 本当に小さな指でつまめるほどの小さな石だ。薄紫色にキレイに光っている。

 あの日、かくれんぼの途中でライオルと、ミカと三人で見つけたのだ。三つ見つけてそれぞれ一つずつ。今まで忘れていた。

 僕はその石を固く握りしめる。


「――チクショウ!」


 僕はそんなことを小さく叫びながら人々の雑踏をくぐり抜けていった。





「やぁ、待っていたよ。ヨータ君。時間が惜しいだろうからすぐに打ち合わせを始めよう」 


 ギルドに入るなりギルマスにそう声を掛けられる。彼女は面識のない男女を三人、連れていた。おそらく彼らが今回編成された捜索隊のメンバーなのだろう。

 僕は彼らに近づいて、一緒にギルマスの執務室へ向かった。  

 全員中に入り扉がしまると、まずギルマスから声を発した。


「さて、今回の緊急クエストについてだけど、君たちで一緒に現在迷宮に取り残されている特級探索者、ミカ君の捜索、生存が確認出来次第救出を行ってもらうことになる」 


「「「はい!」」」


 アレクの言葉に男女三人の探索者が返事をする。


「それで、これから君たちと一緒に行動してもらうのが、この子だ。まずは自己紹介をしようか。臨時とはいえ、パーティーを組む()()だ」


 彼女がそう言って僕の方を向くと彼らの視線も僕に集まる。アレクは僕に軽く目配せしてきた。自分から自己紹介をしろと言うことだろう。


「一応、特級探索者のヨータといいます。職は支援魔導士です。これからよろしくお願いします」


 僕がそうかしこまって自己紹介を終えると、今度は彼らが次々に喋りだした。


「俺はヨシヤ、上級探索者で職業は剣士だ」 


「私はアリサよ。同じく上級探索者で職業は攻撃魔導士、よろしく」


「僕はセイジ。職業は大盾士だよ。僕たちは三人でパーティーを組んでいる。リーダーはヨシヤだよ」


 最初に名乗った男前なイケメンはヨシヤといい、彼らのパーティーでリーダーをしているらしい、その引き締まった風貌にある優しげな表情からは人の良さが伺えた。

 続いて名乗ったアリサという女性は、ナギサさんと同じ黒髪で少しキツめの印象を受けるが、大人な雰囲気を漂わせている美女といった感じの容姿だ。彼女は僕と目が合う軽く会釈をしてくる。僕も同様に会釈を返した。

 最後に名乗ったセイジという青年はいかにも優男といった風の雰囲気だ。彼も例に漏れずイケメンだ。

 正直、彼らは嫉妬してしまうくらいの美男美女で揃えられたパーティーだった。


「忙しい中、わざわざ他人である僕たちのために招集に応じて下さり本当にありがとうございます」


 僕はまずお礼を述べる。彼らにはこれから少なくない危険が伴うだろう。本来なら冒す必要のないリスクだ。それでも彼らは応じてくれたのだ。

 最低限、お礼を述べるのが礼儀というものだろう。

 僕が頭を下げると、ヨシヤは飄々とした態度で謙遜してみせる。


「おいおい、よせよ。そんな立派な理由じゃねぇって」


「私達は金に釣られただけよ。そんな頭を下げられるような道理はないわ」


 それに追従してアリサとセイジも僕に気にしないよう言ってくる。


「そうだよ。それに、これから一時的とはいえパーティーを組む仲だ。堅苦しいのは無しにしよう」


 彼らはそう言ってニッコリと笑みを浮かべる。そんな彼らに僕は再び頭を下げた。


「……ありがとうございます」


「それで、だ。ヨータ君のスキルについては悪いけど聞かせてもらったよ」


 一通り自己紹介が終わったところでセイジがそう述べる。それに僕は思わず顔を上げてギルマスの方を見た。

 彼らに話してしまったのか。


「……パーティーを組む仲間に対してまで能力を明かさないのはなんか違うとボクは思うけど?」


 僕の視線に気づいたアレクはそう理由を述べる。

 確かにそうだ。僕は彼らと上手く連携を取っていかなければならない。その上で自らの能力を隠すのは大きな障害となるだろう。


「すみません」


 僕は納得し、アレクに軽く謝罪する。すると、アレクはニカリと、笑って僕を慰めてくれた。


「大丈夫だ。彼らは信用に足る人物だよ。キミが危惧するようなことは起こらないと約束しよう。もし、これが破られるようなことがあればボクが身を持って補償するよ」


「……はい、大丈夫です。では、皆さんは僕のスキルを把握しているわけですね?」


「ああ、全能力二倍だって? 聞いただけですげぇのが分かるぜ。口止めされる理由も分かる」


「あの、それであなた方は上級探索者で、まだ深層に潜ったことが無いわけですよね。……油断はしないでください。僕のスキルがあっても、何があるかわかりません。深層はまだまだ未攻略区域が多数存在しますから。……お願いします」


 僕が言えるような立場ではないが、それでも深層には何度も潜っている。だからこそ、そう注意させてもらった。

 彼らは真面目な顔で僕の話を聞いてくれる。


「ああ、これでも上級探索者だ。それぐらいは心得ているよ。任せてくれ」


 セイジがウンウン頷きながらそう言ってくれる。実に頼もしい。


「じゃあ、そういうことで日程の打ち合わせに……」


「ちょっと待って」


 僕ははやる気持ちを抑えきれず、そう提案するが、彼らに待った掛けられてしまう。


「こっちがあなたのスキルだけ知ってどうするのよ。それじゃ釣り合わないし、連携するならあなたも知ってなきゃ駄目でしょ」


 アリサさんにそう言われてしまう。確かにそうだ。いちいち僕は詰めが甘い。もっと慎重にならなければいけないだろう。


「なんたって仲間だからな。当然だろう? ホラ、これが俺たちのステータスだ。こっちだけ見て自分たちが見せないっていうのもおかしいしな。存分に見てくれ」


「もっとも、君の情報と釣り合うかは別だけどね」


 そう言って、三人は一斉に探索者証を差し出してくる。

 僕は少し躊躇したが、必要なことと割り切り、それを一つずつ確認していった。



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