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夢現の英雄  作者: Asagi
第一章 英雄召喚
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全裸、少女と行動を共にする

作者の文章力が成長します。ご意見、ご感想があればよろしくお願いします。

 森の中、帝国兵たちはかなり動揺していた。


「ギャァァーー!」


「く、またか」


 叫び声に対して振り返るも、そこには倒れる仲間がいるだけ。そして次の瞬間には、


「グハァーー!」


「次はこっちか。くそ、一体どうなってんだ」


 先行していた数人の帝国兵との連絡が途絶してその様子を探りに来たのはいいものの、急に次々と仲間がやられていく。

 何よりも、仲間の叫び声を聞いて振り向くとちらつく肌色の陰。

 原因がこれであることは分かっている。

 だがそれが何か不明なのだ。これが彼らに何よりも恐怖を与えていた。そして、


 ガサ!


「ぬ。ここか!」


 物音が聞こえ振り返り武器を向ける。



 その瞬間、帝国兵は見た。



 決死の表情で自身へと飛びかかる全裸の姿を……。


「う、うわぁぁぁぁ!」


 過去の経験を生かして辛うじて避ける。

 そして改めて目の前の敵を視認する。


……ぜ、全裸の男、だと?


 もはや自分でも何が何だかわからないが、目の前の全裸が仲間を倒した原因のようだ。

 とりあえず報告をしようと通信端末を起動し、副隊長であるシャルイーズに連絡を取ろうとする。


「こちらB班。副隊長、応答を! 全裸の男が味方を」


「させんよ」


 全裸の姿が掻き消える。そう思った、次の瞬間




 全裸は目の前にいた。



「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」


 そうして森に新しい悲鳴が響いた。







「……ふぅ、これで三人っと」


 帝国兵が倒れる傍ら、ジンは発動していた≪六仙≫を解除し、背後を振り返る。


「もう、いいぞ」


 ガサガサと音を立て、林の中からクレアが顔をのぞかせる。その顔には心無しか同情の念がうかがえる。


「……かわいそうに。薄暗い森の中、正体不明の全裸に襲われるなんて」


「助けてもらっておいてその言いぐさはねぇだろ!!」


 体の汗を拭いつつ、ジンはクレアへと突っ込む。


……どうしてこうなったんだろ。


 僅かばかり途方に暮れつつジンは数時間前のことを思い出していた。








―――数時間前


「しかし困ったわね」


「……どうしたんだ?」


 いかにも困ったという表情をして少女が告げる。


「さっきの戦闘で魔力を使い切ってしまったの。」


「ん? 別になにも不便はないだろ」


「素手で機械鎧を砕くアンタと一緒にするな!!」


 何が問題なのか理解すらしていない全裸に少女は軽い眩暈を覚えながら答える。


「いい? アンタは知らないかもしれないけど、帝国の機械鎧には魔力がなければ対抗できないのよ」


「……?」


 全裸は首を傾げ、先ほど戦った帝国兵の鎧の破片を拾って、


「ぬん!」


 バキ!


 その破片を素手で折り曲げた。


「……できるぞ?」


「普通は出来ないのよ! 普通は! アンタは普通じゃないの!」


「この一般人を捕まえてなにを」


「全裸で森を闊歩する男のどこが一般人なのよ!」


 はぁ、はぁ、と肩で息をする少女に全裸はふと疑問に思ったことを尋ねる


「ところで、帝国ってなんだ?」


「はぁ、はぁ……そんなことすらも、って知るわけないわよね。帝国の建国は500年ほど昔って話だし。いい? 帝国ってのはさっき私を襲ってた奴らのこと。あいつらはこの国を併合して、他の2国に攻め込む足がかりにするつもりなのよ」


「他の2国ってのは?」


「神国ゼノンとフレルベイン王国のことね。この国を挟んで帝国と反対側にある国々よ。この2国があるおかげで帝国はいまだに大陸を統一できずにいるわ」


「ふむふむ。でもなんでそんな国の兵士がお前を追ってたんだ?」


「それは……」


 少女は少し言いよどんだ後、覚悟を決めて答える。


「私がアルイン解放軍のメンバーだからよ」


……本当の理由はまた別にあるのだけどね。


「アルイン解放軍?」


「そう。このままでは3国に挟まれたこの国は戦場になってしまう。そうなる前にこの国を3国の共同管理という帝国の事実上の支配から解放し、中立国家として立ち上げるための組織よ」


「ふむ、解放ねぇ……」


……―――いつまでこのままでいればいいんだ!ジン、お前なら分かるだろ!俺たちの手で人々を解放するんだ!―――に満ちた――――を―――するために!……


「ちょっと、ちゃんと聞いてる?」

「あ、ああ」


 全裸は何かを思い浮かべるようにどこか遠くを眺めるが、

 クレアの声に反応した次の瞬間には何を浮かべていたのか忘れてしまう。


……あれ? 俺は今何を考えてたんだ?



「……ねぇ。あなた」


「ん? 何だ?」


 問いかける少女に全裸は答える。少女はここが正念場であると考え、話を切り出す。


「とりあえず行くところはないのよね?」


「まぁ、そうだな」


 全裸の答えに少女は予想通り、言わんばかりにわずかに頷くと、


「だったら、私たちと一緒に来ない? 記憶のないままここで放置するのも寝覚めが悪いし、何より私としてはあなたにこの森を抜ける手助けをしてほしいの」


 全裸に向けて手を差し伸ばす。


「ふむ……」


 全裸は考える。だが全裸の中での答えは既に決まっていた。理由はない。

 強いて言うならば月の中で舞う少女の姿。その美しさに心奪われたのが原因なのかもしれない。


「そうだな。俺はとりあえずジン、だ。フォールかどうかはわからんが、それでも構わないなら同行しようか」


「なら決まりね。私はクレア、クレア=エンコードよ。よろしく」


 全裸と少女の同行が決定した瞬間であった。











……それでめでたしってわけにはいかねぇのが現実の辛いとこだよな。


 回想を終え、ジンはクレアへと尋ねる。


「……しかしどうすんだこれ? このままじゃ埒があかねぇぞ」


「大丈夫よ」


 クレアはそこで不敵な笑みを浮かべる。何故かジンの背中に冷汗が伝う。


……≪六仙≫を使わなくてもワカル。イヤナヨカンガスルナァ(泣)


 心のなかでカタコトになりながらジンは続きを促す。


「……どういうことだ?」


「簡単よ。このまま兵士が行方不明になれば指揮官が動く。なにせこの三人で私が倒したのも含めると十人以上の帝国兵が戦闘不能になってるのよ。だから様子を探りに来る帝国兵の来た道をさかのぼって、敵の本陣に奇襲をかける。そして敵の指揮官を倒せばあとはその混乱に乗じて逃げるだけよ」


「……うわぁ」


 想像以上の無茶振りに全裸は眩暈を感じる。


「……だがまぁ、それしかない、のか?」


 疑問に思うも今の自分に軍略のことなどさっぱりなのだ。

 ここはクレアを信じてみるか、と先ほど帝国兵が来た道へと向かってゆく。が、そこでふと倒した帝国兵の様子を見て近づく。


「どうしたの?」


 怪訝な表情を浮かべて問うクレアに答えず、全裸は帝国兵の服を剥ぎにかかる。


「ちょっ! ちょっと待ちなさい! 何してるのよ!」


 全裸の突然の奇行に唖然としつつ、少女は全裸を帝国兵から引きはがす。


「ええい、後生だ!! 止めるな! 俺は服が欲しいんだ! いい加減寒いんだよ!」


「だからと言って服を剥ぐな!!」


「く、この際だ。せめてマントになる物だけでも!」


 必死の抵抗の末、帝国兵の持ち物から布を奪い、体に羽織る。


「フッ、これで俺も男が上がったな」


「……変態度が増したわね」


 軽く頭を押さえつつ、ドヤ顔のジンに冷静に突っ込むクレア。

 

 とりあえず二人は敵の本陣を目指して進むのであった。




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