『ハンター』
あのあと、ノアの父親……ヒルス・コサジュさんの殺人的な笑顔に押され、抵抗空しく承諾まで追いやられ、ハンターになることを約束した。
ヒルスさんは「ゆっくりでもいいから、ケルぐらいの小型モンスターでも倒せればいいから」と言っていた。
命の恩人の父親からの頼みとなれば断れない。ていうか断るなんて不可能だろう。あの輝く笑顔トラウマになりそう。
ヒルスさん宅から出て、ノアに我が家となる空家に案内された。
入口に木の札がかかっており、赤い字で「空家」と書かれている。中にはほぼなにもないような状況だった。
ノアはすべての家から札をとり、私たちに渡した。
「これ、なんに使うんだ?」
龍人が聞いた。確かに、こんなもん渡されても困る。ノアはまた歩き出しながらしゃべる。私たちもついていく。
「それ、この村の家を管理してるカロス爺に自分で渡さなきゃいけないんだ。これから行くから、無くさないでね」
ふむ。つまり管理人さんってことか。しかも爺さん。
歩く途中で、鍛冶屋や雑貨屋みたいなお店があるのが見えた。鍛冶屋のようなところで、剣を砥石でシャッシャと研いでいる人もいる。ドワーフみたいな小さい人だ。
「ノアさん、あの人とか、人に見えない人がたくさんいるんですけど……」
耳の尖った綺麗な女の人がお店で何かを購入しているところを見て、好奇心に勝てずに聞いた。
「ん?ああ、だって人じゃないもん」
……やっぱり?
「あ、ホントだ、耳がとんがってたり、ちっちゃい人がいっぱいいる」
織は今気付いたようで、不思議そうに見ている。
ノアがそれを見て笑顔で言う。
「耳の尖った綺麗な人がエルフで、小さい……って言ったら怒るね、剣を研いだり作ったりしてる人がドワーフ。さ、ついたよ」
目の前には家ではなく、下に布を敷いて、一見道のはしを陣取っているようにも見える格好で座っている、ひげをたくさん生やしたお爺さんがいた。普通の爺さんより小さい。まさかドワーフ?
「カロス爺、久しぶりだね!」
ノアがそう言ってカロス爺さんと思しき老人に言った。
それを見ると老人は立ち上がって、
「おお、ノアじゃないか!レーンの狩猟から帰ってきたのか?」
「それ一昨日の話」
……カロス爺さん、大丈夫なのか。てかレーンてなんだ。
「まあまあ、今日は客人を連れてきたようだな!」
やたらと大声で話すので私は顔を少ししかめていたが、ちらっとこっちを見られて顔をすっと真顔に戻す。やろうと思えばできるもんだな、私。
ノアが「紹介するね!」と、全員の名前をあげていく。
カロス爺さんはうんうんと相槌をうちながら聞いていた。こちらも友好的な笑みだ。ヒルスさんみたいな迫力はない。ほっ。
「で、今日はどうしたんだ?」
話が終わったのを見計らって、カロス爺さんがノアに聞く。
「あ、実はね……」と、ノアが今までのことを簡潔に説明する。
「……ってことで、空家もらおうと思って来たの」
一気に喋ったノアははあはあと息をつく。
「そんなに急いでしゃべらなくてもいいだろうに。相変わらずだな」
カロス爺さんは笑い、私たちに手をのばしながら言った。
「じゃあ、札をくれるか」
私たちが札を小さな手に乗せると、カロス爺さんは札を軽くなでた。
「よし、いいぞ。今日からあの空家はお前さんらのもんだ」
面倒な手続きなどを予想していたが、どやうやらこれでいいらしい。
「ありがとうございます!」
七瀬が嬉しくてたまらないというようにカロス爺さんにお礼を言った。
「どうも」
私と竜人、龍人が言う。
「あ、ありがとうございます」
少し遅れて織。
カロス爺さんは軽く笑って、何かあったらまたおいでと言ってくれた。