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第一話 支援魔導士、パーティーを追放される


「お前、今日限りでクビな」


 唐突にライオルからそう告げられた。僕は突然の宣告に目を白黒させる。


「えっ、どういうことだよ」


 数瞬の間を置いてやっと言葉の意味を理解し、僕は驚きからライオルに詰め寄った。僕が問い詰めると彼は突き放すような冷たい声で言った。


「言葉通りの意味だ」


 ますます混乱した僕は言葉を失う。呆然と彼の顔を見つめるしかなかった。

 

 ……僕が、パーティーをクビ?


「そうだ、クビだ。お前には今すぐ拠点(ハウス)を出ていってもらう。2時間やるから荷物を纏めろ」


「なっ……」


 ライオルは立ち尽くす僕に容赦なく言葉を投げかけてくる。

 理由がわからないわけではない。だが、それなりにパーティーの一員として貢献はしてきたはずだ。


 ……なのにどうして?

 

「おい、何突っ立ってんだ。早くしろ!」


 いつまでも動かない僕に苛立ったのか、ライオルは語気を強めて急かしてくる。

 パーティーリーダーである彼の言葉に僕は反射的に動き出そうとするが、そこに割り込んでくる者があった。


「ライオル! あんたなに言ってるのよ!」


 幼馴染みのミカだ。乱暴に玄関のドアを開け、ずかずかと僕たちの前までやってくる。燃えるような長い赤髪を、後ろで左右に纏めた彼女のツインテールがぴょこぴょこ揺れた。

 ライオルの胸ぐらを掴むと、ぐいっとその整った顔を鼻がくっつきそうなくらいに近づける。


「なんでヨータがクビにならなきゃいけないわけ? 今までちゃんと働いてたじゃない」


「役立たずの無能をクビにすることの何がおかしい」


 そのまま二人の激しい口論が始まった。僕はただ見ていることしかできない。ミカは僕のことを必死に庇ってくれているようだ。


「はぁ!? ヨータが役に立たなかったことなんて無いわよ! 今まで誰のおかげでここまでやってこれたと思うのよ」


 そんな彼女の言葉にライオルは心底嫌そうに顔を歪める。そして彼女が首元を掴んでいる手を無理矢理取り払うと、僕の方を向いて告げた。


「おい、手を止めるな。もうお前はパーティーメンバーじゃないんだから早く出てけ」


「ちょっと、無視しないでよ!」


 ミカが再びライオルに掴みかかろうとすると、彼はそれを遮るように怒声をあげた。


「ここまでやってこれたのは俺の、俺自身の力だ! こいつの力なんかじゃない!」


「でも、ヨータの支援魔法があったから……!」


「あんなゴミみたいな支援魔法なんかなくてもやっていけたと言っているんだ! そもそも他の支援魔道士より成長も遅い、効果も悪い、ただでさえお荷物なあいつらの中でも更にお荷物だ! こんな無能を守りながら戦うのはうんざりだ」


「なんでそんなひどいこと言うのよ……私達はみんな仲間でしょ? 生まれた時から今まで一緒にやってきたじゃない!」


 髪色と同じ紅蓮の瞳を潤ませるミカ。だが、ライオルの顔は冷たい無表情のままだった。


「パーティーリーダーは俺だ、文句は言わせない」


「……いくらリーダーでも独断で行動するのはっ」


「だってさ、お前らはどう思う?」


 更に食い下がろうとするミカの言葉を聞くと、ライオルが誰かに同意を求めるように話をふった。

 それと共に部屋に入ってきたのは、……その、パーティーメンバーのミーナとガレだ。二人はライオルの決定には肯定的なようだった。


「いいんじゃない? クビでさ」


「……俺はどちらでもいいが」


 ミーナはニヤニヤと口元を歪めながら、ガレはすまし顔である。どちらにしろ、僕のことをクビにすることに不都合はないみたいだ。


「二人まで! なんで……」


「正直言ってさ、役立たずのくせに仲間ヅラされるの嫌だったんだよね」


「ヨータは役立たずじゃ……」


 ミカはなおも庇ってくれようとするが、もう先程の勢いはなくなってしまっていた。ミーナはニヤニヤ顔を崩さないまま続ける。


「だって、私達のスキルレベルはもう9なんだよ? それに比べてヨータはまだたったの4。どう考えてもお荷物だよね」


 そうだ。皆がとっくにレベル9になっているのに、僕はわずか4。3年掛けた結果が4なのだ。

 レベル9と行ったら最高レベルの1つ手前である。僕以外のパーティーメンバーは探索者の中でもかなり上位に位置しているのだ。

 したがって、僕達は特級探索者の指定を受けている。その中で中堅探索者の平均にすら達して居ない僕はお荷物であると、皆はそう言いたいのだろう。


「支援魔道士にしたっていくらなんでも遅すぎでしょ。私達が()()から今までやってこれたものの、流石にねぇ?」


 言うとおりだ、彼らは強い。

 ライオルは大剣士、ミカは細剣士、ガレは盾槍士、ミーナは攻撃魔導士。

 どれも人気職であり、大抵の人はこれらを選ぶ。

 だが、僕は超絶不人気職の支援魔道士だ。普通は誰も選ばないような物を選ぶしかなかったのはある理由があった。


 僕にはスキルが1つしかない。


 大抵の人は2つ以上持っていて、どちらかが戦闘系スキルであるはずなのだが、僕は支援魔法スキルが1つだけ。しかも効果倍率が通常の支援魔法より低い。

 戦闘スキルの内容や支援魔法の内容などは人によって違うのだが、それでも平均をかなり下回っていた。


「……っ」

 

 流石にミカも反論出来ず口ごもってしまった。


「で、ミカはなんでそんなに必死なわけ? もしかしてぇ、ヨータにゾッコンだったり?」


 ミーナが茶化すように言った。するとミカはみるみるうちに顔を赤くしてから、慌てて否定し始める。


「な、何言ってんのよ! 誰がこいつなんか! ……そういう訳じゃなくてただ、仲間として私に必要だと思ったから。……とにかく! こいつはただの友達よ友達! 間違ってもそんな関係にはならないわ!」


 そこまで必死に否定されると傷つく。彼女の後ろで僕があっさりと失恋していると、ミーナは興味なさげに鼻を鳴らす。


「ならいいけどさ。とにかく、無能に食わせる飯なんかないの。わかったらもういいでしょ」


「……ちょっと、ヨータも少しは何か言いなさいよ! あんた本当にこれでいいの!?」


「……」

 

「黙ってないで何か……」


「もういいよミカ。僕は大丈夫だから」


 僕はそう言ってミカを止めると荷物をまとめ始めた。これといった趣味もなく、お金はほぼすべてを貯金にまわしていたため、大した物もなくすぐに詰め終わった。


「――やっぱすげぇよミカは。誰より仲間思いで、誰より強くて、……レベル9到達歴代最年少だもんな。ずっと僕の憧れだったよ。でも、僕にはもう無理だ」


 ミカに背を向けながら纏めた荷物を1つ1つ背負っていく。


「もうどんなに追いかけても、みんなに、ミカに追いつくことなんかできない。だから、終わりにしよう」


「ヨータまで……もう知らない!」


 彼女は泣いていた。泣きながらそう言うとハウスを出てどこかへ駆け出した。


 ――最後の最後で嫌われてしまったな。


 そう思いながら、自分が今まで貯めていた貯金を取りにメンバー共同で使っていた金庫へ向かう。開けて中身を確認して――


「……僕の貯金は?」


 無かった。僕の貯金全額が。


「はぁ? 何言ってんだお前。無能に払う報酬なんか端からない」


 ライオルがそう告げる。


「ふざけんな! 返せよ!」


 だめだ、それだけはだめだ。何かあったときのためにずっと貯めていたお金なのだ。それがなければ僕はほぼ文無しだ。

 取り替えそうとライオルに掴みかかろうとする。

 しかし、レベル4で、しかも非戦闘職の僕はライオルにあっさりと避けられてしまう。

 

「うっ」


 ガツン、と僕の頬に強い衝撃が走る。どうやらライオルに殴り返されたようだ。

 動きが見えなかった。それだけの実力差が、そこにあった。

 ライオルは僕を引き倒すと、更に殴りつけてきた。はげしく、何度も拳や蹴りを加えられる。


「お前さ、無駄飯喰らいのくせに生意気なんだよ……ゴミクズ野郎が!」


 彼がそう言って僕を殴る手を止めると、それを眺めていたミーナが近づいてきた。そして、僕の目の前に何かをポトリ、と落とす。

 

「……ぁ」


「ごっめーん、もう使っちゃった!」


 それは空っぽになった僕の貯金を入れていた袋だった。もう声も出せない僕を引きずって、ライオルはハウスの玄関までやってくる。

 そして僕を外に放りだすと、言った。


「じゃあな。無能魔道士君」


 それきりドアは閉まり、辺りに静寂が満ちる。

 音といえば遠くから聞こえてくる街の喧騒ぐらいだ。

 僕は痣だらけで痛む体を引きずりながらその街の方へと歩き出すのだった。






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