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魔法少女の狭き門  作者: 朝間 夕太郎
1週間チュートリアル ―黒ホス計画編―
15/113

第15話 チュートリアルは早足とともに

 命は、相対性理論という言葉を考える。

 恋人との甘いひと時は一瞬だが、熱いストーブの上に手を置いた時間は永遠にも思える。時間とは相対的なものなのである。


 そう、たとえ他の新入生にとっては長い時間であっても、命にとっては数秒にも満たない短い時間だったのだ。


 正門より徒歩十五分の森林に位置する大ホール――通称ロミオホール。

 入学式の舞台は二千人を集客可能な3階建てホールであり、赤い劇場椅子が映える空間だった。


 正門前での騒動から逃げ出し、命と根木がここに着いてから三分後。

 入学式は幕を開けた。


 ――そして、入学式はあっという間に終わった。その言葉は命にとっては比喩表現ではない。


(そう、それは相対性理論なのです)


 アインシュタインは偉大なのです、と命は半ば開き直ることにした。

 たとえアインシュタインが偉大であっても、命の愚かさは変わることはないのだが、その点については目をつぶる所存である。


 入学式は全部寝ていた。そう全部だ。

 開式宣言から始まり、閉会宣言に至るまでの記憶はない。開幕の次に見た光景が、閉幕だった。


 理事長の言葉も寝ていた。

 在校生代表の話も寝ていた。

 新入生起立の合図を受けても寝ていた。

 校歌斉唱するときもやっぱり寝ていた。


「起きてよ、八坂さん」

「……ふへえ」


 右隣に座る根木に、肩を揺すられた。

 間抜けな声を上げてから、命は初めて自分が寝ていた事実を知る。


 命は周囲を見渡す。ロミオホールからは、続々と新入生が退出していくところだった。


「もしかして、私寝ていましたか」

「うん。眠り姫も寝床を譲る眠りっぷりだった系」

「……まさかとは思いますが、目を付けられていませんでしたか」

「それはそれは。生徒から教師陣に至るまで、全方位から注目の的だった系」


 心地よい睡眠状態だったのに、急に冷水をぶっかけられた気分だ。


 背中の寒気で、命の眠気はスッキリである。

 会場入りが遅かった二人は、運悪く最前列に座っていた。入場順に詰めるのでなく、自由に席を詰める方式だったことが災いした。


「あの……後で入学式の内容を教えていただいても」

「無理だよ。だって私も途中で寝てた系」


 根木の話を要約するとこうだった。

 友人一人に居眠りをさせて、恥をかかせるわけにはいかない。私も寝た振りをして、恥を半分こしよう。途中で私も寝てましたー。てへぺろ。


 命はひどい三段論法を聞いた気がした。友人ともども入学式爆睡とは、心象最悪である。


 入学初日にして、命は全方位から視線を集めすぎた。チキチキ魔法少女入学杯の勝者として、その名は瞬く間に売れていく。


 それに相手も悪かった。フィロソフィア家のご令嬢を倒したとなると、ただの外部進学性という言葉は通用しない。


 挙句の果てには、入学式は全部寝落ちの快進撃。黒髪の乙女は、入学式初日から飛ばしていた。


(これでは那須さんと一緒に保健室で寝ていた方が、良かったかもしれませんね)


 ああすれば良かった、こうすれば良かった。

 過去の選択を後悔する思いが浮かぶも、命はぶんぶんと頭を振った。


 秘密を保持することばかりに気を取られて、つい数時間前にストレスが爆発したのだ。人間、適度にテキトーが大切だと思い直した。


(本当に反省するなら、寛容に生きることを学ぶべきです。三年間という期間は長いのです)


「根木さん、相対性理論ですよ」

「ほわ。何その難しい言葉は?」


 命が相対性理論を説明すると、根木は納得した。


「そっか、すべては相対性理論の所為だったのか。この時間泥棒さん目!」


 そう言ってお茶目に笑う根木を見ていると、命の力は幾分か抜けた。この能天気な友人といれば、先の失敗など大したことないと思えたのだ。

 

 いい具合に頭が空っぽにすると、二人は退場する新入生の列に続いた。

 一度正門前方向に戻ってから、白亜の城へと向けて列は歩く。途中には白レンガ造りの7つの教育棟、購買部など様々な施設が見えた。


 そのまま流れる川に身を任せるように歩いていると、見知った顔が近づいて来る。小柄なおかっぱ魔法少女、那須だ。


 大規模質量転移魔法――戦乙女の門(ヴァルキリーゲイト)で体調を崩して、彼女は先ほどまで保健室のお世話になっていた。


「あっ、那須さんだ。もう体調は大丈夫系かな」

「あの……おかげ様で。本当にありがとうございます。お二人が大変なことに巻き込まれたこともお伺いしました」

「気にしないで下さい。大したことじゃありませんから」


 恭しく頭を下げた那須に対して、命は丁寧に答えた。命としては当たり前の返答をしたつもりなのだが、どうも周りの受け取り方は違った。団子になった新入生は静かにざめつき、ひとひそと話し合う。


「今の発言を聞きましたか。御三家を打ち負かすのが、大したことでないと」

「なんという強心臓の持ち主。さすがは黒髪の眠り姫ですわ」

「黒髪ポニーは、毛並みが違いますね」


(……どうやら、私がもう少し気にした方が良さそうですねえ)


 新入生の間を飛び交う噂には、二つ三つあだ名が混じっていた。黒髪の眠り姫とか、黒髪ポニーとか、酷いものだと黒髪の悪魔である。


(わー。私、入学初日にして二つ名持ちだ。明日から黒髪の眠り姫――八坂命と名乗りましょうか。ふふふ……ふて寝しますよ)


 もう噂は止まりそうにないので、命は割り切ることにした。悪い方向にばかり目を向けるから、物事が面白くなくなるのだ。


 この場所には、何もかもが新しい新生活がある。見方次第で、幾つでもワクワクを探せるのだと。


「あの……すいません」

「どうしましたか。那須さん」


 那須は、申し訳なさげに二人に話しかけた。


 奥ゆかしいのは美徳であるが、友人の間柄としては寂しくもある。二人は何でも聞いて下さいと、笑顔を見せた。


「それでは、入学式の内容を教えていただけますか」

「すいません……それについては、相対性理論としか言えません」

「那須さん、入学式は相対性理論だよ!」


 二人は口を閉じた。

 これ以上は、何も言えなかった。


「相対性理論ですか……深いですね」と那須は深読みした。


 乙女が三人寄っても文殊の知恵は出なかった。


 


     ◆


 


 女学院のシンボルといえる白亜の城の構造は、シンプルだ。最上階の6階は監視塔、5階には理事長室と各教員の私室がある。その他2階から4階の空き部屋は、一般教室として開放されているといった具合だ。


(しかし機能的というか、夢がないというか)


 表向きは城の造形を残しつつも、中身は教育施設として整備されている。1階エントランスには普通に事務員窓口があり、利便性を求めた結果、中世の城の雰囲気が壊されていた。


 女生徒の集団がため息を付くと、事務員のおばさんは睨みを利かした。

 夢が壊れたとか言おうものなら、事務処理をしてくれなくなる。命の直感がそう告げていた。


 1階の説明を簡単に受けると、ひよこ集団は階段を登る。手すりの造形に目を惹かれながら、上階へと足を運んだ。


 2階に教室がある生徒と別れて、集団は次に3階へと上がる。命と那須の所属するクラスがあるのは、ここ3階だった。


「ううっ……なんで私だけ、別クラスなのかな」

「こればかりは仕方ありませんよ。後で合流しましょう」

「大丈夫ですよ。我等友情永遠不滅……なのです」

「責任者はどこだ! 責任者を出しなさい!」

「あの……責任者は理事長先生かと。5階にいるようですが、さすがにそこに喧嘩を売るのはちょっと」

「ここは我慢の時ですよ。私たちの友情が試される場面です」


 命は那須と二人がかりで、根木を宥めすかす。

 根木の教室が2階にあることを考えれば、3階まで付いて来た彼女がどれだけ二人と離れたくないのかがわかる。


「うー、わかったよう」


 不満はありありと見えたが、何とか納得してくれたようなので、命も一安心した。

 さすがに理事長との喧嘩に巻き込まれでもしたら、話題の人物では済まない。


「二人とも、それじゃあまたね」


 寂しげな背中だが、こればかりは黙って見送るしかなかった。友情も大事ではあるが、学業のほうだって疎かにはできない。


(厳しい言い方をすれば、私たちは遊びに来たわけではないのです)


 小さなくなる根木の背中を見送っていると、那須がクラス割りのプリントを見ながら、首を傾げた。


「あの……根木さんの教室は2階ですよね」

「クラス割りのプリントを見る限り、そうですね」

「彼女、今階段を上がっていきましたけど」

「那須さん。八坂は腹痛でお花を摘みに行ったと、お伝え下さい」


 了承を得ると同時、命は渡り廊下を全速力で駆け抜けた。理事長に喧嘩を売ることだけは阻止せねば、その使命感が命の足を回した。


(今こそ、一ヶ月間の成果を見せるとき――ッ!)


 セントフィリア女学院への入学を決めてから、一ヶ月間弱。何も命は毎日を遊んで過ごしていたわけではない。今は遠い地にいる母親の乙女レッスンを受けて、乙女の純度を上げていたのだ。


 その成果の一端が、命の走りにある。


「きゃあ」

「すみません」


 危うく衝突しかけた女生徒に詫びの言葉を入れながら、命は先を急ぐ。


 今なにより優先すべきは、根木の身柄確保である。しかし、その態度が気に食わなかったのか、おざなりに謝られた女生徒Aはむくれていた。


「全く。セントフィリアの乙女とは思えない粗野な振る舞いですね」

「いや、貴方は何もわかっていませんね」


 隣に立つ友達、女生徒Bが反論する。クイッと上げた眼鏡のレンズが光った。


「本来であれば、貴方は態勢を崩して尻もちをつくところでした。しかし、あの方はさり気なく手を添えることで、貴方を助けたのです」

「まあ、全然気づきませんでしたわ」

「それにあの走り方を見て御覧なさい」

「まあ! なんて見事な」


 命の後ろ姿を見て、女生徒Aは絶句し、女生徒Bは息を呑む。今ここに乙女の常識が覆されたのだ。


「あれだけの速さで駆けていますのに――ッ!」

「そう、彼女の走法は正に乙女走り。まさか生きているうちに、この目で乙女走りを見られる日がくるなんて」


 乙女とは、何時いかなるときもスカートを裾を翻さない生き物である。そのように英才教育を施された命は、決してスカートを翻しはしない。


 左右に振られる腕は、スカートを匠に押さえる。

 どこを押さえればスカートが広がらないのか、布の動きを熟知した動きだ。


 並大抵の乙女ができない真似を平然とこなす。

 その動きの恐ろしさが、女生徒A、Bの背筋に衝撃の電流を流すのだ。


 要は、全速力で走ってもスカートが翻らない、すげえ走りである。


「なんて恐ろしい乙女なのでしょうか」

「ええ、これだけの乙女力を見せられては震えるほかありません」


 間近で見る乙女走りに震える二人だったが、更なる衝撃が二人を貫いた。


 渡り廊下を逆走してくる命の腕には、身柄を拘束された根木の姿があった。なお被疑者は4階で確保された模様である。


「更にお姫様抱っこですわ。これは全国の乙女が震撼するわ――ッ!」

「いや、それだけではありません。お姫様抱っこで両手が塞がっても、乙女走りが解除されない――ッ!」

「腰ですわ。腰の動きで、スカートの動きを巧みにコントロールしていますわ――ッ!」


(この人たち、やけにテンションが高いですねえ)


 野暮用があって戻ってきた命は、冷めていた。

 乙女としての英才教育を受けた命にとって、この程度はお茶の子さいさいの基本技能である。命の四十八ある乙女技法はまだ底を見せない。


(まあ、まだここに居てくれたようで良かった)


「先ほどは時間がないとはいえ、無礼な真似をしました。お許し下さい」

「いえ。別に気にしていませんわよ」

「ありがとうございます。お詫びといっては何ですが」


 命は乙女の微笑を湛えながら、ポケットからあめ玉を差し出した。


「あら、ありがとうございます」

「それでは」


 命の背中を見ながら、女生徒たちは呟いた。


「ナイスパーフェクト乙女」


 片手でもお姫様抱っこを崩さない。乙女はヘリウムである、重さなどないと無言で主張する姿勢。


 もはや認めざるを得なかった。命が極めて純度の高い乙女であると。


「あまり無茶なことしないで下さいよ」

「ぶう。理事長に抗議しに行く途中だったのに」

「……それを無茶と言うのですよ」

 

 命は2階の1-B教室に着くと、引き戸を開けた。

 話題の人物が、女生徒をお姫様だっこしながら現れたものだから、教室はちょっとした騒ぎになった。


 根木お姫様はご満悦なので、命は苦笑で済ませたのだが。


(なんでしょうか。何か妙な期待を感じます)


 やけに教室の女生徒はソワソワしている。口に出さずとも、何かを欲しがっている様子だ。


 1-Bから集まる、期待の眼差しが痛い。

 腕のなかにいる根木も、命をキラキラした目で見ていた。観念した命は、彼女たちの期待に応える。


「貴方のクラスにご到着ですよ。お姫様」

「うむ、余は満足じゃ」


 1-B教室は大いに沸き立ち、盛り上がりをみせた。

 一致団結した女生徒は黄色い声援を上げたし、演劇大好きな教員まで一緒になってはしゃいでいた。


 ――ただ一人を除いては。


「……貴方そこまでして、私をおちょくりますか」


 御三家の一角――フィロソフィアは教室の隅で震えていた。

 小っ恥ずかしい台詞を言った、命の3倍は顔が赤く染まっている。隣に座るエメロットはお腹を抱えて、笑いを噛み殺していた。


「みなさま、仲良く学院生活を送りましょうね」


 引きつった笑顔で告げると、命は脱兎のごとく乙女走りで逃げた。


 


     ◆


 


「遅いぞ、八坂」


 3階にある1-F教室に戻ると、教壇にはマグナが立っていた。


 命は那須の手招きに導かれるように、いそいそと席に着いた。周りからの視線は痛いが、根木の理事長突撃を水際で防げたことを考えれば、耐えられないほどではなかった。


 こんこんと、マグナがチョークで黒板を叩いた。

 こちらに集中しろという合図を受けて、女生徒たちは視線を教壇へと戻す。


「途中参加もいるから、もう一度簡単に説明するが、今日からの一週間――まあ土日を除く五日間だな。新入生はこの間、特別カリキュラムだから気を付けろ」


 命は、机に置かれた資料を見る。

 教科書の購入用紙や健康診断書、特別カリキュラムの日程表などが、山のように積み上げられていた。


(ふむふむ。とりあえずはお試し期間なわけですね)


 数ある資料から、命は日程表へと目を通す。

 学力テスト、健康診断、学院見学、特別授業……。

 なかでも一番命の目を引いたのは、やはり健康診断だった。性別を偽る命にとっては、鬼門といえるイベントである。


「それじゃあ特別カリキュラムについての説明を続けるが……まあいいや。説明面倒だから、出席番号1番が読め」


 職務放棄と同時に、マグナはドカッと椅子へと腰を下ろした。

 良くも悪くも裏表がない教員の行動に、女生徒たちは驚きを見せたが、命は特に動じなかった。彼女がどういう教員かは、すでによく知っていた。


「あっ、はい。それでは明日のカリキュラムから読みます」


 指名を受けた女生徒は、少し遅れてから起立した。

 どうすれば良いか訴えかける視線で周囲を見渡したが、大半は無責任に流していた。残りの善意ある女生徒は、目で「頑張って」と声援を送っている。


(当然のことですが、色々な国の人がいますね)


 ざっと見るだけで、欧米系、欧州系、アジア系、アフリカ系、様々な人種の女生徒が教室にはあふれていた。セントフィリア女学院は、人種のサラダボール状態だった。


 出身国が違えば文化は異なるし、常識も違う。

 命にとっては、それが懸念でもある。安穏とした生活が送れるクラス構成だとは、到底思えない。


(そういえば、言語の違いが出ないのは何故でしょうねえ)


 初めて異国の少女フィロソフィアと会話したときも、お互いに齟齬は起こらずに、意味が通じた。

 あの時は頭が茹だっていたこともあり、大して気にしていなかったが、言語の壁がないというのは凄いことであると、命はふと考える。


 その言葉の壁については、出席番号1番の子が説明してくれた。

 或いは文書を読み上げただけともいえた。

 セントフィリア王国には、言語を自動変換する魔術結界があり、その恩恵を受けているようだった。


「あと、変換精度は100%と思って貰って構わねえ。99.9%程度じゃ齟齬が出て、全く会話が成り立たねえからな」


 出席番号1番の子の読み上げに、マグナはちょくちょくと説明を加える。文書に書かれていない知識が、彼女の脳内にはある。


(確かに千文字中、一字の誤字が発生するレベルではいただけない)


 命の頭に浮かんだのはOCR――光学文字認識だった。スキャンした活字画像をコンピュータが認識できる文字コードに変換する技術。

 わかりやすい例では、書籍をデータ化し、電子書籍にする際に用いる。


 これを用いて書籍を電子書籍に変換する場合。

 例えば千文字中で一字も誤字が発生しては、四万文字の書籍で計四十箇所の誤字が発生する計算になる。


 それは残念ながら書籍とは呼べない代物であり、人の手直しを必要とする。そんなこんなで、OCRの変換精度は向上しても問題を抱えている。

 最終的に人が見るなら、全部人頼みで良いのではないかとなるのだ。


(多少畑は違いますが、言語変換は桁違いの難易度なのに)


 音声認識ソフトの精度や言語変換ソフトの精度も鑑みれば、その魔術結界の凄さは常軌を逸していた。


「ちなみに書き文字には適用されないからな。だから共通言語である魔法文字が必修になる。構えることはねえよ。これはどの国の言語よりも簡単だからな」


 大あくびする口元をぽんぽんと叩きながら、マグナは気まぐれな助言を続けた。

 その説明を聞いた出席番号1番が安心した表情で、日程表の内容を読み進める。


 日程表の説明を終えると、次には各種の分厚い資料の説明が控えていたが、このときマグナは完全に飽きていた。


 特別補足する内容も無かったので、ただ説明を聞くだけで、ときおり別の出席番号へ説明役を回すだけの役回り。教壇でうたた寝しそうな彼女は、面倒そうに言った。


「もう帰って、お前らが勝手に読めばいいんじゃね」


 命たちのクラスは、どのクラスよりも早く初日の日程を消化した。分厚い資料もまとめて、後は各自勉強するようにとのお達しだった。


 手をひらひらと返して、退出するマグナへの反応は様々だ。

 自由を尊重する生徒は「むしろ丁度良い」と、彼女のドライさを気に入った。教育を重んじる生徒は「彼女は教育者じゃない」と怒りを露わにした。


 どちらが正しいかはさておき、とてもグダグダな授業だった。その意見だけは、全会一致だった。


 学院生活におけるチュートリアルは、早送り気味に進む。命はセントフィリア女学院のことを、まだ何も知らない。

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