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プロローグ 『「世界」の終わり』
――ああ。
手首から生温かいものが、ドクッ、ドクッと流れてくる。
真紅に染まった〝それ〟は腕を伝い、体を這うように汚していく。
――痛い……痛い、痛い痛い痛い熱い寒い痛いいた、い……でも、気持ちいい……
生温かい〝それ〟を肌で感じる度に、気持ちが楽になっていく。
普段ならば不快感しか覚えないであろう鼻の奥に突き刺さる強烈な鉄の匂いも、今は心地よい。
――だけど、足りない。これじゃあ、足りない。
その程度でどうにかなるレベルは疾うに超えてしまっていた。
「はあ……はぁ、はぁ…………」
熱い息を吐き出しながら、少年はその手に持つものを、奥へ、奥へと進めていく。
ぐちゃ、ぐちゃっ……っ……
突き進む度に感じる痛みは、現実から切り離されていくような不思議な快感を与えてくれる。
逃避。
全てに絶望していた。
辛く苦しいだけの現実から逃げ出したかった。
だから……
「これで……やっと、終われる……」
止まることなく突き進んだ〝それ〟は取り返しのつかないところまで……
この日、一つの『世界』が終わりを迎えた。