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番外編 星降る夜に出逢う 1

番外編。

彼らと彼女の邂逅のお話。



 頭上の岩壁にへばりついていた魔物の気配は把握していた。

 わざと気を抜いたように息を吐いて見せれば、機を窺っていたそれは好機とばかりに飛びかかってくる。

 下げていた切っ先を跳ね上げて魔物の体を両断し、アレクシスは今一度、残った魔物がいないか気配を探った。

 魔物が子供たちを拐ったと騒ぎになってから一刻ほど。巣についたときには微かに赤みを帯びていた空はいまや完全に星々の時間となっている。

 魔物が巣にしていたのは、森の中の洞窟だ。

 蔦が這い葉が生い茂って一見わからないが、いくつもの巨大な岩が固まってできた大きな岩山がある。その岩と岩の隙間にできた洞窟は迷路のように入りくんでいて、数匹の魔物が根城にしていた。

 連れ去られた子供たちは、その洞窟のほぼ中央。暗い洞窟内にあって、竪穴から光が差し込む場所に集められていた。

 魔物がどうしてそのような場所へわざわざ子供たちを連れてきたのかは知らないが、アレクシスたちには好都合だった。

 竪穴から侵入し、子供たちの安全を確保してから魔物を退治していく。

 洞窟内を進んだのなら、どれほど気配を消したのだとしても途中で侵入者に気付かれて、子供たちの何人かは魔物に喰われていただろう。

「アレク。終わった?」

 竪穴に向かっていたアレクシスは正面からやってきたシャロンに顔をしかめた。

「なんでお前がここにいるんだよ。ガキどもはどうした」

 打ち合わせでは、アレクシスとバルドが魔物を殲滅しているあいだ、彼が子供たちを守っているはずだった。

 シャロンは面白がるような顔で肩を竦めた。

「僕より適任がいたからね、任せてきたんだよ」

「適任だ?」

 アレクシスは不審も顕に声を上げた。

 子供たちを助け出すのに名乗り出た傭兵たちは、どれもこれも足手まといになりそうな連中ばかりだった。

 これは、彼らが無能なのではなくアレクシスたちが強すぎるゆえである。

 そんな中に、シャロンに任せるに足ると思わせる者がいたことが驚きであった。

 薄暗い洞窟を並んで歩いていると、ほどなく目に入ってくる光量が増えてきた。

 竪穴に出たと見て顔を上げたアレクシスは、微かに吹き付けた風に息を止めた。



 岩壁に囲まれたその場所は、頭上から入り込んだ土から草が伸び、苔が生えた命の気配がする場所だった。

 星明かりがあるといっても十分な視界を確保できるほどではない。

 だが、輪郭が陰に溶け込むその中で、どうしてかその女の姿ははっきりと見て取れた。

 漆黒の髪、黒い魔道士のローブを着ているのに、僅かな星の光に照らされて佇む姿は神秘的ですらある。

 ――なぜだか、その姿から目が離せない。



 ふわりと頬を撫でる先ほどと同じ風が、柔らかな魔力であると気づく。

 杖を持って立つ彼女の後ろに子供たちが固まっているのが見える。彼女と彼らを囲むように草が揺れ、小さな光が立ち上っているのは、そこに結界を張っている証拠だろう。

 冷静に女の周りを見て、自分でさえその結界を打ち破るには苦労するだろうと考える。

 かなりの力を持った魔道士だ。

「何者だ?」

「さあねぇ」

 剣呑に問うアレクシスに、シャロンは呑気に首を傾げた。

 ふと彼らの気配に気付いたか、女の目がこちらを向いた。

 色までは分からないが、意志の強そうな眼光。引き結ばれた口元、丸みを帯びた頬、小造な相貌。まだ十代後半の少女だった。

 彼女に向かってシャロンがひらりと手を振る。

 少女がひとつ頷いて杖を下ろした。結界が解けると同時に、大勢の人の気配が近づいてくる。

 後続の傭兵たちがようやく到着したようだ。

 竪穴の壁にはいくつもの穴があり、そこから洞窟が伸びている。

 風の通りから、アレクシスがいた洞窟は行き止まりのようだったが、外へ繋がる穴も幾つもあるのだろう。

 改めて、いまは子供たちを宥めている少女をみやる。

(あの女、俺たちと同じように竪穴から降りてきたのか)

 傭兵たちよりも早く来ていたということは、そういうことだろう。

 シャロンがぽんと手を打った。

「あ、バルド迎えに行かなきゃだ」

「あ?」

「どうせまた血みどろになってるでしょ。そのままこっちこられると子供たちが怯えちゃう」

「……ああ」

「アレク?」

 反応の悪いアレクシスをシャロンが訝しげに見てくる。

 アレクシスは頭を振って意識を切り替えた。

「ガキどもはあっちに任せればいいだろう。もう魔物はいねぇんだしな」

「そうだね」

 頷きながらも、シャロンはなにかを考えるようにアレクシスの顔を凝視し、いままさに竪穴に入ってきた傭兵たちや魔導士の少女をみやる。

「やっぱ、アレクはここに残っててよ」

「は?」

「バルドは僕が迎えに行くから。君はあっちよろしく」

 そう言って傭兵たちを指差す。

「報酬の交渉よろしく。ちゃんと取り分とってきてよ」

「はあ!? それはお前の仕事だろ!」

「戻ってきたら、合流するからさ」

 アレクシスの反論など聞かず、シャロンはさっさとバルドがいるはずの洞窟へ走っていく。

 アレクシスは舌打ちして、傭兵たちの方へ体を向けた。



 子供と向き合う少女とは、それから結局一度も目が合うことはなかった。




明日、21時。残りをUPします!

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