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異世界で奴隷と開業を  作者: 佐々木 篠
4章 異世界で奴隷と開業を
16/39

1話 少女のその後とコミュ障魔導士。

 黄のダンジョンの一つ、『雪に覆われた城』の玉座。


 そこではボスと呼ばれるダンジョンで最も強力な個体を相手に、二人の少女が果敢にも戦いを挑んでいた。


 ボスは模倣した偽りの存在とはいえ、その姿はドラゴンそのもの。全身は硬度の高い純粋な氷で作られており、生半可な攻撃は通らない。事実、黒猫族の少女は撹乱するように一撃を叩き込むも、手が痺れるのみで大したダメージは与えられていない。


 だが、あくまで少女は陽動であった。その背後ではキツネの少女が詠唱を行っており、その紅い魔力が迸る様はこの戦いの終焉が近い事を如実に表していた。


「ハル姉さん、お願いします!」


 黒猫族の少女ーークローーはハルの魔力が高まった事を確認すると、全力でその場から離脱する。


「任せてっ。”我乞うは紅蓮の裁き。到来するは灼熱の太陽”ーーーーインフェルノ・ブロウ!」


 青白く輝いていた城が紅に照らされる。突如空中に現れた小さな太陽は氷の城に全盛期の様を取り戻させ、ゆっくりとボスであるアイス・ドラゴンに迫って行く。


 最早強者としての余裕など無い哀れなドラゴンは、一心不乱に口から火では無く氷を吐いて迎撃を試みるも、それは焼け石に水でしか無かった。


 速度を全く変えないまま太陽は頭からアイス・ドラゴンを飲み込み、やがて地面にぶち当たって爆ぜると……そこには何も残っていなかった。強いて言うならばボスのドロップしたアイテムが落ちているだけで、残骸は全て蒸発してしまったようだ。


「流石ですハル姉さん!」


 クロはその並外れた威力に瞳を輝かせ、額に浮いた汗を拭っているハルに抱き着いた。


 ちなみにハルの歳は十二で、クロは十四である。クロの方が歳上なのだが、ファーストコンタクトの時に『カムイは敵、ハルは味方』という図式が本人の中で出来上がってしまい、ハル自身の膨大な知識量も相まって「ハル姉」という敬称に落ち着いたのだ。


「わわっ。……そ、そんな大袈裟なぁ」


 ハルは種族特性として火の魔法を得意としており、今回は敵の弱点が炎であったが故の快勝なのだ。それに、一撃で倒せるのは一撃で倒せる魔法を使ったからであり、それが使えたのは敵を撹乱していたクロのおかげだ。


「クロの言う通りだ。流石だな、ハル」


「きゃっ」


 離れた位置で二人の戦闘を眺めていたカムイはハルに近付くと、やや乱暴に頭を撫でた。既にクロは少し離れた場所まで逃げている。


「姉さんに触るなー。ロリコンめー」


 聞こえない程度に罵倒しているようだが、生憎カムイの耳はそれを捉えていた。


「さて、次にロリコンの毒牙にかかるのは、そこにいる黒猫の少女かな」


 クロはびくりと身体を跳ねると、凄い勢いでその場から離脱した……が、大魔王、もといカムイからは逃げられない。


「甘いな。トップスピードで勝っていたとしても、袋小路に追いつめればどうという事は無い」


「くっ……ならば!」


 タンタンとステップを踏み、視線を右に左に……しかしそれ自体がフェイント。クロの狙いは左右どちらでも無く、下。つまりまた抜きを狙う!


「はい、いらっしゃい」


 だがそんな分かりやすいフェイントに引っかかるカムイでは無く、クロは自ら腕の中に飛び込む形となった。


「ぎゃー! 変態です強姦魔ですロリコンですペド野郎です!!」


「はっはっは」


「うぎゃー!!」


 最早恒例と化したやり取りを尻目に、ハルはアイス・ドラゴンのドロップアイテムを拾う。


 名前は『不変の氷』。名前の通り数百度という高温じゃないと溶けない特別な氷で、夏場に需要がうなぎ登りとなるアイテムだ。


「そいつは売らないで持っておこう。夏に売れば今より高く売れるだろうしな」


 抵抗する気力も体力も失ったクロを片手に、カムイがやって来る。


 エルサレムには雪こそ降らないが四季があり、今は寒い時期であるためそこまで高くは売れないだろうという判断だ。


「そうだね」


 ハルはその考えに賛成すると不変の氷を布にくるみポーチにしまう。溶けないのでそれ自体が水分を出す事は無いのだが、冷やされた空気が水となり他の物を濡らさないようにする対処だ。


「んじゃ、帰りますか」


 一行はその言葉に頷くと、雪に覆われた城を後にした。








「氷の爪が八個で2400s、白銀のたてがみが三個で4800s、併せて7200sですね。お納め下さい」


 金を受け取る。本来ならここにボスであるアイス・ドラゴンのドロップアイテム、不変の氷が加わる。これは夏場なら数万sにはなるため、本日はなかなかの収穫だ。


「こちらはお預かりしていたステータスプレートです」


============

 名前:カムイ

 性別:男性

 種族:人間

 特権:冒険者

 残金:10730700s

============


============

 レベル:154

 攻撃:462 魔攻:308

 防御:200 魔防:154

 敏捷:513 精神:616

============


 ここ最近はハルとクロの戦闘を眺めるだけであったため、殆どレベルは変わっていない。しかし着々と金が増えているのは、二人が獲得した金が入って来ているからである。


============

 名前:クロ

 性別:女性

 種族:黒猫

 特権:冒険者

 残金:0s

============


============

 レベル:113

 攻撃:170 魔攻:113

 防御:113 魔防:226

 敏捷:565 精神:113

============


「敏捷ほぼ極振りってやつだな」


「何ですかそれは?」


「足だけは速いって事だよ」


「…………ッ!」


 クロは無言でカムイの脛を蹴ろうとし、隷属魔法が発動したのか毛を逆立たせる。


 ちなみにクロには一日500sのお小遣いを与えており、残金が無いのはそれが現金支給であるからだ。意外に食いしん坊で、小遣いは貯金される事なく胃袋に消えて行っている。


 ハルは貯金があるらしくカムイからお金は頑に受け取ろうとしない。


(……ハルのステータスプレート、見た事無いんだよなぁ)


 クロは奴隷であるため、プレートの管理は主人であるカムイが行っている。そのため毎回レベルや能力を目にする事が出来るのだが、ハルのものは一度も見た事が無い。いつプレートの更新を行っているのかは知らないが、こうしてカムイたちと一緒に黄のダンジョンに潜っているという事は、必然的に黄以上のプレートという事だが……。


(やめやめ。親しき仲にも礼儀ありってやつだな)


 気にはなるが、普通ステータスプレートというものを見せ合う事はしない。残金やら能力やら、見られてしまうと争いの種になるような事ばかりなのだ。カムイは頭を振って詮索したくなる気持ちを落ち着けた。


「お兄ちゃん、ちょっと時間に余裕あるけどどうする? もう一回ダンジョンにでも潜る?」


「私は屋台巡りを提唱します」


「そうだな……」


 これがギャルゲーであれば確実に片方の好感度が上がり、片方の好感度が下がるような選択肢だ。


 普段なら悩んだのかも知れないが、カムイにはやる事があった。今日でなければいけないわけでは無いが、丁度良いのでその用事を済ませる事を優先する。


「俺はちょっと用事があるから、二人で青か黄の安全なダンジョンに潜っといて」


「……分かった」


「ふぁっくです」


 二人の好感度が下がった。


(あっれー?)


 カムイも一緒にダンジョンに行けばハルの好感度が上がったのだが、カムイはそれに気が付かない。


「ま、まあいいや。二人とも、くれぐれも無茶しないように」


 そう念を押すと、カムイは二人と別れて外に出た。


(そう言えば、一人で街を歩くのってかなり珍しいよな)


 たまにハルが森の方へ香辛料を採りに行く時以外、大体二人は一緒だ。最近はそれにクロも加わり大分賑やかな毎日を送っていたため、こうして一人になれば寂しさと形容し難いワクワク感を抱く。


 まるで通訳がいないまま外国の街並を堪能しているようで、自分が今異なる世界にいるんだなーと思うと感慨深いものである。


 時間があれば普段は行かない歓楽街に行ってみたりするのだが、今日の用事というものはそれよりも重要だった。


「……壮観、ってやつだな」


 本日の目的地であるそこは『城』だった。


 本来ならハルのステータスプレートを赤にしてから来る予定だったのだが、端的に言ってしまえば待ち切れなくなったのだ。


 クロがいなければひたすらダンジョンでのレベル上げに興じていたはずだが、クロがいれば安心してダンジョンに送り出す事が出来る。つまり、ハルという最終兵器の準備をしつつ情報収集が出来るのだ。もしもカムイ一人で目的の情報を入手出来れば儲けもの、無理だったらハルのプレートが赤になるのを待つだけである。


(行くか)


 城下町としてエルサレムは城壁に守られており、その内部にはさらに城を守る壁がある。その周りは天然の川を引っ張って作った人工の用水路があり、城の内部には正面にある跳ね橋を渡らなければならない。そして橋を渡った先にある門の前では槍を持った兵士が二人佇んでいる。


 カムイはやや緊張しながらも橋を渡った。


 どうやら城の内部に行けるような人間は多くないらしく、この時間帯に橋を渡る人間はカムイのみであった。門を守る兵士もどこか不審そうに見ている気がする。


「あの、すみません。これで中に入れるって聞いたんですけど……」


 兵士に赤のプレートを見せると、予想以上に丁寧な反応が返って来た。


「ええ、もちろん。ここは初めてで?」


「そうなんですよ。城に入れるって聞いたんですけど、本当かどうかちょっと不安で……」


「初めての方は皆さん戸惑われますね。城内と言っても貴族さまや城仕えの魔導士さま方の住まう、言うなればもう一つの城下町ですから、そこまで特別なものでは無いのですよ」


 そこの最奥にあるのが王族が住む『城』になる。そこにも門があり、間違って侵入してしまえるような造りでは無い。貴族の人間にいきなり斬り掛かったりしない限り、カムイたちが住んでいる場所と殆ど変わらない平和な場所であるらしい。もちろん値段やら効果は上流階級用にはなっている。


 お金を持っている商人など、一部中流階級のいわゆる庶民も住んでおり、カムイが想像するような貴族がいきなり庶民の首を刎ねたりする危険な場所などでは無い。


「へぇ。じゃあ安心して買い物とかも出来るわけですね」


「ええ。お金があれば住む事も出来ますので、皆さんが思っているほど特別な場所では無いのです」


「なるほど……ありがとうございました」


 兵士に礼を言い、門を潜る。最悪ここで感触が悪ければ帰ろうと思っていたのだが、これはハルがいなくてもなんとかなりそうだ。


(どこから捜すか)


 魔導士を捜す、と言ってもそうほいほいと街を歩いているわけも無い。意外と人通りも多いのだが、下級層よりも身嗜みの整った庶民ばかりで、一目で見て魔導士や貴族と分かるような者はいない。


(あ、魔導士とやらの身分も聞いておけば良かったか)


 大丈夫とは思うが、魔導士がここに住んでいるのは魔導士の保護と情報の秘匿の意味合いが強い。庶民は話しかけるだけで死罪、なんて事になったら目も当てられない。


(んー、やっぱり一旦出直すか、そこらの人間でも捕まえるか……お!)


 カムイたちが住んでいる場所と大差無い街並を見ながら歩いていると、肉屋を見付けた。


「牛肉じゃん!」


 下層では主に豚と鳥の肉しか扱っていなかったのだが、その店は牛肉を扱っていた。


 牛肉があれば料理のレパートリーも一気に増えるし、何よりも牛肉があるという事が喜ばしかった。牛肉がここにある、即ちどこかのダンジョンで牛肉をドロップする魔物がいるという事の証明なのだから。


「すみませーーーーおっと」


 牛肉買うついでに、どこのダンジョンに出て来る魔物からドロップするのか聞こうと、当初の目的を忘れて情報収集に勤しもうとするカムイに、横から出て来た小柄な少女がぶつかった。


 手には身の丈以上に積まれた大量の魔導書があり、恐らくそれの所為で前が見えなかったのだろう。そしてそれはカムイとぶつかった拍子にバランスを崩し、一気に瓦解した。


「はわ、はわわ……!」


 少女は裾も丈もあっていない黒色のローブに身を包み、先の尖った魔女の帽子を目元までズッポリと被っている。


「大丈夫?」


 地面に散乱する魔導書を拾ってやりながら聞くと、少女は顔を真っ赤にして答えた。


「こここれはかたじけないでござる……!」


「…………ござる?」


「はわわ! すす、すみません! さっきまで読んでいた本の所為で口調が……!」


 あわあわと手を振り回して暴れる少女に癒されながらカムイは本を拾って行く。


「ああ、ありがとうございます! 私の不手際でばらまいてしまったのに、ひひ拾っていただいて!」


 その挙動不審な様子にカムイはつい笑ってしまう。視線を泳がせながら言っているのは他人と話す事が苦手だからであろう。しかし懸命に礼を言おうとするその姿はとても可愛らしかった。


「な、何故笑って……!? も、もしや何か粗そうを!?」


「ああいや、気にしないでくれ。それよりもこの本、運ぶの手伝うよ」


「みっ、見ず知らずの方にそこまでしていただくというのは非常に申し訳なく、かかかつ、距離的にも決して近いとは言えないのでしてっ、ほ、本を拾っていただいた恩義のある方にそんな真似はさせられないです!」


 吃っているのにすらすらと出て来る長文に驚くが、地頭が良いのだろう。驚くほど若くはあるが、格好からして魔導士である事はほぼ間違い無い。


 カムイが真に求めていたのは牛肉では無く魔導士であるため、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。


「ちょっと尋ねたい事があるんだけど、良い?」


「ふえ? ……もももちろんです! な、なんなりとお聞き下さい」


「じゃあ立ちっぱなしもなんだから、歩きながら話そうか。ああ、君には喋る事に集中して欲しいから、この本は俺が持つね」


 逃げようの無い一連の流れに目をぱちくりとさせる少女であったが、すぐにカムイの言い分を理解すると目を伏せ顔を赤くしながらも、ぼそりと「……お願いします」と呟くのであった。


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