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三聖剣物語  作者: なつ
Dear Heart  --愛するものへ--
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 第二十二章 理由?

 当時青の騎士団官長であったルエンス=ファルトは、最前線で戦死した。青の騎士団とは、もともと赤や黄の騎士団とは違い前線での戦争を担っていたので、起こりえる事態であり、それ自体はいた仕方ないことではあった。

 だが、記録書によると青の騎士団を最後殺めたのはまだ幼い少女だった。

 ターシャ王城においてダウモ=ゲムニスは腕を組んでいた。ショコラ=ロリータに王国の宝を盗んだという疑いが掛かったとき彼女のことを調べていくと合点の行かないことが多い。経歴に嘘が多いことが判明した。

 さらに彼女の足取りを調べてゆくと、ショコラがグナの村出身であることも分かった。そして10年程前に生贄として東へと捨てられたカフォレの娘であることもだ。その際ショコラも村の外へと捨てられ、偶然近くに駐屯していたルエンスの隊によって拾われた。

 ルエンスの報告書に詳しいことは書かれていなかったが、移動速度や行程、食料の減り具合から一人ほど余分にルエンスがかくまっていることは判明していた。

 国王アルベルト=ターシャ=ニコラウス3世もそのことは承知していた。だが、強さと優しさを持っているからこそ、とルエンスを官長にしたのだ。

 とは言うものの、以上のことを踏まえると、ルエンスを殺した少女とグナの村の少女は同一人物である可能性が高い。ショコラがルエンスを殺した、疑いがある。

 だとするとショコラの年齢が合わなくなる。

 ターシャに彼女が来たとき、ショコラは18歳と言っていた。それを証明する方法を当時持ち合わせていなかった。だが、ショコラの剣さばきと身のこなしが自然と18歳という事実を認めさせていた。そして20を越えたときショコラは最速で黄の騎士団副官に上り詰めた。

 そのときショコラはまだ16歳だったのではないだろうか?

 見た感じの幼さは考えてみれば16歳によく合っている。

 だが黄の騎士団としての彼女の活躍はすばらしい。ターシャへの忠誠心もあるし、人望も高い。剣の腕もよく後輩の面倒見もよい。

 本当にショコラはルエンスを殺したのだろうか?

 ダウモは自慢の口ひげを触りながら、大きくため息をついた。くせのある髪が前へと垂れ視界を妨げている。

「入るぞ」

 声に気がつきダウモは頭を上げた。国王アルベルトの声だ。

「どうぞ」

 アルベルトは1人ダウモの部屋に入ってきた。このごろ少しやせたように見えるのは、長引く戦争のせいだろうか、それとも息子を長旅に出しているせいだろうか。

「王城内といえど、1人で歩くのは危ないですよ」

「誰だと思ってるんだ、そんな心配は不要だぞ」

 ダウモは立ち上がるとアルベルトに視線を合わせた。いくら2人が昔から仲がよいとはいえ、国王と宰相だ。用があるならば、ダウモをアルベルトの部屋に呼び出せばよい。

「どうなさったのですか、慌てているようですが」

「なに、たまには体を動かさなくてはと思っただけさ。それにこうもことが進まないのであれば、時には愚痴もこぼしたくなる」

「心配ですか?」

「それはお前も同じだろう。互いに大事な一人の息子なんだ」

 アルベルトはダウモの机の上に置かれていた書類に目が付いた。2年ほど前に調べたショコラ=ロリータに関する報告書だ。アルベルトにしてもルエンスを失った事件は痛ましかった。青の騎士団を上手くまとめていたし、信望もあり、結果も多く残していたからこそだ。その報告書によると、ルエンスはショコラに最後殺された可能性があるとあった。だが、2年前ダウモはこのことを黙認すると言っていた。

「どうしたのだ、今更このようなものを持ち出してきて」

「白の騎士団は失敗だっただろうかとふと思ってな」

「お前らしくもない」

「水不足は深刻だ。海からそう離れてはいないとはいえ、砂漠へと運ぶには難儀が大きい。おそらくラドも同様だろう」

「だがこんな事態は予想のしようもないではないか」

「そうとも言えぬ」

 ダウモはため息をつき、それから髪をかき上げた。そこにある目には50を越えた老衰がうかがわれる。

「西の森がなくなり彼らが返ってきたとき、我らはすぐに砂漠を探索することを決めた。そのとき彼らは言わなかったか、何か嫌な予感がすると。ターキーは私に話してくれた。そこで起きたことを一つ一つ。もちろん信じろと言われても無理な話だが、西の森にすむという魔物の正体の手がかりに繋がるだろうと考えた。そしてその魔物が呪いをかけた」

「何の呪いかは分からない」

「せめてもっと慎重になるべきだった」

「かもしれぬな」

「砂漠にもやがかかり、もはや中の様子は分からぬ。若き騎士団が今どうなっているのかも不明だ」

「あいつらは無事なのだろうか」

「それは心配あるまい。白の騎士団はわが国最強の騎士団だ。西の森でさえ彼ら1人として命を奪えはしなかった」

「そうだな。だが連絡が取れないのはつらい」

「それは任務上仕方あるまい。おおっぴらにこちらが動いては白の騎士団の行動に枷をかけることになりかねない」

「そうだが」

「こちらが白の騎士団の動向が分からないのと同様に、あちらもこちらの動向が分からないだろうがな」

 やがて2人は押し黙り、静かな夜を迎えるのだった。


 ターキー=ゲムニスとダニアン=ターシャがターシャに戻ってきたのはその翌日のことだった。彼らは寄り道をすることなく王城へと進み、門番に止められるのだった。

「そのもの、止まれ」

 2人に槍を突き出しているのは黄の騎士団の一兵士だ。

「任務に忠誠なのは認めるが、よもや俺たちの顔を忘れたわけではないよな」

 ダウモのその言葉に兵士の顔が青ざめて行く様子がよく分かった。

「こんなところでからかうなよ、時間が惜しい」

「も、申し訳ございません。まさか外から、その、戻られるとは思っておりませんでしたので」

「よい。もともと王城内で秘密裏の勤務についていることになっているのだからな。変わりはないか?」

「はい。日々我々が王城内を見張っておりますし、怪しいことは何一つ起こっておりません」

「父上とダウモは今中におられるか?」

「ともにございます」

「では失礼する」

 兵士はターキーとダニアンを王城内に招きいれた。勝手知ったる城だ。2人の足はまっすぐダウモの部屋へと向かっていた。

 2人はダウモの部屋の前へつくと、ターキーが部屋をノックした。

「はい」

 部屋の置くから懐かしいダウモの声が聞こえる。

「ターキーです。ルドより帰ってまいりました」

「はい?」

 一瞬ダウモの声が裏返り、それから長い沈黙が続いた。内心ターキーは恐れていた。ダウモは怒っているかもしれない。

「入れ」

 再び声が毅然となり、2人を中へと招いた。そして部屋内に入るや、ダウモはすぐに扉を閉めた。

「何事だ。お前は今ここにいるべきじゃないだろう。何かあったのか?」

「いいえ、この2年いたって何もございません」

「そうか」

 一瞬間を開けてダウモが頷いた。

「そうだろう。何もない。何の手も打てない。ラドも同じと言うことか」

「何故ですか、父上。砂漠への支援はなさっていないのですか?」

「お前らにも分かっていることだろうが、この2年間ここ一帯に一体どれだけの雨が降ったと思う?」

「全く降っていません」

「その通りだ」

「何故でしょう。ここは海も近く雨が降らないだけでは物資に滞ることもないし、作物にさして影響がでるわけでもない」

「確かに、そうだ」

「ラドも同様にして、物資自体には困っていないはず。早く手を打たなければ、砂漠の覇権を奪われるのが目に見えています」

「かもしれぬな。だがラドも我らと同様にして砂漠への補給は後回しにせざるを得ない」

「何故ですか?」

「分からぬか?」

 ダウモはため息をつくと自らの椅子に腰を掛けた。

「たとえ砂漠の覇権を手に入れたとしても、他を失っては何の意味もないということだ。ターシャはいい。だが、内陸部の町や村はどうだ。例えばグナという村は海から遠い。そこにも雨は降っていない。小さな村だが、ターシャ国の一部だ。そこへの補給を後回しにしてまで戦争を進めるべきか?」

 ターキーは言葉を挟めなかった。

「もちろんそれだけではない。だからといって砂漠への補給を0にしてよいと言っているのではない。だが、お前らは砂漠の中心を最近見たか?」

「いや」

「おそらく低地からは見えないだろう。城のテラスから一度見てみるといい。あれほど禍々しいもやは見たことない。前線に送り出した兵士のことは心配だ。だが、そこへと補給する人材もまた心配しなくてはならない」

 完全に言葉に窮したターキーは俯くとこぶしを握り締めた。一時の沈黙の後、ダウモは言葉を続けた。

「ともあれ、よく戻ってきてくれた。正直嬉しかった」

 顔を上げるとダウモの瞳が光っているように見えた。そして口元は笑みの皺がよっていた。

「さあ、国王にも挨拶に行こうではないか」

 そう言うとダウモは立ち上がるのだった。


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