表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

『シュダル村』

それから、三十分ほど森の中を疾走した。


動物に乗ったことさえない私たちには慣れないことばかりだったが、いつものゲーム感覚でやってみるとなかなか気持ちのいいものだった。


右に手綱を引くと右へ、左に引くと左へ。後ろに引くと減速する。そんな感じの、簡単な操作だった。


だがスピードと走るときの衝撃はすごかった。尾骨が痛い。


やっと村に近づいたらしく、ノアが嬉しそうに言う。


「みんな、今度はホントのホントにあとちょっとだよ!」


「よかったぁぁ……」


今、死人のような声で言ったのは龍人だ。たぶん、いちばん痩せてるやつを選んだからみんなよりさらに尾骨が痛むのだろう。バカめ。


七瀬は憎たらしいことに背中の肉が多いやつをたまたま選んだようで、痛がる素振りなどまったく見せなかった。


ノアは慣れたんだろう。とにかく楽しそうだから。


ちなみに私はガリガリでもないがデブでもない。安定のザ・普通である。


なんてことを考えていると、急に明らかに人が作った立て札が現れた。


少しずつスピードを落として、その字を読む。


“この先 シュダル村”


シュダル村?ノアの言ってた村か。というか日本語なのね。


ノアが立て札を指さし、


「ね?」


と言う。


ノアがもう歩いても10分ぐらいでつくからと、先ほどまで乗っていたウルたちを放すことにした。


ウルの群れは遠く離れてしまったので少し不安だが、ノアが絶対大丈夫という。


ここまで運んでくれたお礼として、ノアが赤い木の実をポーチから取り出してウルたちにやる。


食べ終わり、首からツタを外してやると、ウルたちはゆっくりといままでとは反対のほうへ歩いていき、やがて走って森の中に消えた。


それまでノアは合掌し、「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。私たちもありがとうと呟く。


「さて、行こうか!」


ノアが再び爽やかな笑みを浮かべ、歩き始めた。



10分ほど歩いた。ほんとについた。


その村は人数は40人ほどらしいが、活気が良くて気の良さそうな人ばかりだ。


ときどき見かける、ノアのような防具や武器を背負っている人はハンターだろうか。


あと人とは思えないような、耳が尖ったエルフみたいな人と小さいドワーフみたいな人がいるのは気のせいだろうか。いや、たぶん本当だな。嘘みたいなことが起こってばかりだから。


ノアはずんずん歩いていき、ときどき声をかけてくれる人に大きな声で応じる。


私は軽く会釈するだけだが、みんなは声を出してあいさつする。


思わず周りを見てしまう。


木材でつくった住居と、石造りの大きい集会場のような建物がある。素朴なようだが、色がある。


ケルトスの鱗を飾っている家も発見した。


ノアはそれには目もくれず、まっすぐ前を見て歩く。


ついたのは、ほかとはひと回り大きな住居だ。どことなく威圧感がある。


ノアは気にせず、竜をモチーフとした入口から垂れている布を押しのけて中に入った。私たちもそえに続く。


「お父さーん」と、ノア。


あれ、お父さん?


「おお?ノアか、どうした」


家の奥で返事をしたのは、頬に大きな傷跡のある男性だった。ノアの父親らしい。


ノアの父親は私たちに気付くと、にっこりと笑った。私たちは慌てて会釈したり、「どうも」とあいさつする。


「ノア、この子たちどうしたんだ?」


ノアの父親は笑みを崩さずに言った。感じのいい人柄のようで、少し安心した。


「森にいたの。ケルトスの巣から出てきたんだって。でもここのこと何も知らないの」とノア。


私が聞いても少し意味が分からないが、さすが父親、理解したらしい。


「ふむ。記憶喪失では?」と、ノアの父親。


「ちがうって」


ノアが答える。


ハンターどんだけ記憶喪失になるんだ。まああんなモンスターと戦ってるからなるかもしれないけどさ。


ノアの答えを聞くと、ノアの父親は「うーむ」と唸り、やがてぱんっと手を叩いた。


その仕草が、先ほどのノアの動きにあまりに似ていて、思わず笑みを浮かべる。やっぱ親子ってか?


「とにかく、キミたちは行くとこもないってことでいいかな?」


ノアの父親は私に聞いているようだ。なぜか視線がこっちを向いてる。


「あ、はい」


私が簡潔に答えると、ノアの父親は輝くような笑顔になった。今までもかなりいい笑顔だったが。


「じゃあ、ここでハンターになる気はないかな!?」


「……へ!?」


あ、やっぱりみんなすっげー気が合うのな。


そう思うほどに、私たちは同時に悲鳴とも言える声をあげた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ