第八話 俺の左手には
中央部では既に争いが繰り広げられていた。
複数の龍と使い手、漆黒の翼を生やして巨大な犬歯を丸見えにしているヴァンパイア。
火炎・強風・落雷・地震・水撃、多種多様な攻撃が龍から放たれる。
それを全て赤い盾や赤い鎧でガードしつつ、彼らは攻防を繰り広げる。
俺はセシリアに導かれ、橋のたもとから右側へと移動する。
そこは無人街、通称「死んだ街」と呼ばれる場所だった。
名通り、廃棄されたのか長年使ってなくて壊れたのか、崩れた建物郡が多く連なる。
そこに、見慣れた美男子と黒龍を従える憎らしい少女が立っていた。
向こう側には、幾数のヴァンパイア。その奥には高笑いを上げ、黒マントに身を包む、グラナス・ドラゴニカが「最強」と形容する人物。
ドラキュラ王が居る。
☆☆☆
俺たちの前には余裕で100人以上のヴァンパイアが道を塞いでいる。
こちらの戦力はセシリア・グラナス・菜々香、と既に現場にいたエリンという少女のみ。
俺はというと、個人戦に持ち込まなければ実際は対して役に立てない。
中央部の争いは配下のドラゴンテイマー達をぶつけているらしく、子供や近隣住民は退避させたそうだ。
「ざっと目測で一人20人と少しって所かな」
グラナスさんは特に怖気づいた風もなく、簡潔に述べた。
「そうね、まぁアリアが居る限り私は負けないけど」
それに負けじと意地を張る菜々香。
ポケットから黒い宝石を取り出す。
瞬間、黒い宝石が輝き、目の前にはあの屈強な黒龍が現れる。
「妾にも秘伝の奥義があるのじゃ」
セシリアにも隠し玉があるのか、余裕の表情だ。
「私だってあるもんっ! お姉ちゃんばっかズルい!」
セシリアより少し小さい少女はキャーキャー喚いていた。
彼女がエリン。エリン・ドラゴニカ。王家の血を引く少女で、セシリアの妹だ。
赤髪に青い瞳、ドラゴニカ一家は全員その容姿だ。
だがセシリアとは違い、瞳にも言動にも活発的な力が漲っている。
セシリアは落ち着いていて冷静なイメージが強いからそう感じるのだろうか。
さて、俺はというと。
「(ドラキュラ王と一騎打ちか)」
何故俺がこんな事態に陥ってしまったのか。
説明をしたいと思う。
☆☆☆
時は少々遡る。
それはセシリアと共に「死んだ街」へと向かう道中の事。
俺は作戦の概要を聞いていた。
「妾と父上、菜々香とエリン、合計4人でヴァンパイア達を請け負う。だから龍、お主にはドラキュラ王を任せたい」
「ちょ・・ちょっと待てよ!」
いきなり言われた問題発言に俺は身じろぎする。
どんな攻撃も効かない無敵の吸血鬼。それこそがドラキュラ王だ。なら俺程度じゃ赤子の手を捻る感覚で殺されてしまうだろう。
「攻撃が効かないなら俺に勝目ないじゃんか! 時間稼ぎでもさせようってなら適任がいるはずだ、俺程度じゃ1分も持たずにゲームオーバーだぞ!?」
「落ち着くのじゃ龍、最後まで話を聞け」
「・・・どういうことだよ?」
「龍、お主が妾達5人の中で唯一ドラキュラ王に勝てる可能性を秘めた人物じゃ」
「は・・・?」
「お主の持つそれ、『真刀・神殺し』は神族であれば誰であろうと有効な攻撃を繰り出す。それはドラキュラ王とて例外ではない。つまり龍族を瀕死に追いやる力は吸血族すらも瀕死に追いやれる、ということじゃ」
話は理解できたぞ。
けど一部理解できない部分がある。
そもそもとして俺は、つい先日・・・いやつい昨日までは一般的な高校生だったんだ。
そんな俺が剣術なんて習うわけないし、できるはずもない。
いかに名刀を持っていようと、使い手がヘボじゃ宝の持ち腐れだ。
俺の言おうとしている事を察知しているのか、セシリアは微笑みを浮かべた。
「ふふ、大丈夫じゃ龍。お主には天性の剣技がある、左の手のひら、それは剛樹の残したメッセージじゃ」
「父さんからの・・・?」
「ちなみに右手は龍香、まぁ・・ともかく実践あるのみ。当たって砕けろの精神で挑むのじゃ」
「もし本当に砕けたらどうすんだよ・・・」
「・・・・さぁのう?」
「殺す気かッ!」
まぁ、けどやるしかない。
もし俺が諦めたら、可能性すらも否定する事になる。
そうなればドラグリア王国は消滅、無害な人たちまで危険に晒しかねない。
俺は刀の柄を握り締める。
「いいぜ、不老不死・常勝無敗のドラキュラさんとやらに、人間の底力見せつけてやるッ」
☆☆☆
となって今の現状があるわけだ。
これからは雑魚の殲滅戦が始まる。俺にとってはそこらのヴァンパイアですら強敵レベルなんですけどね。
グラナスさんはスタブソードをフェンシングみたいに構える。
菜々香は黒龍のアリアとコンタクトして準備を整える。
エリンは短剣二本の二刀流を逆手に構える。
セシリアは自然体のまま、敵を見据える。
全員が全員、戦闘の態勢を取る。
一人のヴァンパイアが叫んだ。
それは雑魚なのか、ドラキュラ王なのか、区別はつかない。
けれど、それを合図に、始まった。
4対100以上という、変則的チームマッチが。