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三聖剣物語  作者: なつ
Dear Heart  --愛するものへ--
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 第二十八章 泉へと

 ターキー=ゲムニスとダニアン=ターシャがルドへと戻ってきたとき、すでにショコラ=ロリータはルドにいた。以前より彼らが利用していた部屋に二人が戻ってくると、中からはにぎやかな声がしていた。ターキーがノックをすると、中から返事が聞こえる。

「ターキーだ。大丈夫か?」

 ショコラがどうぞ、と言いながら扉を開けた。部屋の中には人がたくさんいた。まずはショコラだが、すぐ近くにパンプキン=エリコがいたし、インザ=ヘスキンズ、アルマ、オルマの姿も見受けられた。そして何よりも驚いたのは、ボニセット=キャメルが起きていたことだ。代わりにハンツェル=ロッドファーがベッドに寝転んでいる。

「あ、れ?」

 どれから話題に触れていいのか、ターキーは曖昧な言葉をもらした。ダニアンも部屋に入り、扉を閉めると、驚いた顔をしている。

「あなたたちがターシャへ戻ってる間に、ちょっとイドまで出かけてたのよ。それでまあ話が出来たから、これからを考えると一緒に行動した方がいいでしょ?」

 インザたちのことだ。確かにターキーとダニアンもそれは考えていた。ターシャから戻ったらイドへ行き、彼らと話をしたかったのだ。これは手間が省けた。ひとまずその話題を置いておき、ターキーはボニセットを見た。血色のいい顔色は、見るからに回復している。

「おかげ様で、だいぶ迷惑かけました。もう大丈夫よ」

 長い青色の髪がまっすぐ整えられている。ボニセットの手はハンツェルの額に添えられていた。

「代わりに彼が倒れちゃったけどね。全く、だらしがない。まあ、ただの疲労ね、1日も休めば元気になると思うわ。医者もそう言ってたし」

 口調に毒がないのはボニセットがハンツェルに感謝をしているからだろう、額に添えられている手は時折そこを撫でていた。

「これで、全員がそろったと言うわけか」

 何気なくインザが言った。腕を組みながらみんなの顔を見渡す。ターキーとダニアンが戻ってきたことで白の騎士団が集合し、次の行動を取れることを意味していた。逆に言えば、二人の帰りを彼らは待っていたことになる。

「全員じゃないでしょ」

 その意気を殺ぐ気はなかったのだろうか、ショコラは口を滑らした。

「レディーだったっけ、彼が足りないわ」

「ああ、そうだな。でも彼はもうターシャから旅立ってしまったのだろう。今はここにいるメンバーでことを進めるしかないな」

「どうする気でいるの?」

「ターシャに戻って分かったことは、今はまだ砂漠へ目を向けられていないと言うことだ。問題を後回しにしているし、人員も不足しているらしい。皆と合流したら、砂漠へと足を運ぼうと考えている。そのまえにラドの状況も聞いておきたかったが」

「こちらも同じだ。砂漠の覇権よりも、内陸部への物資提供に重きを置いている。だが、俺たちにはやらなければならないことがある。だから国王の許しを得て、ショコラたちとルドまできたんだ」

「砂漠に広がる黒いもやはもう見たか?」

 ターキーはターシャの王城から見えた砂漠のもやの話をかいつまんでした。

「見たくなくても、見えるところまで広がってるわ」

 ショコラは窓を見た。ルドの街は全体的にレンガ調で整えられている暖色系の街だ。今彼らが泊まっている宿も同様だ。砂漠側への出口へはそう遠くない。2階の窓から見える景色に、多少の障害はあるとはいえ、砂漠の様子が見えていた。地平線は見えない。途中から黒く濁っているのだ。一時期は蜃気楼かとも思っていたが、ターキーの話をあわせるとどうやら違うらしい。西に沈もうとしている太陽の光を受けながらも、その黒いもやは光を反射していない。

「一刻も早く出かけたほうがいいな」

「明日、ハンツェルが起き次第出発しよう」

 ダニアンはハンツェルの顔を見た。苦しんでいる様子はない。ただ疲労で倒れていると言った具合だ。それからもう一度ボニセットを見る。まるでそれまで倒れていたのが信じられないほど顔色も体調もよさそうだ。

 その部屋で解散し、2つ取られた部屋に別れようと動いているとき、ダニアンはショコラを捕まえてボニセットのことを聞いてみた。

「私がパンプキン君とイドから戻ってきたとき、ボニセットはもう起きていたわ。その時はまだハンツェルも元気だったんだけどね。ボニセットに聞くと、意識はずっとあったらしいわ。でも体が言うことを聞かなかったんだって。ハンツェルと2人きりにしたことがよかったんじゃない。詳しいことは分からないけど」

「そうか。とにかく無事に彼女が目覚めてくれてよかった」

「ハンツェルは、私たちが戻ったことで気を緩めたのね。次の日に倒れたもの。昨日のこと。医者を呼んで診てもらったら、ただの疲労だって」

「遅くなって悪かった」

「イドよりターシャのが遠いもの、当然じゃない。私はあと2日くらいは待つ覚悟でいたわ」

「国境近くまでは、救援部隊の馬車を利用できたんだ。内密にだけどね。皆の話を聞いていると、戦争をしていることがばからしく思えてくる」

「次期の国王がそれでは困るんじゃない? でも、私は賛成よ」

「そのことはまたインザと話をする」

 2つの部屋は、ハンツェル、ボニセット、ショコラ、パンプキンの側と、インザ、アルマ、オルマ、ターキー、ダニアンの側とに分けられた。インザを信頼してのことだったし、誰もこの部屋割りに反対をしなかった。むしろターキーがそう望んだようだ。泉での戦いでの借りの話でもするのだろう、次第に太陽は沈みルドに夜が訪れた。


 翌朝、ハンツェルを含めて全員の準備が整ったとき時刻は正午を回っていた。

「馬を使えば今日の夜にはつけるだろうが、歩いていくなら一週間くらいかかるだろうか」

 インザの提言から野宿のセットを持ち、充分な食料も用意していたから遅くなったのだ。インザ自身何度もルドに足を運んでいたが、なるべく正体を明かさないようにしていたし、9人の団体はどこかへ向かおうとしている旅の一座に見えただろう。ルドから出ると、砂漠は目前にまで迫っていた。不自然な砂の切れ目はかつての森との境目なのだろう、ショコラは西の森はかつてはもっと広かっただろうことに気がついた。

「こちらからじゃ方向が難しそうね」

「こんなときにレディーがいてくれると助かるのに」

 ボニセットがため息をついた。

「確かに、レディーの能力は大きい。だが、泉への場所はアルマとオルマがしっかりトレースしている。迷うことはない」

 インザがアルマとオルマを前列に差し出した。二人はまっすぐ砂漠を睨みつけてそれから自信ありげに方向を示した。数キロメートル先から黒いもやに包まれている。

「大丈夫なのか?」

「心配するな。彼らは2人でいるとき、絶対感覚が備わっている。太陽や風景に関係なく方角がわかるんだ」

 ハンツェルの疑問にインザが滞りなく答えた。それからアルマ、オルマを先頭にして一同が砂漠へと足を踏み入れた。

 砂漠では普段ほどのペースで歩くことが出来ない。数日かけて、もやのすぐ近くまで来た。そこまでは想像以上に何も起きなかった。あらためて、目の前にあるもやをみる。それはひどく曖昧だった。始まりを感じなかったからだ。気がつくともやの中に入っていた。しかも次第に濃くなっているのが分かる。

「歓迎されてるかな」

 先は闇に包まれていた。そこで彼らは最後の野宿をすることにし、9人が入れ替わり野営をすることになった。

 全員が一通り眠ったとき、朝は失われていた。もやは光を通さず、太陽さえどちらにあるのか分からなかった。もしかしたらまだ夜なのかもしれない。

 彼らは再びアルマとオルマを先頭にして歩き出した。

「助けてくれ」

 皆の動きが止まる。確かにそう聞こえ、それぞれが今の言葉を確認しあっている。進めば進むほど闇は濃くなり、今では数十メートル先が見えないほどだ。

 突然、その闇から男が現れた。両手には剣が握られている。

 目が赤かった。

 時折その男の口から助けれくれと音が漏れているが、まるで彼の意志とは無関係にして剣は一団に振り下ろされていた。もちろん、一様にして皆避ける。

「ターシャの騎士団だ」

 ターキーはすぐに叫んだ。男が着ていた服からそれはすぐに判断できた。まだ若い騎士で、おそらく2年前に送り込まれた者たちだろう。だが、ターキーもダニアンも生きていてくれてよかったと、感傷に浸る余裕はなかった。

「走れ! アルマ、オルマ、頼む」

 インザが叫ぶと同時に抜刀する。アルマ、オルマはすぐに走り出し、他の連中は2人に従った。

「けがさせないようにね」

 ショコラが後ろを振り返りながら言ったとき、インザは男と剣を交えていた。

 男の様子を、ショコラは苦々しく思った。

 次に襲ってきたのは、5人ほどだった。それを相手にしたのはハンツェルとボニセットだ。相手は知った顔である。

 おそらく2時間近く走っただろう、アルマとオルマは立ち止まった。

「もやが薄くなってきている」

「目的地はすぐそこだ、もう分かるだろう」

 指差した方向をショコラが確認すると、再び10人ほどのターシャの騎士団が襲って来た。アルマとオルマが剣を抜き、それに備える。そのときターキーも剣を抜いた。

「2人じゃ辛いだろう、手伝う」

「パンプキン君、行くよ」

 ショコラはパンプキンの手をとり走り出した。ダニアンもそれに遅れずについていく。目的地にたどり着くメンバーをあらかじめ話し合ったわけではないが、話し合ったとしてもおそらくこの3人であっただろう。そして、もしもう一度襲われていたとしたら、抜けるのはショコラかパンプキンだ。

 ダニアンは残らなければならない。国を継ぐものとして、目撃しなければならない。そして戦力で考えても、それがもっとも妥当である。

 一時期狭くなっていた視界が、今はかなりある。そして見覚えのある岩の形さえショコラには見えていた。

 3人がそこについたとき、疲労は大きかった。

 だが岩のふもとまで、彼らは止まれなかった。

 目が離せなかった。

 それはまるで世紀の芸術作品といえた。

 岩に囚われた天使。

 自由を奪われ、それでも空に飛び立とうとする少女。

「待っていたよ」

 後ろから彼らに話し掛ける声が響いた。


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