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三聖剣物語  作者: なつ
Dear Heart  --愛するものへ--
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 第五章 パンプキン・イン・ザ・ルド

  第5章 パンプキン・イン・ザ・ルド


 西の森は深いことで有名だ。ターシャの町と王城を含む一大都市において、西の森の存在を知らないものなどいない。貴族の散策地と化している部分など、ほんの一部分でしかない。そこを越えてしまったら、何があるのか未知な世界が広がっている。では、誰も知らないはずの西の森が大きいと誰が知っているのであろう。どうして知りえたのだろう。西の森を迂回する道はある。その道をひたすら歩けば、ターシャの町と西の森を挟んだ位置にルドの町がある。ルドの町では東の森と同森を呼んでおり、東の森は深いことで有名だった。だが、実際その森の深さを知るものなどいない。伝説と言い伝えが重なりあい、森の深さを作り出し、あるいは魔物の存在を作り出した。だが、それら言い伝えがまったく出所のない架空の話と割り切ってしまうのは早計だろう。


 ルドの町にパンプキン=エリコがたどり着いたのは、ショコラ=ロリータが西の森へと逃げ込んだ頃だ。パンプキン自身、そこがルドの町だと知っていたのではない。たまたま見えた町に入ったところ、それがルドの町だったにすぎない。

 ルドの町は全体的にレンガ色をしている。それもそのはずで、路や家はレンガや石を元にして作られているからだ。だが冷たさよりもその色から温かさをパンプキンは感じていた。どこか太陽の色を思い出させる。土の上とは違い、歩くたびに鳴る足の音も温かかった。それは、パンプキンが家を出てただひたすら一人旅を続けていたからかもしれない。海を渡る時も、砂漠を行く時も、魔物がいるという洞窟に入っていくときも。パンプキンはいつも一人だった。

 緊張が緩んだのか、パンプキンの体を疲労が襲い始めた。そのために町の宿を探す。大陸と言っても使われている言語が同じだったため、パンプキンは苦労することなく宿を見つけることが出来た。そして入っていくと、カウンター越しに座っていた男が声を出した。

「いらっしゃい」

 パンプキンは何も言わずに彼に近づく。

「一人かい?」

 ああと答えて、宿主を見る。口ひげを生やした40代くらいの男で、目じりにあるしわと眉毛の濃さが印象的だった。その目が細くなると疑わしい目でパンプキンをにらみつける。

 パンプキンの耳には、後ろからのひそひそ声が聞こえていた。子供だとか、剣だとか、下卑た笑い声だとか。一階全体に広がるホールに集まった男たちが、昼から酒を飲みながらパンプキンのことを指さしている。

「400だ」

 背負ったバックパックから袋を取り出すとパンプキンは400$をカウンターに出す。それに答えるように宿主は201と書かれたキーホルダーのついた鍵を差し出した。

「そこの階段を登ってすぐだ」

 そう言い、お金をしまう。パンプキンがそのまま2階へ登ろうとすると、後ろから大きな声が聞こえた。

「お前にはもったいないんじゃないか、その剣は」

 言えてる言えてる、と周りも笑いながら答える。パンプキンが振り返ると、テーブルを囲んで3人の男が彼を見て笑っている。顔の赤さや呂律から、そうとう酔っている様子が見て取れる。

「今夜12時に、隣の空き地に来い」

 パンプキンは彼らにそう言った。一瞬驚いた表情をした3人だったが、すぐに下卑た笑いを繰り返す。その様子を無視するようにパンプキンは向きを変えると、2階へと上がった。


 夜の11時50分頃、パンプキンは一度しっかりと休み体力を充分回復させていた。昼間にあのような約束をしたものの、少しだけ後悔していた。いい機会といえばそうなのだが、わざわざ12時を指定したあたりが失敗だった。はっきり言ってまだ眠たい。しかし約束は約束なのでと、パンプキンは剣を背負うと部屋を出た。

 隣の広場はそれなりに広い。存分に暴れることができるほどの広さがある。パンプキンがその広場についたとき、すでに男たちはいた。

 リーダー格の男と、それに付き添う二人組だ。リーダーは背が高く、かなり体格もよい。髪の毛は短くしており、四角い顔がさらに四角く見える。肌の色も濃く外にいる機会が多いのだろう、電灯に照らされた顔がオレンジ色に見える。だが、今は酔っている様子ではない。さらに昼に着ていた服よりもかなり立派なものを着ている。残りの二人は電灯の陰に入っていてよく見えなかったが、リーダーよりも背が低く似たような格好をしている。

 そのうちの一人がリーダーに耳打ちをした。

「本当に来ましたよ」

 パンプキンはゆっくりと歩み寄り、ある程度の間を空けて立ち止まった。リーダーが腕を組みパンプキンをまっすぐにらむように見る。それから視線をパンプキンの右肩、剣の柄あたりに移した。

「やはり、お前にはもったいない剣なんじゃないか?」

 パンプキンは剣を鞘ごと下ろすと、彼らの前に放ってみせた。がしゃんと音を立てて、地面に落ちる。

「持ってみるか?」

 挑発するようにパンプキンが彼らに促した。驚いた様子をみせるものの、リーダーが鞘を持ち上げる。

「ほう、これはすばらしい細工だ」

 そう呟きながら柄に手をかけ、剣を抜こうと試みた。しかし鍵でも掛かっているかのように、まるで抜けそうもない。それを確かめると、再び地面に剣を置く。それから彼自身の背中に背負っていた剣を同様に地面に置いた。

「その剣で俺の手下の相手をしてくれないか?」

 リーダーの目をにらむと、昼のそれとはうって違い真面目だ。どうやら本気のようだ。パンプキンはその剣を持つと、下段に構えた。

「名前は?」

「インザ=ヘスキンズ。それからアルマとオルマだ」

 インザに紹介されるまま、前に出てくるアルマとオルマ。すでに剣を抜いて準備は出来ているようだ。二人は左右に剣を構え、まるで鏡に映っているかのようだ。

「行くよ」

 その掛け声とともに、一気にパンプキンは間合いを詰めた。それから向かって右側、オルマに向けて剣を振り上げる。

 それをオルマは剣で抑える。

 その瞬間にパンプキンは剣の力を抜き、相手の勢いを乱れさせた。

 左からアルマの剣が迫ってくるが、パンプキンは体当たりを直接体に食らわせる。ひるんだ体勢のアルマに向かって、再び剣を動かし始める。

 右から左に向かって回転させるように。

 アルマにヒットした感覚の後、勢いを殺さずに体を回転させる。半回転後に、背中をむけているオルマがいる。今度はその背中に剣を走らせた。

「そこまで!」

 インザが大声を発した。その声に反応してパンプキンが動きを止め、剣を握りなおす。

「なかなかいい動きをするな」

「そっちが本気じゃないからだろ、こんな偽物の剣を渡して」

 剣をインザの足元に投げ返してパンプキンが少し怒った口調で答えた。アルマとオルマもそれぞれ伸びをしてインザの後ろへと下がる。

「お前が持っている剣の実力を図りたかったんだ」

 それから地面に置かれているパンプキンの剣を持ち、パンプキンに手渡した。パンプキンは剣を受け取ると背中に背負う。

「で?」

「よかったら、俺の配下にならないか?」

「やっぱり、おっさんそれなりに身分のある奴だったんだな」

 インザはおっさんという言葉に反応し、一度名前を聞いたくせにと小さな声でもらしてから、何事もなかったかのように答えた。

「まあ、それなりにな」

「断る」

 パンプキンの即答振りに、インザは体をのけぞらすように驚いた。

「なぜ?」

「・・・・・・それは、僕がしたい質問なんだけど」

「俺は国内視察中で、昼のようにわざと人に絡んで強そうな奴を探してたんだ」

「何のために?」

「ターシャ国との戦いで即戦力になる奴が必要なんだ」

「ターシャ国って悪い国なの?」

「そうだ」

「悪いけど、戦争に参加する気はないんだ」

 インザは本気なのだろう、一言一言パンプキンに近づいてくる。それを避けるように動きながら、パンプキンは自分の意志をはっきり主張した。

「何故? それだけの腕があれば戦争で活躍ができるだろうし、ターシャ国に大打撃を与えられるというのに」

「ターシャ国ってどこにあるの?」

「東の森をぐるっと回った先だが?」

 それが? と聞こうとしたインザだったが、パンプキンがさらに言葉を重ねたために聞くことが出来なくなった。

「だったら、その森を抜ければすぐだね」

「いや、東の森はかなり深いし・・・・・・」

「僕が確かめてきてあげるよ、本当にターシャが悪い国なのか」

 言うとパンプキンは振り返っていた。

「お、おい、待てって!」

 あえてその声に反応しようとせず、パンプキンは宿へと向かった。

「分かった。せめて、名前は?」

 インザのその問いかけにわずかにパンプキンは体を動かすと、手を剣の柄に持っていった。そして少しだけ刀身をあらわにさせる。

「秘密、だよ」


 パンプキンは翌日、朝遅くに起きると宿をチェックアウトした。ホールにはインザ、アルマ、オルマが昨日と同様に酒を飲んでいたようだが、その様子を無視するようにパンプキンは宿を出た。彼らもあえてパンプキンに声をかけることはなかった。ただ、部屋の入り口に手紙だけが入っていて、そこには東の森のことが少しか書かれていた。差出人はなかったが、おそらくインザが心配をして書いたのだろう。

 手紙の内容は、東の森の深さや広さ、危険さや伝説などだ。パンプキンがこの地のものでないと判断したからこのようなものを書いてよこしたのだろう。まっすぐ歩くだけでも1週間以上かかるだろうし、危険な植物や人を襲う獣。森の奥にある死の泉の伝説、幻の王国の伝説、古代文明の伝説など、ありがちな話が一通り書かれていた。

 パンプキンは歩きながらインザのことを考えていた。どうも昨日の接触が納得いかなかったようで、彼が持っている剣のことを知っているようだった。

「エンゼル=ハーテッド」

 その剣を洞穴の奥で見つけたとき、自然とその名前だと感じた。天使の心を持った剣。しかし、その鞘を抜くと恐ろしいまでに体力を奪われる剣。そして・・・・・・

 パンプキンは導かれるようにしてにルドの町を出た。

 東の森の向こうにあるというターシャの町を目指して。


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