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奪還会議

 城に戻ってシャロンとバルドに同じ話をすると、やはり難しい顔をされてしまった。

 暖炉前のローテーブルをコの字に囲むように長椅子と一人用の椅子があり、長椅子にフィオドラとアレクシスが、彼女の隣の椅子にはシャロンが、その反対側のアレクシスの隣にはバルドが座っている。

 この位置がいつのまにか出来上がっていた四人で座るときの定位置だ。

 神官服の裾を捌いて優雅に足を組んだシャロンが、自分の眉間の皺に触れる。

「国王の杖って、確か国宝に指定されていたよね。普段はたぶん、警備の厳重な宝物庫かなんかに保管されてると思う。そこから盗むのは至難の業だよ」

「まあ、やってやれねえことは無いけどな。警備の人間をぶっ殺して、宝物庫ぶち壊して、そのままとんずらすれば良いだけの話だろ」

 バルドが気楽な口調で言う。

 確かにこの四人ならそれも出来るだろう。けれどその場合、王宮側にかなりの被害が出るはずだ。自分たちだって無傷では済まないだろう。

「なるべくならあまり大事にしたくないの。国宝を奪うのだから無理な話だっていうのは分かっているのだけれど、これ以上このことで無益な血は流したくないわ」

 犠牲になるのは、魔王であった父の命で最後にしたい。

 こんなこと魔王を討った彼らの前では決して言えないが、それでもフィオドラの心情を察したのか、部屋に神妙な空気が流れる。

 その空気が落ち着かないのか、バルドが顔を顰めながらがりがりと頭を掻いた。

「でもよぉ、そもそもそれって絶対取り返す必要あんの? 魔物が寄ってきちまうなら、人間にくれてやっちまった方が良いんじゃね」

 それも一つの手だろう。魔物の被害がまだまだ多いとは言え、年々魔界でその数が減ってきていたのは事実だ。

 魔人が魔物を差し向けていると思われるのは業腹だが、あと十年もすると、人間側も魔界に勇者を送り込んでくる余裕も無いほど被害が拡大するだろう。

 しかしあの宝玉は、魔人にとってとても特別な物でもあるのだ。利便性、その一点だけを考えて決断することは出来ない。

 アレクシスが馬鹿にしたように鼻で笑った。

「人間ってのは、集団になると自分の非は絶対に認めたがらねえ。魔物に襲われるのが自業自得の結果だとして、結局恨みは魔人にいく。どうしてそれに、フィオドラたちが付き合わなきゃなんねえんだよ」

 その通りだ。たとえ余裕が無くなっても、被害を受けた人間の憎悪は魔人に向かってくるだろう。

 逆恨みもいいところだが、憎しみは獣に対するよりも人に向ける方が形にしやすい。

「あと自業自得なのはログゴートだけだしね。他の国にはいい迷惑だ」

 シャロンの指摘に、バルドは肩を竦めた。

 魔界が頂点に魔王を置いてほとんど一つにまとまっているのに対して、人間界にはたくさんの国があり、それぞれが独立している。

 その中でログゴートは人間界の中程にあり、魔界からログゴートに至る中間点の国々は真実被害者だと言えよう。

「取り返すわ、絶対。何があっても。お願い、手伝って」

 彼女の願いに、三人はそれぞれフィオドラを見返した。

「もとからそう言ってるだろうが、馬鹿」

「俺も別に構わないぜ。楽しそうだ。シャロンもだろう」

「もちろん。あ、でもちゃんと報酬は貰うからね」

 フィオドラはしっかりと頷いた。あれが帰ってくるのなら、どんな見返りも惜しまない。

「宝物庫を破るのは止めた方がいいと思うの。昨日の武道会には持ち出していたのだし、何かの式典などには手に持つのでしょう?」

「確か、あの祭杖は現王に代替わりしてからの物のはずだよ。ログゴートが他国との戦争に常勝し始めたのもその頃だね」

「フィオドラの話と一致するな」

「そう。だからあの杖は強さの象徴なんだろう。国民が知っているかはともかく、国王にとってはさ」

 シャロンの説明に納得がいく。

 権威を示したいときこそ、人は力を手元に持っておきたいものだ。

「じゃあ、またそういう式典とかがあるまで待たなきゃならんの? まどろっこしいなあ」

「やっぱりさっさと宝物庫を壊すか、国王を脅すかして手に入れればいい」

「ちょとちょと、バルドもアレクも。そんな物騒な目をしないでよ。それすると後々が面倒だっていう話をしたでしょう」

 面倒うんぬんの前に、殺生が起きるのを防ぎたいと思っているのだが。

 フィオドラが宝物庫破りはしないともう一度言おうか悩んでいると、ふとバルドが何かを思い返すように首を捻った。

「あれ? でもよ、俺たちが謁見の間で会ったときは持ってなかったよな。それこそああいうときに持ってそうなもんなのによ」

 それは勇者が凱旋報告をしたときのことだろう。

 確かにそういう時こそ振りかざしそうな物だが、フィオドラには国王がそうしなかった理由が思い当たった。

「それは、緋命石が……」

 フィオドラの言葉は、室外から聞こえてきた慌ただしい足音に遮られた。

 次いで荒々しいノックとともに男の声がする。


「勇者様! いらっしゃいますか、勇者様っ。大変です。東の国境に、大量の魔物が出ました! どうかご助力くださいっ!」



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