12
「もう、そろそろちゃんと話そうか。悪かったわよ、返事しなくて」
家に帰ってきたので前向きにむずんでいた髪をほどいて視界を広くしようとしていたら、すぐにレアンが後ろから抱き着いてきて、私はレアンの両腕につかまったまま部屋の中に腰を下した。
「レアン、もうやめて。いやなの。私は。あなたと一緒にいるのが」
「その理屈がわけわかんねえんだよ」
私は、レアンにすべてを話していた。はじめて会った日、レアンが初めて私の壁のこちら側に入ってきたとき、
「で、俺と付き合うという可能性はない?」
と訊かれた。あの、私が大好きな笑顔で。
「あるけど」
と答えてしまった私が悪い。でも仕方ない。運命だから。レアンはどう考えても私の運命の人だから。
その日のうちにレアンは私の家に泊りに来て、そして私は何もしないで、と頼んだ。はい、とレアンは言った。
理由を訊かないの。と私は尋ねた。そうしたらレアンは、訊かないよ、と言ってやっぱり嬉しそうにしていた。
「何もしてほしくない女の子だっているだろう。わざわざ突っ込んで聞いたりしないよ」
でも、いつまででもじゃなかったらいいんだけどな」
「私は聞いてほしいのよ」
私が悪い。全部話してしまった私が、どうしたって全部悪い。
「お前が不幸でいなきゃいけない理由を、俺なりに考えていた。でも、どうしたってさっぱりわからねえよ。俺には理解できない。バカだからな。考える事なんて一つだ。俺は雨と一緒にいたい。俺は人といるのが好きだ。人間をやってるのが好きだ。でも一番大事なのはお前だよ、雨。もう俺を避けるのはやめてくれないか」
「私はこうして会いに来るのをやめてほしいのよ」
レアンの体が軽かった。痩せてしまった? と不安になった。でも顔が見えないから良くわからない。私は体の前に回されているレアンの腕に自分の手を添えた。すると反対の手ですぐに掴まれた。
「やっぱりあの兄貴のためなのか」
「言わなくても分かってるなら、いい加減理解して」
「しない。そんなことはしない」
じゃあどうするの、と言おうとしたとき、
「やっぱりお前はもっと俺のことを知れ!」
突然体を持ち上げられて、案外力があるのね、と呑気に思っていたらすぐベッドまで運ばれて寝かされた、レアンが私の上に覆いかぶさってくる。同じことをされるのは二度目なので感動も何もない。
「何を知るの? 全部話したし、レアンの言いたいことはみんな聞いているわよ。これ以上何を知ればいいの?」
レアンは答えずに私の唇に自分の口を押し付けてきた。そして舌で言葉を抑えられて、私は初めて体全体がこの人のことを拒んだ。
こんな風にレアンと肉体交渉するのは初めてだな、なんて冷静だったのは一瞬で、私は必至で顔を背けてレアンの体から逃げよとした。これがファーストキス。酷いもんだわ、と思いながら。でもレアンは私の両手をしっかり掴んで、離してくれない。なんて力。逃げられない、私は
「だから何かしたら警察行くっていったでしょう」
と言い返すので必死だった。レアンがこれからしようとしていることがいやで仕方が無かった。感覚よりも感情よりも、いっそ本能よりももっと深いものがレアンの体をいやがっていた。恐怖、だった。レアンは暴力は振るわないだろう。でも私の力じゃレアンから逃げられない。
「いいよ、一緒にいくよ。警察。でもその前に俺の事を知ってくれ」
「いや! 本当にいや。何よこないだまでどこの女でもよかったくせに。急にしみったれて、どうかしてるわよ!」
「そうだよ。どうかしちゃったんだよ。雨がそばにいてくれないからな。でも俺だっていやだよ。お前があの兄貴の側にいるのは。俺の事をちゃんと理解しろ。そうしたら、お前だって変わる」
「そんなの勝手な言い分だわ」
レアンは片手で私の両手を掴んで枕に押さえつけている。そしてもう片方の手がスカートの中に入ってきた。
「だから止めてって…」
「止めないよ」
「犯罪者!」
「ああそうだよ」