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番外編 仲良きことは

魔王討伐前。


「あれ、どう思う?」

「仲良きことは美しき哉。って、やつじゃねえの」

 シャロンの問いに、にやにやしながらバルドが答える。

 出発準備をしながら二人が見つめるのは、言い争いを続ける旅の仲間たちだ。

「いいから、さっさと治せっつってんだよ!」

「だからこれくらい平気だって言っているでしょ」

「どこがだ、この馬鹿! 血が出てんだろうがっ」

 彼らが話しているのはフィオドラの頬にできた引っ掻き傷についてだ。

 昨日から森で野営をしているのだが、どのタイミングにだか枝に引っ掻けたらしい。

 血がにじんでいると言っても、指摘されるまで自分で気付かないくらいの小さな傷だ。魔物と戦ってばかりの彼らにとって、確かに怪我とは言えないくらいのもの。

 フィオドラが平気だと言うのも頷ける。

「治癒なんてかける程の傷じゃあないわ」

「はぁ!?てめぇ、魔力なら有り余ってるだろうが!」

「そういう意味じゃなくて、免疫力の問題……」

「いいから黙って治しやがれ!」

 頭ごなしに言うアレクシスに頭にきたのか、フィオドラがすっと目を細めた。

「確かに些細な傷さえ魔法で癒すことは可能よ。体を壊さないために水も食べ物も浄化だってできる。でもそうすることによって、なにが起きるか分かる?」

「だからっ」

「免疫力の低下。自己治癒力が下がって、そのうち僅かな怪我でさえ命取りになる。出来るからといって一つの力に偏って依存することは、あんまりにも短絡的すぎるというものよ」

「……」

 フィオドラの言うことは正論だ。

 同時に、彼女はアレクシスが本当に言いたいことを分かっていない。

 だがその責任はアレクシスにもある。

 言葉足らずであるとともに、彼自身もまたなぜ自分がフィオドラの怪我に対し、それほどまでに怒りを覚えるのか分かっていないのだ。

 このままだと平行線のまま日が暮れそうだ。

 シャロンは睨み合いを続ける両者の間に割って入り、彼らが口を開く前にさっさとフィオドラの傷を治した。

「シャロン」

「まあ、今回は折れてあげてよ」

 困った顔をするフィオドラに、にっこりと笑う。

 傷一つない彼女の肌を一瞥し、アレクシスが背を向ける。

 その肩から力が抜けたのを見て、シャロンは苦笑した。

 ――女の子なのだから、顔に傷など作るなと素直に言えば良いものを。

 素直でもない上に、自分の気持ちにも気づいていないのだから難儀な男だ。



「おおーい、出発すんぞー」

 荷物をまとめ終わったバルドが声を上げる。

 各々荷物を担ぎ、いまだ機嫌の直らないアレクシスと納得しきれていないフィオドラの背中に、シャロンはため息を飲み込んで苦笑した。

 魔法でも治すことのできない病。友が自覚症状に気づくのはいつになるのか。

 出来ることなら、その病が彼女に感染することを――――。


 シャロンは敬ってはいても崇拝はしていない神様に祈った。




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