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『救世者、ノア』

「キミたち、大丈夫?」


かなり爽やかな笑顔で言ったその人。さっき怪物を短剣二本で撃退したとは思えない口ぶりだ。


私はあっけにとられてぽかんとその人を見る。


だが、すぐに気を取り直して顔の筋肉を引き締めて表情を消す。つまり無表情になったのだが。


「おう、大丈夫だぜ」


「左に同じく」


「だいじょーぶだよー」


「平気です」


「だ……大丈夫くない……」


龍人、竜人、七瀬、私、織の順で答える。なぜ4人平然としていられると思う人がいるだろうが、それは答えられないな。自分でもわからないから。織は完全に参ってる。異常な怖がりだから。


「そっか、すごいね~」


先ほど怪物の喉に刺した短剣をボロ布で拭きながらにこにこしている。地味に怖いんだが。


その人は狩りゲーでよく見る双剣のような武器を背負い、蒼い鱗のような素材でできた露出の多い防具を装備している。いや、綺麗だから文句ないんだが。


……つうか、ここどこだよ。まず一番必要なことだよ。もしかしてこれは夢?夢なのか?それはそれで悲しい。なんとなく。


よし聞いてみよう、そうしよう。


「あの、ここどこですか」


私が言うと、ぽかんとする女の人。


「え、知らないの?なんで?」


いや、質問を質問で返すのはおかしいでしょうが。


「知りませんがなにか~」


七瀬がふざけたように言う。お前さっきの光景見てなかったのか。


「そっか~、じゃあ何、記憶喪失のハンターさんの集団かな?」


「ハンター?」


声がそろう。どんだけ気が合うんだ。


「あれれ、ハンターも知らない?」


またぽかんとした顔になる。その前に、私たちは記憶喪失ではない。


「記憶はありますけど、何も知らないんです」


すこし棘のある口調になってしまった。知らない人で、しかも目の前であんな恐ろしいことが起きたんだから、当然と言えば当然なんだろうが。


「ええっ、キミたち、一体どこから来たの?」


「ここから」


織が指をさす。背後には大きな洞窟。私たちはここから出てきたのだ。


「ありゃりゃ、ここは確かさっきの竜の巣だったはずなんだけど」


「竜?」と竜人。


さっきの怪物、竜なのか……。


「またの名をケルトス。ケルの群れのボスだよ。丁度群れを離れて巣に戻るとこだったみたいだね」


むむ……なんかホントに狩りゲーみたいな感じだな。


ケルっつーのは小型モンスターで、さっきのケルストっつーのが中型モンスターってとこか。口調からして、そう強敵モンスターをいうこともないだろう。


もしかして、初心者にちょうどいいぐらいのザコモンスター?


……て、違う違う。


「つまり、あたしたちはその巣穴から出てきたわけか」と七瀬。


「うん、そう。この前入ってみたときは、なんもなかったけど」


ふむ。なんかありきたりなパターンだなこりゃ。


洞窟の中をみんなで覗き込む。真っ暗だ。何も見えない。懐中電灯をつけようとしたが、なぜか光が灯らない。


七瀬もカチカチスイッチを押しているが、やはりダメだ。


全員暗闇の中に進んで入れるほど度胸はない。ので、諦めた。いや、自分でもどうかと思うが。


しょうがないじゃないか、怖いものは怖い。


「じゃあとりあえず、あたしの村おいでいよ、歓迎するよ!」


帰るところも行くところもない。断るほうが馬鹿。行こうではないか。


「オッケーオッケー、行く行く!」と七瀬。


「あ、ちょっと待って」


七瀬は急にその場にしゃがみこんだ。


なにかと思えば、なんとケルトスが落として行った真紅の鱗をズボンのポケットに突っ込んだ。


「おい、お前なにしてんだよ……」


「綺麗だったから」


呆れ気味に言う龍人。すると、お姉さんは藍色の瞳を輝かせてぱんっと手を叩いた。


「そっか、採集しないといけないんだった!」


さ……採集!?


そうか、ハンターがいるぐらいだもんな……うん。なんかほんと狩りゲーみたい。モンスターがいるとどこも同じようになるのかな。


膝をついて落ちた鱗を広い、腰に巻いたウエストポーチにせっせと入れていくお姉さん。


それを見て、私と竜人、龍人、織も拾ってポケットに突っ込む。


いや、なんとなくね、うん。


落ちている鱗は少ないので、1分もしないうちに全て拾い終わった。私は5枚程度拾った。


大きさはまちまちで、手のひらほどの大きさのものや、親指の爪程度のものもある。聞けば、ちょうど鱗が生え変わるころでぽろぽろ剥がれやすくなっているんだとか。


お姉さんは立ちあがって、ウエストポーチのボタンを閉める。


「さて、行こうか!」


にこっと笑う。


お姉さんが歩き始めて、それに私たちがついていく。


数歩歩き、ふとお姉さんが瞳と同じ、藍色の長い髪を揺らしながら振り向く。


「ねぇ、キミたち、名前なんて言うの?」


名前?


ああ、名前か。出会いがなんか強烈だったから、お互いの名前なんて気にもしなかった。


お姉さんは聞いてから、また歩きだした。


「済郷秦です」


「あたしは中森七瀬」


「弟の中森織です」


「大崎龍人だ。こいつの兄ちゃんな」


「大崎竜人。弟だ。名前間違えんなよ」


それぞれ、名前だけの自己紹介を終える。お姉さんはまたにこっとして言った。


「あたしはノア。ノア・コサジュっていうんだ。よろしくね!えっと、サイゴウと、ナカモリと、オオサキ?名前同じだと不便じゃない?」


あれ、なんかおかしい。外国みたいな名前の形なのかな?こっちの人は。


「名前は下の方です、私は秦」


私が言うと、お姉さん……ノアは「ん?」と不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「わかった!シンと、ナナセと、シキと、タツトと、リュウトだね!」


おー、よく一発で覚えられたな。すげ。


「そうだよ、ノアさん」


織が答えると、ノアはまた首を回してこっちを見、片手を軽く振って言った。


「いやいや、さんなんてつけなくていいよ、年齢は同じくらいでしょ?それに、堅苦しいのはあんまり好きじゃないから。シンとシキ、敬語もなし!」


いや、そう言われても……七瀬とかは全然いいかもしれないけど、私なんて七瀬たちに会うまでボッチだったし、普通に話せるわけがなくて。


みんなは「オッケー」とか「元々そのつもり」とか言ってるけど、私は黙ってる。


「どうしたの、シン?」


ノアが、私の顔を覗き込んで聞いてくる。私は顔が赤くなるのを感じながら、スッと顔をそむけながら言う。


「え、えっと……」


相変わらずというかなんというか……。コミュ障か私は。


「あ~、秦は人見知りなんだ。だから呼び捨てとか敬語なしとかは無理なんだよね~」


最後に「笑」がつきそうな笑顔で言う七瀬。絶対心の中でバカにしてやがる。後でシメとこ。


「へぇ~。大変なんだね……?」


ノア、自分でもそれが大変なことなのか分かってないだろ。


「ていうかさ、」と、龍人。


「いつになったらノアの村につくわけ?」


「ああ、もうちょっと歩くと着くよ」


それだけ言って、ノアは前を向く。


そのあとはほとんどしゃべらずに、森の中の小道を歩いた。


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