魔将軍現る!
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「はぁぁ!」
ブゥン!
「破ァ!」
装飾鎧の男――シャルイーズの攻撃を上半身のみのスウェーバックで避けつつ、右手の正拳を叩き込むジン。
しかしそれが当たりきる前に背後からシャルイーズの部下が剣撃を浴びせる。
「おっとぉ!」
何とか避けるがその隙を狙ってシャルイーズは横薙ぎの一撃を放つ。
「くそっ」
ジンはそれをバックステップの要領で避けながら、追撃をしようとするシャルイーズに対して≪月華≫を放つことで牽制する。
距離をとり、ジンは思う
……こいつ、巧いな。
強い、ではなく巧いのだ。
突出した個の強さではなく、連携による断続的な攻撃。
別の方向から来る流れるような連撃にジンはかなり苦戦していた。
……体力は持つから持久戦でやってもいいが、それだとクレアが心配だな。
確かに彼女は強い。だがどうやら魔力とやらを込めないと攻撃が通らないらしい。
このまま持久戦をしていれば誰よりも真っ先にクレアがダウンしてしまうだろう。
……くそ、しょうがねぇな。こうなりゃ目の前のこいつらの連携を崩すしかねぇか。
そう考え、ジンはシャルイーズの方へと疾駆する。
対するシャルイーズは剣を正眼に構え、ジンに対してカウンターを狙う。
「破ァァ!!」
ジンはそれに対して怯むことなく踏み込み、
---至幻流 ≪月華≫ ―――
現状、最も威力のある≪月華≫を叩き込む---シャルイーズの手前の地面に向けて。
ズドン!
「なっ!」
轟音と共に莫大な砂煙が上がる。
ジンはそのままシャルイーズの横をすり抜け、クレアへと切りかかっている帝国兵に背後から近づき、
「破ァ!」
気合と共に≪月華≫を打ち込む。
「ちょっ」
クレアは自分の方へ吹っ飛んでくる帝国兵を何とか回避し、元凶のジンを恨めしげに見る。
「危ないじゃない! 当たったらどうすんのよ!」
「避けられる程度の威力にしたから大丈夫だったろ?」
「そういう問題じゃ、ああ、もう!」
土煙からでてくるシャルイーズ達を見て、クレアは剣を構え直すが、
それよりも早くシャルイーズに肉薄したジンが踏み込み、
「破!」
――至幻流 ≪桜≫ --
全身のバネを最大限利用した≪桜≫を放つ。
ジンの渾身の≪桜≫に対し、シャルイーズは何とか反応し、剣で受けるも、
ドゴン!
轟音と共に剣を砕かれながら吹き飛ぶ。
最後に残った帝国兵を倒そうと振り返ると、
「はぁぁ!」
クレアが双剣術を以てカウンターにより倒したところだった。
「ひとまず、指揮官撃破だな」
「そうね」
ふぅ、と一息つく二人。だが次の瞬間、
「!!」
「きゃっ」
未だかつてないほどの悪寒を覚えたジンはクレアに足払いをかけ、そのまま抱きかかえて全力で後退する。
目の前を通る黒の軌跡。
見れば先の男よりもさらに美しい鎧をまとった男―――帝国魔将軍の一人、オリウスが剣を振りぬいた状態で立っていた。
「……」
ジンは心中で戦慄する。
先ほどの一撃。≪六仙≫を発動させた状態でなお、避けるのが精一杯だったのだ。
……まずいな、勝てねぇ。
単純にそう思う。今の自分に勝ち目はない、と。
今のところ、目の前の男に通じそうな技は至幻流ぐらいだが、≪桜≫も≪月華≫も攻撃前に強い踏み込みを必要とする。
目の前の相手に放つには、発動が遅すぎるのだ。
……どうするべきか。
次の行動を考えるジンのことなど眼中にない、と言わんばかりに男は自身の副官へと近づく。
「シャルイーズよ、生きているか?」
「……は。お見苦しいところをお見せしました」
「全くだ、と普段なら言うであろうが、今回は不問にしよう。そこの男、中々できるようだからな」
「……申し訳ございません」
副官の無事を確認し、男――オリウスはジン達の方へと振り返る。
「俺の部下が世話になったな。俺はオリウス、帝国魔将軍の一人だ。そこの男、今すぐクレア=エンコードを渡せ。そうすれば命ばかりは助けてやろう」
……命は助ける、ときたか。
ジンは呆然としているクレアを下がらせ、不敵な笑みを浮かべて言う。
「なに情けねぇ顔してんだ。心配すんな。俺は英雄なんだからよ」
言うが早いかオリウスへと向き直り攻撃を仕掛ける。
「破ァァ!」
浅い踏み込みからの高速の正拳。
オリウスは何の苦もなくそれを避けると、お返しとばかりに斬撃を放つ。
視認可能なのは軌跡のみの斬撃をジンは半歩体をずらして回避するが、その直後にオリウスは蹴りを放ち、ジンを吹き飛ばす。
「ぐぅ」
「ジン!!」
そのまま近くの木に叩きつけられるジンを見て、クレアは悲鳴を上げる。
「愚かな。勝てないと分かって尚、俺に立ち向かうか。まぁ、いいだろう。少しばかり遊んでやる」
「オォォォ!」
剣を構えるオリウスに向かってジンは疾駆する。
しかし、対するオリウスはジンに向けて手のひらを向けるのみ。否、それで十分なのだ。
次の瞬間にオリウスの腕から質量すら持つ高密度の魔力が放たれ、ジンを吹き飛ばす。
倒れたジンはそれでもまだ戦うと言わんばかりに立ち上がる。
そしてもう一度オリウスに向けて駆ける。
「もう…やめて…」
オリウスに向かっていき、傷ついてゆくジンを見て、クレアは懇願するように言う。
……ジン。あなたは確かに過去の世界では英雄だったのかもしれない。けど、無理よ……
確かにジン=フォールはその生涯において一度も敗北していないと聞く。だがそれは1000年前の話であり、現代の兵器で武装した魔将軍クラスの実力者に生身で勝てるはずがないのだ。
ドサッ
足元に吹っ飛んできて、立ち上がろうとするジンをクレアは必死で止める。
「ジン!もうやめて。これ以上はジンが死んでしまうわ。私はもういいの。お願いだからもう立ち上がらないで。」
しかし、ジンはクレアの懇願のごとき制止を聞かず、立ち上がる。
体はすでにボロボロ。
しかしそれでもなおオリウスに挑もうとする。――クレアを、守るために。
「ジン!!もうやめて!」
「安心しろよ。絶対に守ってやるからな」
「え……」
その時、クレアは信じられない物を見る。
自分の目の前に立つジン。
こちらからは後姿しか見えない。
見間違いかもしれない。
それでも、クレアは
ジンが笑っているように見えた。