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人外と少女の短編集  作者: 捨妖の巣
1/1

アシュリーとチトセ

 カーテンの隙間から朝日が差し込み、私の顔を照らす。

 それだけでも私は起きるのだが、私には朝日の他にも心強い味方がいる。


『チトセ、朝日が昇っているよ』


 声の主は、アシュリー。私の友達で、毎朝欠かさずに私を起こしに声をかけてくれる。

 アシュリーに声をかけられて、私は体を起こす。それが私の日課。


『時刻を確認してくれ。ボクは見れないからね』


 アシュリーは少し特別な友達だ。彼が男か女かは、まだ私にはわかっていないが、男性的な口調から男として見ている。

 ひょっとしたら私の口調を真似ているのかもしれない。だとしたら、私は自分が思っている以上にぶっきらぼうで男性的だ。


「おはよう、アシュリー。今は……朝の5時だね。これから夏だから、しばらくは起こすのはもう少し遅くてもいいよ」

『おはよう、チトセ。もうしばらくしたらね。君は準備に時間がかかる、今はまだ早いよ』


 挨拶を交わして、私は彼を身に着ける。

 私の少し特別な友達。アシュリーは、腕時計だ。


*-


「そろそろアシュリーも自分で自分を確認出来て良いように思うのだけれど」


 私は学生服へと着替えをしながら、彼に少しばかりの不満を漏らす。

 彼は不思議なことに、周囲の風景を見ることはできても、自分自身を確認できない。


『そう思うなら、部屋に鏡を飾ってくれ。鏡越しならボクだって時刻くらい確認できるさ』


 それもそうだ、と納得する。周囲を確認できるなら、部屋に鏡を置けばいい。


『チトセ。君だって鏡を見なければ、自分の顔を確認できないだろ。ボクだって同じことだよ。それにボクもチトセには言いたいことが』

「わかった、わかった。この話はおしまい」


 嫌な流れになりそうだったから、強引に話を断ち切る。

 アシュリーは少し強引なところがある。誰に似たのやら。


*-


 朝ご飯は適当に、コーンフレークに牛乳をかけて、はいおしまい。

 お昼は何にしようか、と思いをはせていると、アシュリーが不機嫌そうな声を出した。


『チトセ、朝ご飯はちゃんとしたものを作って食べなさい』


 アシュリーは友達だけでなく、母親役も兼任するつもりなのだろうか。

 だとしたらありがたいこともあるのだが、ことここに至ってはありがた迷惑だ。


「アシュリー。コーンフレークは栄養バランスがしっかりしている、ちゃんとした朝ご飯だよ」


 私はコーンフレークの箱に書かれている栄養成分を、アシュリーに見えるように置いて解説する。

 しかしそれを見てもアシュリーはまだ、不機嫌そうに言うのだ。


『ボクは認めないよ。朝ごはんはきちんと……そうだね、トーストを焼いて、卵とベーコンを焼いて、トマトとレタスのサラダを添えて、紅茶でも飲むべきだ』

「アシュリー。私は貴族のお嬢様じゃなくて、ただの日本の女子高生だよ」


 アシュリーの理想は、私にはだいぶ高いものだ。


『ボクは普通の日本の家庭を想定して言っているよ』

「よそはよそ」


 私はアシュリーの理想論に終止符を打った。

 こう言えばアシュリーだって黙るのだ。不機嫌な様子は隠さないが。


*-


 朝ご飯を終えて、食後の歯磨きも済むと、私は家を出る。

 家を出て少し歩くと、交差点が見える。私は交差点を渡らずに、そこで少しばかり待つ。

 しばらく待っていると、交差点の角から見知った顔が出てくる。


「チトセちゃん、おはよー!」

「おはよう、ミヨ」


 彼女は私に気が付くと、間延びした声で、笑顔を振りまいて私に声をかける。

 それに私は返事を返して、並んで学校へ向かうのだ。


「それでね。スマホがあったら、高校でももっと友達できたかもーって言ったらね、リンちゃんが拗ねちゃうだよー。ははは……はぁ」


 通学路を進む。雑談をしながら。その話の中で、ミヨは少し困ったような笑みを浮かべて、ため息を吐いた。

 リンちゃん、と彼女がいうのは、彼女の困った幼馴染だそうだ。

 私と話していても頻繁に出てくる名前で、私はそのリンちゃんとやらにはまだ会ったことがない。

 ミヨのことは私もかわいがっている手前、その関係には少し、妬けてしまう。


「スマホなんかで拗ねるとは、ずいぶん個性的な恋人だね」

「こ、ここ恋人じゃないよー!」


 私の軽口に、ミヨは顔を真っ赤にして反論する。


『……チトセ』


 ミヨをからかっていると、アシュリーが少し不機嫌そうに、私にだけ聞こえるくらいのか細い声で私の名前を呼ぶ。

 アシュリーは私がミヨをからかうのはあまりよく思っていないようだ。

 アシュリーは私以外の前では、めったに喋らない。そんな彼がわざわざ声をかけるくらいだ、そうとう不機嫌なのだろう。


 何故彼は不機嫌なんだろう。ひょっとしたら、アシュリーもまた、ミヨにうつつを抜かす私に妬いているのかもしれない。

 だとしたら、彼には悪いが、私はそれを嬉しく思う。それだけ彼に大事にされているということだから。


 ひょっとしたら、の空想に思いをはせて、私はアシュリーとミヨ、二人と一つで、通学路を歩く。

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