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「な、汝、これからも天空神ラスティエの教えにのっとり、たゆまぬ努力と隣人への友愛を心がけるか?」

 再びライの頭上に杖を掲げる。

「はい、司祭様」

 今度ははっきりした声で応じる。

 しかし杖の先に青い光は灯らない。

 ようく目を凝らしても、小指の爪の先程の光も見えない。

 勉強の成績はあまり良くないライだが、場の空気を敏感に察する能力はある。

 それは野生の勘と言っても良いものだった。

 これはまずいぞ、とライは頭で理解する。

 見かねた先生が老司祭に声をかける。

「老司祭様、今は彼の体調があまり良くないのかもしれません。後の生徒を先にまわしては?」

「う、うむ」

 老司祭は杖を握り直し、先生の言葉に従う。

 ライの後に並ぶ生徒に向き直る。

 杖を向けられた生徒の顔に不安の表情が浮かぶ。

 生徒は胸の前で両手を握りしめ、口の中で必死に天空神の名前をつぶやいている。

「ラスティエ様、ラスティエ様。お助け下さい」

 老司祭は以前とは違い、険しい顔つきで生徒を見つめている。

「汝、これからも天空神ラスティエの教えにのっとり、たゆまぬ努力と隣人への友愛を心がけるか?」

「は、はい」

 不安げな生徒は勢い込んでうなずく。

 老司祭の持つ杖の先にぽうっと青い光が灯る。

 光は聖堂中に広がり、夜の帳が降りたように青一面に染まる。

 長椅子に座る生徒たちからどよめきが起こり、杖を向けられている生徒の口から安堵の溜息が出る。

 青い光はぱちりと弾け、星となって降り注ぐ。

 老司祭の表情にも柔らかさが戻り、八人目の最後の生徒に向き直る。

「汝、これからも天空神ラスティエの教えにのっとり、たゆまぬ努力と隣人への友愛を心がけるか?」

「はい、司祭様」

 聖堂は海の中のように青い光が包み、やがて消えた。

 最後の生徒までの洗礼の儀式が終わり、老司祭は深く息を吐き出す。

 ライはそれを見て、嫌な予感を覚える。

 結局青い光が灯らなかったのは、ライだけだった。

「ライ・ガウェイン」

 ライは険しい顔の担任の先生に睨まれる。

「この後、聖堂に残りなさい」

 洗礼の儀式が終わり、生徒たちがそれぞれの部活や寄宿舎に散って行く中、ライは担任の先生や校長、老司祭と共に人気のなくなった聖堂に残っていた。

 担任の先生や校長の見守る中、老司祭が何度もライの頭上に杖をかざしたが、ついに青い光が灯ることはなかった。

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