第二十七章 ラブ=オール
ショコラ=ロリータがラブ=オールと呼ばれるブロードソードに出会ったのは、彼女が12歳の時のことだった。そして、彼女が彼女でなくなり、歯車が狂い始めたのもちょうどその頃のことだった。青の騎士団のなかで、官長であるルエンス=ファルトがショコラをかくまっていることは公然たる秘密であった。いや、かくまっているという表現は正しくないだろう。ルエンスがどうか分からないが、傍目からショコラがルエンスに心を許し、俗的に言えば恋をしているのは明らかだった。それがゆえにルエンスもショコラを手放すことが出来なかったのかもしれない。常に側に置き、ルエンスから離れないようにしていた。年齢は一回り以上ずれている。出会ったのはショコラが7歳の時だった。その時すでにルエンスは23歳、今は28歳。恋愛としてありえない年の差だった。いや、今は、と限定しておいた方がよいかもしれない。ショコラが22歳になったとき、ルエンスは38歳。確かに離れているが、まあ、ありえないことはないだろう。年上の男性に経済力や安心感を抱くことは多々にあることだ。
だが、実際そうはならなかった。
青の騎士団とは、常に前線で敵国との戦いにあたることになる。それは騎士団の官長であろうと変わらない。もちろん、指示を出すために一歩退いてはいるが、必要とあればすぐにでも戦場の前線へと向かわなければならない。そんなことは分かりきったことだった。
その日は、グナの村からそう遠くない西の森のほぼ南に青の騎士団は駐屯していた。西にはほど近くにルドがある、国境の近い地域だ。
部下の報告に、ルエンスは立ち上がった。
「西の森から攻めてくるというのか!」
隣りでショコラが小さくルエンスを見あげている。
「そうです。間違いありません。奴らは一晩西の森に身を隠し、こちらが油断するのを待っていたみたいなのです、奇襲です」
「数は」
「分かりません。多くはありませんが、準備が整っていなかった分対処が遅れています」
再びルエンスは席に力強く座った。腕を組んでいる。
「てことは、本陣が別にあるってことだ。他の偵察部隊からの連絡は?」
「ありません」
「お前らはここの防御にあたれ。数が少ないなら俺が見てくる」
「しかし」
「心配するな。本陣からの攻撃のが脅威だ。俺が帰るまで気を緩めるな」
ルエンスは再び立ち、西の森を見た。圧倒的なスケールで駐屯地に迫ってきている。距離にすれば数百メートルの先だ。そちらからの奇襲だというが、そんな様子はうかがえない。
「では行ってくる。後は任せたぞ」
にっと笑って見せると、すぐさまルエンスは走り出した。信じられないほどのスピードである。まるで重い鎧をつけていることを感じさせない。後ろをついていくショコラは全速力だった。
実際ショコラのその行為を誰もとめるものがいなかった。いつものことだし、今までもそうだった。だが、このときばかりは止めるべきだったのかもしれない。
西の森はすぐ眼前に迫った。ショコラは、どうして森と境界があるのか理解できなかった。だが、今ショコラとルエンスがいる場所は木が生えていない、明らかに森とは違っていた。
ルエンスがあたりの様子を伺う。確かに何か視線を感じる。ショコラも真似をするように森の様子を伺った。それは敵意を持った視線だ。
自然とルエンスは剣を抜いていた。長いロングソードだ。おそらく2メートル以上あるだろう、大柄なルエンスよりもはるかに長かった。
ショコラは以前貰ったレイピアを腰から抜いた。短い子供用の突剣で、ショコラは知らなかったが、本物ではない。
視線は明らかにこちらに向けられていた。
「ちっ」
ルエンスは舌打ちをするとショコラを見た。
「お前は帰ったほうがいい。ちょっと本気になるかもしんねえ」
「それならがんばる。普通じゃないよ、この視線。人間じゃない」
ショコラの感覚はルエンスよりもずっと卓越していた。おそらくそれに気がついていた者はほとんどいないだろう。ルエンスは出会ってすぐに分かった。感覚だけではない、体の軽さ、身のこなし、それにともなう剣の動き……真剣を握らせたことはなかったがルエンスにははっきりと感じられた。そのためもありルエンスはショコラを手放さなかった。ラドに渡したくなかった。
それは言い訳に過ぎなかったが。
「そうだ。これはラド国の奇襲じゃない。駐屯地に戻れば安全だ」
「もう遅いよ」
ショコラは森の中にその存在を捉えていた。ルエンスがそれが何か分かるのに、さらに数十秒の時間を費やした。
「魔物か」
そう呟いた。ルエンスはそれが何であるのか説明が出来なかったのだ。獣でもない、人間でもない。見たこともないものだった。
否、姿はまぎれもなく人間である。
男か女か分からない。全身を覆うほどの乱れた髪の間から、怪しいほどに赤く光る目が見えていた。
「泣いてる」
ショコラの言葉が理解できず、ルエンスは自分の剣を構えた。それは、武器を持っていた。ロングソードよりも厚く大きい、いわゆるブロードソードだ。それを引きずるようにしてゆっくりと、一歩一歩森の闇から外へと向かっている。
暗い時間が始まった。
それは奇声を発するや、まっすぐルエンスへと向かってきた。その声が恐ろしく、わずかだがルエンスの反応が遅れる。だが、体当たりに備えようと体に力を溜めた瞬間、それはルエンスのまさに目の前で動きを止めた。ぐっと顔をあげ、下からルエンスを睨み上げる。一気に血の気が引くのが分かった。今までに感じたことがないほどの嫌悪感だ。
おそらく一秒もなかったのだろう、それでもルエンスには長い時間に感じられた。
左腕に激痛が走った。それが持っていたブロードソードがその場で上へと上げられたからだ。それはルエンスの左腕を切り上げる。鎧を着ているといえど、動きを正確にトレースさせるために、わきの下は弱い。まんまとそこを切られたのだ。
ルエンスは右足でそれを体から引き剥がすと、自らの体を横に回転させて間合いを広げた。左手に感覚はない。血が流れ滴っていることすら感じられない。
痛みが残るよりそのほうが好都合だ。ばかげた考えだったが、とにかく今はそれに感謝しなければならない。
それは軽々とブロードソードを振り回している。一歩も近づかせないようにしているようだ。ルエンスは右手でロングソードをしっかり持つと、相手の目を睨んだ。だが、ルエンスと言えど、ロングソードを片手で軽々と扱えるものではない。もともと右手は左手で振るのを支えているに過ぎないのだ。状況は芳しくない。それにしても、目の前のそれは、片手で軽くブロードソードを振っている。
肩に突然重さを感じたのは右手の平に汗がにじみ始めたときだった。
理解するのに時間がかかったが、すぐにルエンスはそれとの間合いを狭めた。そのときショコラが、それの頭上からレイピアを持って飛び込んだところだった。しかしそのレイピアは本物ではない。それでも振り回していた右手に直撃すると、それは剣を手放した。ブロードソードはすごい勢いであらぬ方向へと飛んでいった。
ルエンスのロングソードはそれを貫いていた。
さらに倒れたそれにのしかかるようにしてルエンスは体重をかける。ロングソードはそれと地面をも貫き、柄のすぐ側まで剣先はそれに埋まった。それでもまだそれはまだ活動を停止しなかった。ルエンスの両肩をしっかりと持つと赤い瞳がさらに充血したかのように光った。
再び激痛が走った。今度は背中だ。それがゆっくりと腹側まで到達する。ルエンスは肩を抑えられながら、自らの腹を見た。
太い剣先が見えている。
それがゆっくりとそれをも貫こうとしている。
ブロードソードだ。
胃を逆流するものを感じ吐き出してみたらそれは血だった。
でももう色はない。
感覚もない。
何かがルエンスの背中に乗った。
だがその時ルエンスの意識はすでに消えていた。
ショコラはブロードソードをルエンスから引き抜いた。ショコラにはとても今起きたことを説明が出来なかった。そう、説明ができなかった。
ブロードソードはかなり重たかったが、それでもショコラは何とか両手でそれを持つことができた。やがてバランスを崩したのか、ルエンスがそれの横へと倒れこむ。
ショコラは本能的に泣いていた。だが近づけなかった。
それの赤い瞳がショコラを睨んでいた。そしてゆっくりとロングソードを自らの腹から引き抜くと、それを遠くへ投げ捨てた。
「小娘」
それは人間の言葉だった。低い、男の声だと思う。びくっとショコラは体を振るわせた。
「それは、女が持つに相応しい。あれも女だった」
それの腹からは赤と緑の体液が流れていた。それは体を起すと立ち上がり、自らの腹を抑えた。
「お前とは2度と会わない。もう、誰とも」
ゆっくりと後ろを向き、森へと歩き出す。
「死は約束された。ようやく解放された」
森の闇に消えるとき、男の声は一度大きくなった。
「ラブ=オール。その剣の名だ。そのうち分かる」
それの存在感覚が次第に薄れて行く。本当に存在したのかもわからない。ショコラは膝をついて、ルエンスを見た。
動かない。
ショコラは泣いていた、動けなかった。
しばらくして駐屯地から兵士が2、3人やってきた。そして見たのは血に濡れたブロードソードを持った少女と、その傍らで倒れている動かないルエンスだった。ルエンスの傷は明らかにそのブロードソードでつけられていた。
「何があった?」
兵士は優しくショコラに聞いた。しかしショコラは首を振るだけで、何も答えなかった。沈黙は正しくなかったが、ショコラは起きたことを説明することが出来なかった。ただショコラの視線は森を向いている。それに気がついた兵士が、ショコラの視線の先を見ると、赤と緑の体液が森へと点々と続いている。
「何があったんだ?」
ショコラは再び首を振った。
2つの噂が始まった。
西の森には魔物が棲んでいる。
ショコラがルエンスを殺した。
「それで、そのとき何があったんだ?」
「だから説明が出来ないのよ」
「だってそれじゃあショコラが疑われてるんじゃない」
「その通りよ。でもあの時いた青の騎士団はその後ラド国との戦いに敗れてほとんど残らなかったわ。そうでなければ私はターシャの騎士団に入ろうとは思わなかっただろうな」
ここはラド国の首都イドにある城のインザ=ヘスキンズの部屋だった。パンプキン=エリコと2人でここへやってきたショコラ=ロリータは今後の対策を考えるにあたり、西の森で思い出したことを話していたのだ。できれば話したくはないことだったが。
「分からないな。分からないことが多すぎる。君がなぜターシャの騎士団に入ったのか、なぜラブ=オールを大切にしているのか、それに、なぜラブ=オールでルエンスを刺したのか」
「説明するのが難しいわ」
「ついでに君が今何歳なのか」
「女性に年齢を聞くのは失礼よ」
「19だよね、確か。僕と4つ違い出し」
「本当か? ターシャじゃ厳しくて官長になるには20を越えてなければいけないんだろ」
「そうらしいわね。結構苦労したのよ」
「では何故ターシャへ?」
「難しい質問ね。ルエンスのことをもう少し知りたかったのもあるし、西の森について調べたかったこともある。城になら普通に知らない情報も網羅してそうだし。でも正確には違うわ。私は私みたいな人を出したくなかったのよ。グナでのことね。あれは防げる悲劇だった。だから私は今の状況が不安でならないのよ」
「なるほど。おそらくそれは大丈夫だろう。ラドでも今は戦争より内陸部への救援、物資提供を優先している。ターシャが攻めてこないところをみると、あちらも内陸部へ先に手を回しているのだろう」
腕を組みながらインザが今のラド国の状態を説明した。
「では、なぜラブ=オールを?」
「この剣も呪われてるのかもしれないわ」
ショコラはパンプキンが持ち歩いているエンゼル=ハーテッドに目配せをした。白い天使の呪いが宿ったその剣であったが、今はもう普通の剣と変わりがない。呪いは解かれている。
ショコラはラブ=オールの柄をインザに差し出した。
「持ってみる?」
一瞬ためらったがインザはその柄に手をかけた。それからゆっくりと剣を鞘から引き出す。思ったとおりのブロードソードであり、その重さはかなりある。とても振り回すなんてことが出来そうにない。
「すごい力だな」
「全然力なんていらないのよ。紙のように軽い。呪いかしら、私は二度と手放せないと思う。勝手だけど、造った人やこれまでの持ち主の愛を感じるの」
「なるほど、まあいいだろう。では最後に、なぜラブ=オールでルエンスを刺したか、だ」
「ショコラが刺したんじゃないでしょ?」
ショコラは顔を横に振った。それがどちらを意味しているのか分からない。
「私がレイピアでその魔物の手を刺したとき、確かにラブ=オールははじかれるようにして遠くへ飛んだ。私も同じように飛ばされて、次に起き上がったとき、ルエンスがその魔物に剣を突き立ててた。これで終わったと思った。私は自分が役に立ててよかったと思った。でも、次の瞬間、ラブ=オールがルエンスの背中に刺さっていたのよ。全然何が起きたのかなんて理解できなかった。本当に瞬間なの。私はすぐにルエンスの上に乗ってラブ=オールを引き抜いた。引き抜いた途端血が溢れてきたのよ。もし私が引き抜かなければ、ルエンスは生きていたかもしれない。魔物も捕らえられていたかもしれない。だから私はあえて隠すことはしなかった」
「じゃあ前ダウモが言ってたのって」
「多分そのことでしょ。私がルエンスを殺した張本人だとしても、宰相は私を信じている。あるいは、ルエンスを犠牲にして、魔物に傷を負わせた、そう解釈してるのかもしれないけどね」
「なかなか複雑だな、ターシャも」
「どこも同じようなもんでしょ」
少し考えてからインザはそうだな、と呟いた。
「今までのことを考えると、だ」
インザは一度静まった部屋に再び活気を戻そうと、議論を再開した。
「因果関係はすべて5年を周期としているようだ。俺は、2年前にあれがこう言ったのを覚えている。私は西の森の魔物だ、と。まあ、ターシャ的にあえて言い換えているが。7年前にルエンスにけがを負わされたあれは、5年を休養した。そしてようやく復活したとき、今度はパンプキン君と君に切りつけられた。そして、あれは次は5年後だと予言した」
「そうね、確かにそうだわ」
今までショコラは白い天使と、男の姿をしたあれが同じ存在だと考えたことがなかった。それは新鮮な感覚だった。
「では、3年後まで待つべきだろうか?」
「その前はどうなの?」
話の腰をパンプキンが折った。
「僕が7歳のとき……8年前になるけど、僕の前にいたのは白い天使だったよ」
「あれが本来の姿なのだろう。だが少女の姿では限界がある、そう考えたからあれは次なる肉体を捜していたんじゃないだろうか」
「いずれはパンプキン君の体を手に入れるとしても、一度他の人の体にも入ってみたって所かしら」
パンプキン自身が気にしていないせいもあり、端からみると結構ひどい内容の会話が続く。
「試しだったし、準備もしていなかったから、不完全な、つまり、魔物みたいになってしまったんだろう」
「魔物みたいっていうけど、魔物の定義自体がないんだけどね。でも」
ショコラは一度俯いてから先を続ける。
「いつからこんなことって続いてるのかしら。西の森に魔物が出るっている伝説は昔から残ってるし、文献にも残されているわ」
「難しいな。本当に同一のものか分からないし。とにかく今俺たちがやらなければならないのは、どうやってこの危機を救うかってことだろう」
「そうね。有名になれない英雄ってとこかしら」
イドに朝が訪れた。ショコラとパンプキンはインザの客人として改めて国王に挨拶することとなった。インザに連れられて国王のおられる玉座へと進む。
「アルカ=ラド=ラディア国王だ。粗相のないようにな」
小声でインザが2人に耳打ちをする。よほど心配のようだ。
「よう参られた、旅人よ。国防長官殿の親友ということらしいな、聞けば、昨夜は積もる話に眠っていないそうではないか」
玉座に座ったままアルカ国王はよく響く声を室内に響かせた。インザの他に、アルマ、オルマ以下数十名の側近がそこに控えていた。
「まこと頼もしいことだ。それに2人とも幼い、緊張もしておるだろう。ここでは何、そう気を張る必要もない、守られておる。安心して城内を歩かれよ。皆もよう聞け、よう見よ。この客人がなしたいようにしてあげよ、廊下をあけよ」
以下、同じような言葉が続いた。どうやらインザに気に入られた客人と言うだけで、かなり身分が上がるらしい。それはおそらく腕が立つことの証拠ともいえる。しばらくして王が玉座から立ち上がり、横の扉から退室された。それでようやく2人は緊張を解きほぐす。
「はあ、黙ってるのって苦手」
舌を出しながらパンプキンが愚痴をこぼす。ショコラはそんな様子のパンプキンを笑うと、小声で言った。
「あたしも。必要なのは慣れね」
「さあ、2人ともこれからどうする? 城内を見てまわるか?」
「それは遠慮しておくわ、後々のためにも今は。それよりもお風呂よ」
ショコラは手を胸の前で組んだ。
「だって、結局昨日入れなかったし。もう、何日お風呂にはいってないことか」
「はは。では準備をさせよう。パンプキン君はどうする? 一緒に入るか?」
「何言ってるのよ!」
顔を赤くしてショコラは怒った。さらには腕も組み、頬を膨らませている。
「軽い冗談のつもりだったんだが。まあ城の風呂はばかみたいに大きいのもあるし、もしかしたら誰かが入ってたって滅多に気がつかないもんなんだかな」
「男と女は別でしょ」
「そりゃそうだ」
聞かれたものの結局答えずじまいだったパンプキンはどうしようかと考えた結果、城内をふらつくことにした。
といっても、城の中は迷路のようなものだ。下手に歩くと、今自分がどこにいるのかさえ分からなくなる。それはターシャに行ったときも感じたとことだが、イドの方がさらにひどかった。城塞都市ということもあり、城は大きい。一部急に細くなりひたすら長い通路があったが、おそらく城壁だろう。イドを一回りしているに違いない。
パンプキンは遠巻きに見られているのを感じていた。あえて誰も近づいて来ようとはしない。あらためてインザの名の大きさを感じた。国防長官だと門兵は言っていたが、伊達ではないらしい。
「すいません、お風呂はどこですか?」
しばらくたって自分の場所がさっぱりわからなくなった頃、パンプキンは近くを通りかかった女性に聞いてみた。一瞬びくっとされたが、その人は優しくパンプキンを案内してくれた。
色々廊下を曲がったり、階段を下りたり登ったり、やはり覚えることなど出来ない。途中会話を試みるが、長い会話は出来なかった。
「こちらになります」
女性は会釈をするとパンプキンの前からいなくなった。
パンプキンもしばらくお風呂に入っていなかったため、どうせなら入っておこうと思った。案内された先の扉からはお風呂から出ているのであろう湯気が昇っていた。気持ちよさそうだ。
パンプキンがその扉を開けて中に入ると、ショコラがそこにいた。着替えている途中だった。少し遅れて城内に悲鳴が響いた。
この城にはお風呂がたくさんある。大きいものから小さいものまで、基本的に使用中のお風呂は扉が閉められており、同じお風呂に入ることは出来ない。ショコラが小さなお風呂を所望し、インザがこのお風呂を紹介したのは偶然だった。先ほどの女性がこのお風呂のもとまでパンプキンを連れてきたのは、彼女が意図してのことだったかもしれないが。とにかく扉が閉まっている以上、そこは使用中のお風呂だった。パンプキンに知る由もなかったが。
イドを出るために、ショコラとインザ、アルマ、オルマ、そしてパンプキンが夕方に城門近くに集まったとき、パンプキンの左頬は赤く手形がついていた。




