3話 魔物スパイスカレー
お久し振りの投稿です!
気まぐれではなく執筆再開となります。
詳しくは活動報告をご覧下さい
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カムイがその香りに気が付いたのは全くの偶然であった。
仮にも飲食店を経営している身なのだから、当然近くの飲食店には足を運んでいる。最近は『異世界奴隷食堂』の影響か新作を作って客を呼び込むという流れが出来ており、カムイも他店舗の研究にも余念がない。
その流れで行けば必然とも思えるかも知れないが、カムイがその香りと出会ったのは飲食街ではなく特殊なアイテム、それこそ魔物のアイテムだったり怪しげな呪物が置いてあるような裏通りだったのだ。
「ひっひっひっ、いらっしゃい……」
店に入ると、一般人であれば鼻をつまむほどの異臭がカムイを出迎えた。その臭いの原因は、何やら店主らしき老婆がゆっくりかき混ぜている鍋にあるらしい。
(これは……やっぱり間違いじゃなかったか)
あいにく鍋の中身は確認出来なかったが、カムイは店先に並べてあるものを見て確信していた。
ーーーーこれは間違いなく、カレーであると。
「おばあさん、これは?」
「ひひ、こっちは強壮薬さね。若者には不要かも知れないが、萎れた爺も元気になる強い薬だよ」
「ふむ……」
カレーに使用するスパイスは確かに滋養強壮の薬でもある。カムイの見立て通り、ここにあるスパイスをいくつか買えば本格的なカレーが作れるかも知れない。
問題は本格的なインドカレーを作れるほどカムイがカレー作りに精通していないことだ。
(取り敢えず失敗前提で大量に買うとして……どれがあればいいのやら)
朧げにではあるが必要なスパイスは頭にある。ただし名称を覚えているだけで、見た目までは分からない。
「ちょっと色々見てみてもいいですか?」
「もちろんだとも」
カムイは一つ一つ香りを嗅ぐことで必要なスパイスを購入することに決めた。
(お、これは分かりやすいな)
最初に手に取ったのはシナモンホール。カレーのスパイスとしてはもちろんだが、デザートなどにも広く使われる香辛料である。
その少し癖のある香りは忘れておらず、これに関しては間違いない自信があった。
「ほぉ、なかなか良いところを手に取るねぇ。それはバイオレント・ウッドの皮を乾燥させたものさね」
「え!?」
シナモンが木の皮を乾燥させたものであることはカムイも知っていた。だが少なくともあちらの世界でのシナモンは魔物ではない。
つまりカムイが知っているシナモンと目の前の物体は別ものであることが確定した。確定したが……匂いも見た目も間違いなくカムイが知っているそれである。
(異世界だからまあ、向こうの世界とは色々と違うんだろうけど……魔物って食えるのか……?)
実際に豚肉パックを落とす魔物がいるのだ。これが「バイオレント・ウッドを倒すと確率でドロップするものです」と言われれば納得しただろう。
だが直接皮を剥いだものを乾燥させて作ると知ると抵抗感が凄かった。
「う、うーん……おっ、これは」
「それはとある魔物のウンコを――――」
「ウコン! ウコンじゃないか! ターメリックね、なるほど……!」
カムイは何も聞かなかったことにした。何も知らなければこれはただの身体にいいスパイスである。
「それじゃあ会計をお願いします」
カムイはカレースパイス一式を手に入れた。
「うわ、また凄いにおいのものを作ってるんだね」
心を無にしてカレーを作っていると、ハルが怖いもの見たさに近付いてきた。クロは寝室に避難済みである。
「あ、ああ……。なあ、ハル。これはただの世間話なんだが、魔物が食べられるって知ってたか?」
「魔物? 知ってるよー。ダンジョンの魔物は食べられないけど、森にいる魔物とかは市場に出回ることもあるからね」
当然のことではあるが、ダンジョンの魔物は倒すと消える。中にはドロップアイテムを落とすものもいるが、基本的にダンジョン内の魔物は跡形もなく消えるため食材にはならない。
だが魔物というものはダンジョン内だけではなく自然世界に存在する生物の一種である。生物であるなら当然倒してしまえば死体は残るし、種類によっては食べることも可能だ。
カムイはイメージで食べられないものと認識していたが、この世界の人間にとって魔物食はそう珍しいものではない。
「私たちイアンパヌも『トキシラズ』っていう魔物をよく食べるんだ。オハウに入れてもいいし、ルイベにしても美味しいんだ!」
「へー!」
魔物食に抵抗のあったカムイだが、ハルの説明を聞いてそれが払拭される。
「ちなみにルイベって?」
「うーん、雪で凍らせたトキシラズのことかな。簡単に言えば大きな鮭なんだけど、昔は大きいからチタタプがおざなりになっちゃって、ご先祖様に怒られちゃうことがあったんだって。だから一気にチタタプしなくても長期間保存できるよう、ルイベっていう調理法? 料理? が生まれたって聞いたことがあるかな」
(ご先祖様に怒られる……寄生虫か何かか?)
チタタプは小刀で細かく刻んで食べる料理のことだが、その刻む食材の量が多ければ多いほどチタタプがおざなりになってしまうだろう。
そうなると寄生虫……代表的なものであればアニサキスと呼ばれる線虫が生きたまま体内に入り、激痛を引き起こしたはずだ。
イアンパヌはそれを先祖の怒りと思ったのかも知れない。
「迷惑じゃなければ今度、リウさんのところに行ってイアンパヌの料理とかを改めて食べて見たいな」
それは何気ない呟きだった。
だがハルはその言葉を聞いて、尻尾をぶんぶんと振り回しながらその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「いいね、いいね! 絶対楽しいよ!」
ハルは定期的に姉であるリウと手紙のやり取りをしていたが、カムイの方は初めて会った時以来これといってアクションをしていなかった。こちらの世界で生きるということも伝えていなかったため丁度いい。
それに、ここまでハルが喜んでいるのだから実現しない理由がなかった。
「詳細はカレーでも食べながら考えるか」
「その料理、カレーっていうの?」
「ああ。これは主に魔物から採れる香辛料で、例えばこれはバイオレント・ウッドの皮を乾燥させたもの。こっちは何だっけな……何とかって魔物のウンコを乾燥させた……ハル? どうした?」
郷に入っては郷に従え。カムイは開き直って老婆が聞いた説明をそのままハルにしていたのだが、ハルは笑顔を浮かべたままカムイから距離を取っていた。
「イアンパヌはね、オソマは食べないんだよ」
「は? オソマ? よく分からんが、魔物って食べられるんだよな?」
「人間って、オソマ食べるんだね……」
「よく分からんが何かすれ違いが起きてることだけは分かった。よし、ハル。いったんこれを食べてくれ。そうすれば分か――――ハル!? どこに行くんだ!?」
「クロちゃん逃げて! お兄ちゃんがオソマを食べさせようとしてくる!」
当然クロはオソマが何なのか分かっていないが、あのハルが逃亡しようとしているという事実だけで逃げるに値する。
きっと主人はとんでもないものを食べさせようとしているに違いない。
「よく分かりませんが準備万端です!」
「いやマジでどこに――――」
その日、カムイは一人で食べるには少々多い量のカレーを平らげた。
味は至って普通、何なら初めて作った割には美味しくできたと言える出来映え。ただ強いて言うならば、そのカレーは少し塩味が強かった……。
ちなみにオソマとはイアンパヌの言葉で糞を意味するが、誤解どころか事実である以上カムイにできることは何もなかっただろう。




