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夢現の英雄  作者: Asagi
第一章 英雄召喚
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出会い

ついに二人が出会います

 少女は森の中を走る。先ほどから帝国兵と何度か遭遇し、消耗が激しい。


「これは、もうこの森は包囲されてると考えた方がいいわね」


 先ほどから帝国兵との遭遇場所が前方であったり、後方であったりと不定期だ。小さな森ではないのだが、西と東の通路以外には獣道ぐらいしかないため、包囲することはそこまで難しくない。

 元々は英霊を召喚し、突破するという作戦ともいえない計画だったのだ。

 帝国兵に追い込まれている今の状態は最悪の状況だ。


……このままでは、帰還は無理と考えるべきね。


 ブゥン……ブゥン……


 少女の胸元で振動。少女は一瞬顔をしかめた後、胸元からセルフォム――通信用の魔道具――を取り出す。


「……はい」


『こっっの大馬鹿娘がーーー!!!!』


「うぅ」


あまりの声量に一瞬耳が麻痺する。


『勝手に出て行った上に、呪具まで持ち出して何考えてんだ!!』


「でも、こうでもしないと皆が!」


『それでお前が捕まったら意味がねぇだろうが!!今、どの辺りだ!』


 その言葉に少女はハッとして真剣な面持ちとなり、尋ねる。


「……それを聞いてどうする気?」


『助けに行くに決まってるだろうが!』


 即答。

 少女は自分のことを気遣ってくれる仲間の存在をありがたく思うも、心を殺して告げる。


「……ごめん。悪いけどそれなら教えられない。今、ここは帝国兵に包囲されているの。私を助けようとしてもアジトの皆が返り討ちに遭ってしまう可能性があるわ。」


『でもそれじゃ、お前はどうなる!?』


 仲間の悲痛な声に胸を痛めるも、少女ははっきりと答える。


「多分、死んじゃうと思うけど、ただではやられないわよ。解放軍の一員として最後まで戦って、一人でも多く道連れにしてやるわ」


『馬鹿! 早まるんじゃねえ!』


「いままで、ありがと。アッシュ」


『おい!待てクレア! おい!聞いてんのか!』


 セルフォムを切り、剣を構える。


……嗚呼、できることならもう一度みんなで馬鹿騒ぎ、したかったかな。


 脳裏には仲間たちの姿。

 今まで苦楽を共にしてきた大切な仲間たちであるために少女――クレアは自分の身勝手に仲間を巻き込みたくはなかった。


 剣を抜き、構える。目の前には機械武装した帝国兵。


「アルイン解放軍、クレア=エンコード。参る!」


……みんな、ごめん。あとは頼むわね。


 剣に魔力を通して強化し、クレアは敵へと向かった。














 その頃、全裸は走っていた。それはもう走れ! 全裸! とばかりに。


「はぁっ、はぁっ、……一体この森はどうなってんだ! 熊はなんか毛がメタリックだし! 狼もでかいし!」


 全裸は激怒した! 

 が、どうにもならない。とりあえず、他の動物に見つからないように静かに、それでいて素早く駆けていた。……大きな河などがない分、まだ楽なのかもしれないが。


「だけどまぁ、収穫はあったか。」


 立ち止まり、全裸は全身に意識を均等に傾ける。


……---至幻流、奥義の一 ≪六仙≫ ---


 次の瞬間、周囲の景色がスローになる。


……どうやら、敵に出会うたびに少しづつ体が動くようになってきてるな。この技も、狼や熊と何度も出会ううちに使えるようになったし。


 もっとも、他の技は使えないが。


……この≪六仙≫って技、最初は時間の流れを遅くしてんだと思っていたが、どうやら違うみたいだな。恐らく、五感の強化と直感の強化を強化してる。結果的に六つの感覚を強化してることになるのか?


 実際、≪六仙≫使用中は森の匂いがかなりきつい。夜でもちょうどよく見える。そして嫌な予感がかなり当たる。このことからも感覚が強化されてるようではある。


「しかし、何だ? このガチャガチャうるさい音は。」


 しかもだんだんと自分に近づいて来てるようだ。普段なら自分から近づこうと思うのだが、何とも嫌な予感がひしひしと伝わってくる。


……さっきこれを無視して、さっきデカい熊と鉢合わせしちまったからなぁ。ここはやっぱり逃げておくか。


 そうして、一番嫌な予感の薄い箇所へと走る。






 そこで、全裸は見た。


「なんだ、ありゃ」


 それは黒髪の少女。彼女は2本の剣を持ち、黒い鎧を着た兵士たちへと向かってゆく。

 兵士たちは自身の剣で応戦するも、まるで剣と舞うような流麗な少女の剣の前にはあと一歩及ばない。


 月の光を浴びて疾く、それでいて美しく舞う少女の姿に。


 相手の数に怯まず立ち向かうその気高さに。


 そして何よりも、少女から伝わる悲愴な決意に。






 ――青年は、心を奪われた。






 だが、そんな時間も長くは続かない。少し離れた場所から黒い鎧を着た弓兵が少女へと矢を放つ。


「くぅっ!」


 少女は反応するも、機械仕掛けの弓から放たれる矢は重く、少女は短剣を弾かれてしまう。

 それを見た黒い兵士は好機と感じたのか、すかさず剣を少女に振り下ろそうとする。

 

「まずい!」


 その様子を見た青年は嫌な予感などかなぐり捨て、少女のところへと走る。

 距離は約10メートル。間に合わない。


……いや、間に合わせる!! 今の俺なら、護れるはずだ!!


―――至幻流、奥義の一 ≪六仙≫ ―――


 強化した五感の中、全裸は走る。

 ≪六仙≫は感覚を強化するが、肉体を強化することはできない。

 だが、極限の集中を以て、全身の筋肉を操作。これにより加速する。そして、




 青年は少女と兵士の間に右足を踏み込ませる。




 白熱する意識、思考はすでに遠く、あるのは少女を護りたいという想い。ただそれだけだ。




 駆ける勢いを殺さず、右足を軸に体にひねりを加え、渾身の後ろ回し蹴りを叩き込む。



―――至幻流 ≪月華≫ ―――



 結果は先と同じ轟音。兵士は機械の鎧を砕かれながら、弓兵へと吹っ飛び、弓兵を巻き込んで倒れる。


「…ふぅ。あぶねぇな。女の子一人に何人で襲ってんだよ。この変態どもが」


 残る兵士を侮蔑した目で見ながら、青年は少女――クレアの方を振り返り、尋ねる。


「大丈夫か?」


「ひぃっ」


 しかしクレアは目に涙を溜め、青年から離れようとする。


……まぁ、命の危険があったんだから当然だよな。


 青年は帝国兵へと向き直り、構える。


「んじゃ、とっとと終わらせるぜ!」


 言うが早いか、青年は手前にいる帝国兵へとふむ込み、


―――至幻流 ≪桜≫ ―――


 帝国兵の首の部分に一撃を加え、踏み込んだ右足をそのままにして腰を捻り、残る帝国兵に後ろ回し蹴りを叩き込む。


「破!!」


―――至幻流 ≪月華≫ ―――


 

「ぐはぁ!」


 攻撃を受けた帝国兵はたまらず吹っ飛ばされ、気絶する。

 そして、周囲に束の間の静寂が訪れる。


……ふぅ、まぁ、何とかなったな。ってアレ?なんか武装集団をノーダメでソロクリアしてねぇ?なんか俺、だんだん強くなるなぁ……


 だんだんと強くなっている自分に対してまぁ、いいかと一つうなずいて背後を振り返り、クレアの方へ歩み寄るが、


「来ないで!!!」


 クレアは先ほどよりもさらに恐怖を浮かべ、いつの間にか拾っていた双剣を手に構える。


「え?ええ!! ちょっとまて! おかしいだろその反応!」


 一歩踏み出すも、


「動くな!!!」


「ええーーー」


 少女は青年に変わらず制止を告げる。

 その身から伝わる雰囲気はまさに一触即発。


「いや、待てよ。ちょっと落ち着こうぜ」


 どうにか平和的解決を図ろうとする青年に対し、


「うるさい!! 来ないでよ! この変態!!」


 クレアは恐怖に駆られながら、叫んだ。


「はぁ!? 俺のどこが変態なんだよ!」


 ここにきて、さすがに青年は怒る。感謝されたいと考えて動いたわけではないが、少しぐらいは感謝されてもいいと思うのだ。


 それが変態扱いとは。社会の窓でも開いてるというのか。


「ひぃっ! こんな森の中、全裸でいるなんて、変態以外の何者でもないでしょうが!」


 一歩踏みだす青年に悲鳴を上げながら少女は告げる。


「ゑ?」


 ここで青年(全裸)は自分の姿を見る。

 

 股間を隠していた葉っぱは先の戦闘ですでに無く。無駄な脂肪のないバランスよく鍛えられた筋肉。


…うむ、肉体美。って違う!!


「いや、これには何とも深い訳があって、自分は決して変態なんかじゃ…」


「うるさい。こっちに来るな! 我は求む月下の光輪!≪シャイニング≫」


 クレアの詠唱と共に全裸に向かう、光の玉。


「う、うわぁ!! まて!! 何それ怖い!!」


 紙一重で避けるも、相手は次の詠唱を始める。


「天地の間にて我は乞う! 彼の罪人に裁きを! ≪ジャッジメ…≫」


「まてーーー!」








 これがのちに大陸中を揺るがす二人の、初めての出会い。

 …何ともひどいものだった。

まぁ、いきなり鬼強い全裸が現れたら怖いですよね。

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