第六話 グラナス・ドラゴニカ
俺達は城下街へとやってきた。
屋台のような造形で店を出している所が多い。雑に言うと露店販売だ。
刀やワンドといった武器類も売られている。あれ、龍居るからいらなくね? と思ったが、それよりもまず。
「城遠いなッ!」
城下街の中央部から城に向かって伸びる橋を渡り終えると、そこは急な斜面。
階段が付いているとはいえ、常人では登るのに一苦労だ。
当然俺も一般人なわけだから、足腰がガクブル状態。
その上どんなにどんなに登っても城の天辺しか見えてこない。
「どんくさいわね」
「あんだと!? お前みたいにトレーニングしてないんだよ!!」
「それは龍が悪かろう・・・」
くそ、会話するだけでスタミナ持ってかれるぜ。
俺は必死に登る。が、セシリアは滑るように登っていくし、菜々香もなんだかんだで俺より数十m先にいる。
何だって俺はこんな無意味な事で疲れてるんだ・・・。
徒労感を露わにしつつ、俺は頂上を目指す。
☆☆☆
かれこれ2時間。
俺はとうとう登り詰めた。
目の前には大きな城がある。
部屋があるのであろう窓の数は300位まで数えて諦めた、それ以上にもっと多く窓がある。
俺は目の前で平然としているセシリアに問う。
「ここが、目的地なんだよな?」
「勿論じゃ」
「これからお前のお父さんに会うのな?」
「勿論じゃ」
多分返答は全部「勿論じゃ」だな、と察知してこれ以上の言及をやめる。
すると目の前の城にある、ひときわ大きな扉が内側から開けられる。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「うむ、久々じゃの、レイラ」
「はい、お嬢様」
出てきたのは、メイドさん。
黒を基調に白いラインの入ったツートーンカラーのシンプルなデザインが余計にメイド感を醸し出す。
恭しく礼をしたメイドは、軽く微笑むと俺達を見つめる。
「この方々は?」
「右側の黒髪ストレートの女は『宝龍』の使い手、左側の情けない男は龍香の息子じゃ」
「情けなくて悪かったなッ」
「反論の余地がないわね」
「うっせトゲ女!」
「なによマダ男!」
「ちょ! お前それはダメだろ!!」
俺と菜々香の喧嘩を見て嘆息するセシリア。
一方で驚いたような感心したような顔でメイドは俺達を眺める。
「面白い方々のようですね、お嬢様もそろそろお年頃ですか?」
「ブッ!?」
会話は聞き取れないがセシリアが盛大に吹き出した。
俺と菜々香は一瞬だが、ポケーっとしてしまった。いや、アイツが吹き出す所とか滅多にないから。
ふと、俺の視界に菜々香の首元のネックレスが映る。
はて、どこかで見た覚えが。
「・・・・」
「どうしたのよ、人の胸元見て!」
「あ・・・いや、別にそんな壁を見てたわけじゃ」「殺す」「ないとは言いません、すいませんでした」
即刻土下座する俺。
本当なら喧嘩にまで発展しそうだが何か色々とオーラが半端じゃなかった。
その時、セシリアが俺達を呼ぶ。
「龍、菜々香、こっちじゃ」
「あ・・あぁ」
「ふんっ」
攻撃姿勢から一変、拗ね気味姿勢へと転換。
そんな菜々香を放っておきながら、俺は城内へと入った。
豪華絢爛。
まさにその一言に尽きる。
目の前には螺旋階段、両脇には階段があり、あれは各部屋へと向かって伸びている。
螺旋階段の先には大きなフロア、多分王様がいる場所だ。
この玄関であろうフロアの天井には超巨大なシャンデリアがぶら下げてある。
壁にも特殊な模様や絵柄が描かれていて、見てて退屈しない。
菜々香もあっと息を飲む。
「綺麗・・・」
「セシリア、お前ん家スゲーな」
「う・・うむ、その通りじゃ、妾は王女じゃからの」
歯切れが悪い、珍しいな。
まぁ俺も心臓バクバクですけどね。プレッシャー的な意味で。
メイドさんがこちらへ向かってくる。
「ようこそおいでくださいました、神崎様、黒石様。私はセシリア嬢専属メイドのレイラでございます」
「は・・はぁ、どうも」
「早速ですが、現当主でありこの城の主、グラナス・ドラゴニカ様にお会いしていただきます」
「わ・・分かりました」
レイラ、というメイドさんに先導されて俺と菜々香は螺旋階段へ向かう。
セシリアは「妾はここに残るのじゃ」と玄関で待機している。
螺旋階段は結構長く、何となく酔ってきそうだ。
そんな階段も乗り越え、最上階であろうフロアへ到達。
目の前には黄金で装飾された荘厳な扉が。
「む・・むぅ・・・」
「すごいわね・・」
俺はともかく、菜々香すらも緊張しているのか顔と声が強張っている。
レイラさんが扉へと手をかける。
「ご主人様、客人がお見えです」
『そうか、通せ』
中からは少し低めの声がする。
この扉が厚いのか、防音がしっかりとされているのか分からないが、声があまり響いてこない。
俺は緊張のあまり、生唾をごくりと飲んでしまう。
レイラさんが扉を開ける。
中には。
背後から太陽の日を浴びて、顔も姿も黒く染まった人物が一人席に座っている。
その男が声を掛けてくる。
「龍香の息子と『宝龍』の使い手、だそうだね?」
「は・・はいっ」
微妙に声が裏返ってしまう。
だが相手の男はそれを気にした風もなく、立ち上がって背後の窓に遮光カーテンを引いていく。
徐々に顔の輪郭や体が鮮明に映し出され始める。
男はこう言った。
「私がドラグリア王国現当主、グラナス・ドラゴニカだ」
「・・・・・」
絶句した。
別に緊張や威圧によって怯んでいるわけではない。
隣では菜々香も言葉を失う。
そりゃそうさ。
ショートヘアの赤髪、青い瞳、柔らかそうな肌。
それは、完全に。
「「女ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?」」
女、だった。