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第九話 支援魔導士、新人少女と共に変人ギルドマスターに目を付けられる


「三日!?」


 僕たちは今、レベルアップの報告をしに本部に戻っていた。

 受付の女性職員が僕たちの申告に目を見開く。

 しかし、僕は全部本当のことしか言っていないので他にどうすることも出来ない。


「はい、三日です。情報更新をお願いしたいのですが」


「ちょっと待って下さい……嘘、本当に三日!?」

 

 サラの情報が登録されている帳簿を確認して再び驚きを露わにする職員。

 そう、三日だ。歴代最速である。


「すみません、お聞きしてもよろしいでしょうか? どのような方法でスキルアップデートに至る経験値を稼いだのでしょう?」


「サラ、教えてあげて」

 

「え、はい! 今日一日迷宮でスライムを狩り続けました。……それだけです。その、はい」


「スライム!? いったい何百匹倒したんですか!?」


「ああ、そうだ。これが証拠の魔石です」


 討伐数を聞かれたので集めてあった魔石の入った袋をカウンターに置いた。


「これ、全部……?」


 ドンッ、と重い音を立ててカウンターテーブルに置かれたその袋から魔石が数個こぼれ落ちる。職員はその中の一つを拾って袋と見比べる。

 だれが見てもそれが更に数百個以上入っているのは明らかだった。


「一日でこの数をどうやって……」


「……あの、情報更新を」


「あっ、すみません! こちらの用紙に現在のステータスをご記入下さい」


 何か言うたびに驚いて固まられては困る。僕は職員が持ってきた用紙をサラに渡して、記入するように言った。

 

「了解です! ……出来ました」


「はい、確かに承りました。他に御用は?」


 落ち着きを取り戻した職員が僕に聞いてきた。僕もレベルアップをしていたので、その報告をすることを伝えた。


「なら、あなたもこれに……」


 そう言って、ありのままそれを書こうとして、躊躇してしまった。

 絶対驚くよな。スキル効果倍率が五倍以上に上昇してるし、ステータスも上がり幅すごいし。

 だが、虚偽申告は規約違反に当たる。もし、嘘がバレれば即刻除名で再登録不可能である。

 探索者生命を断たれてしまうよりはるかにマシなので結局真実を書いて提出するしかないのだった。


「あの、驚いてもあんまり声を「はぁ!? 全能力二倍!?」」


 ……。


 やりやがりましたよ。言い含めてから見せるべきだった。周囲の注目が一気にこちらに集まる。


「あの、大きい声は……」


「ちょ、これ嘘の申告じゃないでしょうね!? ステータス上昇値も三倍近いし、レベルがたった一上がっただけで得られるステータスじゃないわよ!」


「だから、本当だから大声は……」


「ちょっと探索者証を見せなさい! 場合によっては除名処分も有り得ますよ!」


 話を聞いてくれないよ……。僕悲しいよ……。


 これ以上騒がれるのは嫌なのですぐに探索者証を取り出すと彼女に渡す。彼女は僕の探索者証をむしり取るように受け取ると食い入るように見つめた。


「本当にこのステータスなの……? いくらなんでも、これは」


「ほら、嘘じゃなかったでしょ? 更新をお願いしてもいいですか」


「はい、申し訳ございません……」


 そう言って、やっと更新処理を行ってくれた。

 更新が終わったのを見届けると、僕は深くため息をつく。今日はいろいろと時間を食ってしまった。

 さっきのオークとの決闘といい、早めにクエストを切り上げて正解だったようだ。


「じゃあ、帰ろうか」


 そう言って、サラを伴い宿へ戻ろうと振り返った時だった。


「ねぇねぇ、キミ、ちょっといいかな?」


 ボーイッシュな若い女性が立っていた。僕はこの人を知っている。この人は――。


「なっ、ギルドマスター!? どうしてここに!」


 このギルドのリーダー、ギルドマスターのアレクだった。彼女は叫んだ受け付けの職員の方を向き言った。


「カルナ、個人情報の守秘義務。破ったから減給と異動ね」


「……っ」


 彼女の言葉にカルナと呼ばれた職員はしまった、と言った顔をする。今更自分がやったことに気づいたのだろう。


「ちょ、ちょっと待って……」


「あとでとりあえず説教だよ。奥に行ってて」


「はい……」


 ギルドマスターにそう言われた彼女は、しゅん、と肩を落として奥へと消えて行った。

 ギルマスのアレクは僕の方に向き直ると両手をポンッ、と合わせてニッコリお願いしてきた。


「いやぁ、全能力二倍の支援魔法だって? ボクによかったら詳しく聞かせてくれないかな」





「全能力二倍ねぇ。なんでステータスじゃなく能力って表記なんだろうね? ねえ、ヨータくん。術者なら知ってるでしょ?」


 ヤバイお方に目を付けられてしまった。僕は現在、ギルマスの執務室で、雑談という名の尋問を受けている。

 ハハッ、どうしてこうなっちゃったのかな? ほんとにね……。

 因みにサラも巻き添えを食らって僕の横でカチコチに固まっている。相手がギルドマスターということもあり、緊張しているようだ。


「いや、実は僕もよく分かっていなくて……」


 僕はとりあえず適当にお茶を濁す。推測はついているのだが、正直あまり話したくない。

 実はこのギルドマスター、超絶変人ともっぱらの噂なのだ。

 いや、女の人なのに男言葉な時点でもうなかなかにおかしいのだが。

 この得体の知れない人物に、ペラペラと自分の個人情報を話す気にはなれなかった。


「えー、分かんないのかー。でも、ただステータスを二倍にするだけでも十分強いよね、そのスキル」


 それは言うとおりだ。単純にレベルが数段底上げされるような物なのだ。弱いなんて、口が裂けても言えないだろう。


「そうですね。いきなりここまでスキルが強くなって僕も困惑してます」


「レベル4の時の情報だと、効果倍率は17パーセント。いったい何があったんだい? それだけでもボクに聞かせてくれないかな」


 それを言ったらさらなる質問攻めにあいそうな予感がビンビンしている。僕はもうはやく宿に帰りたくて仕方がなかったため、適当に誤魔化した。


「いえ、普通にスキルアップデートしたら急にこんなに……」


「そうか。……いや、嫌なら詮索するのはよしておこう」


 僕が隠し事をしているのは見抜かれてしまったようだ。しかし、僕が嫌がっているのを察したようで、それを追及して来ることはなかった。

 

「まぁ、ボクにとってスキル内容は個人的にすごく興味があるんだけど、それよりも!」


「はい」


「こんな強いスキルなんか持ってたらすごく目立っちゃうよね。少なくとも複数ステータスを上げる支援魔法でここまで効果倍率が高いのは聞いたことないよ」


 さーせん、もうとっくに目立っちゃいました。あの受け付けの職員さんのせいでね。


「……さっきのことはボクから謝るよ。ボクの職員教育がちゃんと行き渡って無かったからだ。ごめんなさい」


 僕が微妙な表情をしていると、彼女はそう謝ってくれた。


「いえ、もう起こってしまったことなのでどうしようもありませんよ」


「いやいや、こんな形の償いしか出来ないけど、ぜひ受け取ってくれるといいな」


 僕は気にしないようの言ったのだが、アレクがおもむろに財布を取り出すと金貨を十枚ほど取り出して僕に手渡してきた。

 ギルマスだけあってすごいお金持ちだった。金貨が十枚もあれば五年は遊んで暮らせる。それだけの額だ。実は僕が今まで貯金していた額と同じである。思わぬ形で戻ってきたことになるが、なんだか僕の心は悲しくなるのだった。


「それで、だ。ボクはすごく個人的にキミのスキルに興味があるって言ったよね」


 アレクはそういうと一転して黒い笑みを浮かべる。これは不味い。


「あっ、よ、用事思い出したから帰らないと! すいませんこの話はまたの機会に……」


 とっさに逃げ出そうとソファを立ち上がろうとしたが、アレクにがっしり肩を掴まれて立ち上がることは出来なかった。


「いやー、キミのスキル見てみたいなー。明日暇ならボクと模擬戦しないかい?」


 そういえば忘れていたが、ギルドマスターは元特級探索者だった。ちょうど僕が登録した頃に引退して先代よりギルドマスターの座を譲り受けたらしい。

 この人はミカとサラが塗り替える前のレベル2最速到達記録保持者だ。昔から血の気が多い方だったと彼女を知る人は言っていた。

 とどのつまりは、彼女は戦闘狂なのだった。


「いいよね? ね? お願い!」


「えと、その……はい」


 また戦うんですか……。

 

 僕は()()()()()圧力に屈し結局断れず、その頼みを受けることになってしまった。

 仕方がなかったんだ。断ろうとするたびに肩に入る力が強くなるんだもん。


 この人握力やばいよ……肩潰れそうだよ、ほんとに。


 アレクはもはやよだれを垂らしそうになりながら獣のような笑みを浮かべている。普通に美人だからちょっと、いやかなり怖い。


「グフフ、楽しみだなぁ。どれくらい強いんだろうね?」


 ユルサイナイカラナ、職員さんや。





 迷宮の奥底、上も下も、左右すらも曖昧な場所で、オークと頭に角を生やした男が話している。


「まさかお前が勝てなかったとはね。その男はそんなに強いのかい?」


「はい、強力な身体能力を強化する魔法を習得しているようです」


「へぇー、身体能力を大幅に強化する魔法ね」


 オークの報告に関心したように相槌を打つ男。オークは更に自分の経験したことを話す。


「魔法を使った瞬間、ステータスが急上昇していました。俺は身構えていたのですが、動きについて行けず、避けることすら出来ませんでした。……彼が使っていたのはおそらく支援系統魔法の類いでしょう。彼の錬度はかなり高いかと」


「ほう、俄然興味が湧いてきたなぁ。ねぇ、ガロン、その男の名前はなんて言うんだい?」


 男はオークにその支援魔導士の名前を聞く。オークはそれに静かに答えた。


「……横にいた女はヨータ、とよんでいましたが」


「ヨータ、ね。覚えたよ」


 角の生えた男はふふふ、と不敵に笑うのだった。

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