『足代わりのモンスター』
数時間、うっそうとした森の中を歩いた。
村どころか、人一人動物一匹いない。
「なー、いつになったらつくんだよー」
とうとう痺れを切らした竜人が声を上げる。
「うん?もうちょっとだってば」
「それ、一時間前も三時間前も言った」
のんびりと言ったノアに対し、織がすばやく突っ込む。
「だってホントだもん」
ぷくっと頬を膨らませて言うノア。かわいくしても許容範囲超えてるからな。
「じゃあ、あとどのくらいでつくんだ?」
龍人が聞く。はじめからそう聞けばよかったのか。
ん~、とノアは考えこみ、結論を述べる。
「あと、三時間ぐらい?」
……どこがあとちょっとだよ、おい。
「全然ちょっとじゃないじゃん」
ははっと笑いながら七瀬が言う。
「えぇ、そう?あたしにとってはちょっとだけど……」
どんな感覚してんのこの子。
でも、狩りは忍耐だって言うし、待ってる時間が長かったりして時間の感覚が私たちとは少し違うのだろう。そう推定した。
突然、ノアがピタッと動きを止め、しゃがみこんだ。反射的に私たちもしゃがむ。
「どうしたの、ノア?」
織が不安そうに聞く。また怪物とか出てきたらもう織泣くな。もうすでに涙目だし。
ノアはそれを見て、少し笑って言った。
「大丈夫だよ、ただ、足がわりになる竜を見つけてね」
足がわり?
私が質問するよりはやく、ノアがしゃがんだまま移動を開始した。
私たちも音を立てないようにノアの後ろについていく。
意外にすぐ近くにその竜はいた。ケルトスより少し大柄で、人一人乗れる大きさだ。
のんびりと草を食べて、周りのことを気にしていないように見えるが、遠くのほうにきょろきょろあたりを見ている竜が一体だけいる。たぶん、見張りだろう。
その見張りから一番遠くにいる竜のすぐ隣までくると、いつの間に採ったのか、長いツタを私たちに手渡した。
「これをあの竜の首にひっかけて、そのまま上に乗っかって」
小声で言うと、全員が戸惑いながらうなずくのと同時に、ノアがツタを投げた。
慌てて私たちもツタを投げる。不器用だが、なんとか首にひっかけることができた。
そしてそのまま手綱のようにして背によじ登り、バランスをとる。
私の選んだ、ほかより少し大きめの竜は不思議と暴れず、そのまま私を乗せてくれた。
私の選んだ竜だけでなく、首にツタを捲かれた竜は暴れないでそこにいる。その他の竜は驚いて逃げたようだった。
「うわっ」
織の声だ。見ると、少しバランスを崩したらしいが、なんとか落ちずにすんだ。
初めてやって失敗者がいないというのはうますぎる話だが、事実だからいいだろう。
「わお、みんな上手だね。もしかして初めてじゃない?」
ノアが感嘆の声をあげるが、もちろん初めてだ。この生き物を見たのも初めてなんだから。
「初めてだよ。そんなに上手だった?」
七瀬がすこし照れたように言う。いつもそんなふうにおしとやかでいてほしいものだな。
「なんでこんなにおとなしいんですか?」
私が聞くと、ノアはなんでもないというように話す。
「この竜……ウルっていうんだけどね、この子たちは首になにかあると大人しくなるんだ。そういう性質?なんじゃない?」
ノアはそう言って笑い、
「さあ、ぶっ飛ばすよ!」
と言って、ウルの背中をパンッとたたき、「行け!」と命令する。すると、ウルは一気に掛け出した。
またもや私たちは慌てて真似をし、必死に、とにかく必死にノアのあとをついていった。