端書き
その1
仏法僧に似た鳥が、ゆっくりと舞い降りる。少女ではなくなった女性が片手を伸ばして迎える。
「久しぶりじゃない?」
女性の、けれども懐かしく思える低い声が嬉しそうに答える。アディーヌよりも西、大陸の外。
「けけけけけっ」
ふふふと女性は答え、羽を休めている鳥をそのまま家の中へと連れて行く。
「この間、あたしたちの子が女の子連れてきたのよ。あなたも大変ね。厄介なことに巻き込まれてて。それとも、自分から突っ込んでるのかしら? そうそう、その子、ショコラって言ったかしら、彼女ね、ラブ=オール持ってたのよ……」
「誰かお客さん来たのか?」
奥からもまた懐かしい声が聞こえる。
聖剣で繋がる2つの物語。それが今絡み合い、ゆっくりと動き出そうとしている。ぷぷは、だからこそ、彼女に会いに来た。彼女の力が必要だったから。
その2
ターシャ国から見て東方、内陸部の先には砂漠が広がっている。その砂漠の広さは、ターシャ国の西に広がる森とは比べ物にならないほど大きい。そこを生きて通り抜けることなど不可能に等しい。それゆえ、西方世界と東方世界は深い断絶があるといえる。ヴァンデルト国とエンダス山系を挟んで西にはティシン国が広がる。国土だけを比べるならば、ヴァンデルト国を上回るほどの面積があるが、その国土は大半が砂漠に覆われている。故に国としての力はヴァンデルト国に大きく劣る。だが、今問題にしたいのは「砂漠」というキーワードだ。ティシン国国土大半を占める砂漠と、ターシャ国の東に広がる砂漠とは、同一のものなのだ。
旅人を拒絶する世界。オアシスもなく、永遠とも呼べるほどの砂の地獄を、果たしてどうやって越えられるというのだろうか。手段はある。
その一つがゲートである。
原理は分からないが、イルカ国の原始から存在する扉だ。その扉を使えば、西方世界と東方世界を瞬時に移動することができる。つまり、遥か古代において、西方世界と東方世界は互いに交易を行っていた。
さて、他に方法があるだろうか?
その3
アリス=リスタット=ハナユメとリカ=トールは、ティシン国のオアシス都市であるミルスに辿り着いた。二人の脇を走り抜けるレディー=ファングはまだ幼い。けれど、すでに賢者の石の力を発揮していた。あまりにも自然なことで、それが当たり前だと本人も思っていたほどだ。アリスから教えられても理解できないことだった。
レディーが西へ向かうのはもう少し先の話しである。
そのためにはもう少しだけ、本人の意志が必要だったから。




