全裸現る!
……ここは、どこだ? ……
気が付くと青年は夜の森の中に倒れていた。歳はだいたい二十歳ぐらいだろうか。
この辺りでは珍しい銀の髪と黒い瞳を持つ青年だ。
青年は目を覚ますとまず昨日の自分の行動を思い出そうとする。
しかし、なにも思い出せない。
……ええっと、なんで俺はこんな森のど真ん中に放置されてんだ?
「おお、寒!!」
まるで本の主人公のような状態だなっと感じながら、疑問に思いつつ立ち上がり、服を寄せて風を防ごうとする。
「んん?……!!!」
が、そこで重大なことに気付く。
気付いた瞬間、世界が反転したようなような衝撃が自身を襲う。
「……なんで」
確かに、自分の記憶にない森の中に放置されていたら、慌てるだろう。
当然のことだ。
だが、それよりも、今の青年にとって重大な事態がある。
それに比べたら自分が森の中に放置されてたことなど、まだ許容できる。
何よりも青年的に問題だったのは
自身の体を覆う無駄の無い筋肉。まるで鋼の様な肉体だ。
それが、はっきりと見えている。
「なんで俺全裸なんだよーー!」
つまり、自分が全裸になっていることだった。
――数分後
「ぜぇ……ぜぇ……しかし、こうしていても仕方がない。とりあえずは情報収集がしたいんだが……」
周囲に広がるは広大な森。情報収集を行うならこの森しかないのだが、今の自分は全裸。
……いや、全裸だぞ、無理だって。虫とか蛇とかやばいって……
開始2秒で情報収集の選択肢を消そうとして
ビュォォォォ
「おおぅ」
強い風が吹く。
常ならばさほど寒くないその風。だが耐寒性能ゼロな今の自分には意外と致命的だ。
……薄着どころか何も着てないからな。なんか探すか。せめて股間は隠したいし。だけどやっぱこれで林の中を進むとか、ちょっと難易度高すぎませんかね?
悩む。されどここでじっとしていても事態は変わるわけもない。仕方がないのでとりあえず目の前の森へ踏み出そうとする。
「ええい。ままよ。では、レッツごー」
足を踏み出す。が、
「痛ぇ!」
裸足に整備されていない森はやっぱりと言うべきか、いささか難度が高いのであった……。
「はぁ、はぁ……このままじゃ埒が明かないわね」
追手から逃げつつ、少女は先ほどの儀式について考える。
儀式に必要なものはマナの満ちた場所、適切な星の並び、術者の魔力、そして召喚の触媒となる呪具の4つ。今回は半年前から準備を進めていたので、先の召喚失敗は本来ならばありえない筈だったのだ。
しかし、失敗した。ならば原因はやはり
……私が、未熟だったせいだ。
「いたぞ!こっちだ!」
「まったく、手間取らせてくれるな!!」
「く、まずい」
……これ以上集まる前に先手をとる。
追手は二人。地の利はこちらにある。そして何よりこのままでは埒が明かない。
少女はそう判断し、腰の鞘から剣を2本抜く。
1本は長く、もう片方は短い。長剣を右手に、短剣を左手に、それぞれ順手で構え剣に魔力を込めながら土を踏みしめ、敵へと駆ける。
「な、なんだと」
今まで逃げに徹していた標的が攻勢に出たのが意外だったのか、一瞬、追手が動揺する。
だがその一瞬で少女には十分だった。
「はぁ!」
「ぐはぁ」
その一瞬の間に少女は右手の長剣を相手へと叩き込む。
煌めく剣閃、それは狙いをたがえず敵の首を半ば断ち切る様に切り裂く。
「こいつ!」
二人目の追手が剣を振った隙を突いて剣で切り込もうとするも、
ギィン!
少女は胸元で構えていた左手の短剣でそれを捌き、相手の体勢を崩したところで振り切っていた長剣を自身の元へ引き寄せる。
「く、くそ!!」
迫る少女の長剣に敵は後ろに下がって避けようとするが、遅い。
「ガハッ」
流れるように繰り出された剣戟により、男は武器を失うと同時に、急所を切り裂かれ、そのまま地面に倒れこむ。
「ふぅ、何とかなったかな」
倒れた追手二人を見て、少女は安堵する。
とはいえ、相手は多数。
二人倒したぐらいではまだ安心できない。
それに、2人だけとはいえ、迎え撃った分だけ時間のロスも多い。その間にも敵の包囲網は自分を追いつめる。
「……とりあえずアジトに戻ろう」
剣の血を払い、鞘に戻すと、少女は再び闇夜の森の中を駆けた。