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ドラゴニックエンブレム  作者: 竜ヶ崎龍介
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第四話 トランスドラゴ

 相手は4つの浮遊物体を構え、俺は両手をボクシングのように構える。

勿論だがボクシングなんて経験はない。その他武術・武芸も行った試しはない。

つまり、凄くど素人なわけだ。

相手は俺の不慣れな構えを軽く笑う、4つの浮遊物体も不気味にユラユラと揺れる。


「・・・・どうすっかねぇ・・・!」

「妾に任せるのじゃ」


瞬間、目の前にセシリアが仁王立ちで腕組みをして構える。


「龍を犠牲に一撃位入れようと考えたのか? 愚かで無様だな」

「違うわ、何かセシリアが勝手に前に立っただけだっつの」


事あるごとに笑い飛ばしてくる少女にイラッとした声音で返答しつつ、俺は策をねる。

といっても、自分も龍族の少女も、無論敵対している彼女であっても誰一人として一般人ではない。

つまり、一般的な打開策は通用しない。

俺は焦る心を落ち着けて考える。

すると。


「(龍、聞こえるかの?)」

「セ・・・セシリア?」

「(言葉にしてはならぬ、脳内で発する言葉をイメージするのじゃ)」

「(・・・こ・・こうかな?)」

「(そうじゃ)」

「(何をしてるんだ?)」

「(感性術の一つ、「テレパシー」じゃ)」


まぁ・・・そりゃ分かるわな。

感性術とか何か意味分からない単語が出てきたがこの際は無視だ。


「(で・・どうしたんだ?)」

「(今から妾の言う通り、心の中でその想いを強めてくれるかの?)」

「(あ・・・? まぁ・・え? 分からんけど分かったぞ、何となく)」

「(では・・・)」

「おいおい、悠長に作戦会議等させると思っているのか?」


その時、声が割って入る。

勿論だが、敵対する少女からの声だ。

ってか何だろう、男口調な女子が今ブームなのかな? すごいデジャヴを感じるんだけど。

そんな雑念すら考える余裕がある。なんておかしい話だ。

目の前の少女と俺とセシリアの戦力差は火を見るより明らかだ、故に、圧倒的だからこそ生まれてしまう余裕なのかも知れないが。


「・・・|《轟龍化トランスドラゴ》」


その時、セシリアがそう呟いた。

近くにいた俺でも聞き取るのが苦労する位だ、相手に何か聞こえていないだろう。

その瞬間、隣のセシリアは背後の黒龍の軽く2倍以上の体型の龍へと変身した。

横に伸びる大きな翼。人なんて容易く切り裂く程の巨大で鋭利な爪。怪しく輝く黄金の瞳。

それは、龍というよりはドラゴンだ。


「妾達ヒューマニアドラゴンは多種の龍に変身できるのじゃ、勿論力も何もかも受け継ぐ状態での」

「ってことは・・・実在すんのか? そんなドラゴンが・・・?」

「当たり前じゃ。さて、そんなことよりも奴を倒すぞい。想いを浮かべるのじゃ」

「あ・・あぁ、分かった」


俺はさっき教えられた通りに想いを強くする。

だが、次の瞬間。

目の前に居るセシリアの紅の業火と、相対する少女の浮遊物体から放射された強大なレーザーがぶつかる。

反動で俺は屋上の落下用フェンスに背中を強打する。


「く・・・は・・!?」


肺から空気が抜ける。空気を求めて呼吸をすれば、ゼヒューゼヒューと情けない呼吸が行われる。

俺はそれでも必死に想う。

テレパシーは外界からの音によってジャミングされる事はない。

俺はさっき割って入った際に教えられた想いを強く願う。


「(龍と同化するイメージ、龍と同化するイメージ・・・・!)」


それは龍と同化するイメージ。

言葉通りだ。龍という生命体と俺という生命体の合成だ。

その間にもセシリアと少女の対決は熾烈を極める。

業火を避け、レーザーを放つ。それを避け、巨大な爪で浮遊物体をえぐろうとする。

一進一退の攻防が続く。情けない事に俺はその想いを増幅させることだけで精一杯だ。


「く・・・やりおるの」

「貴様も中々やるな、借り物の力といえど扱うのにはかなりの技量が必要なはずだ」

「皮肉をいちいち混ぜんでよい、さて、そろそろ終盤と行くかの」

「ふっ、ナメるな」

「!?」


瞬間、セシリアの巨大な爪が一本落ちる。

セシリアの顔が苦痛に歪む。


「セシリア!!」

「大丈夫じゃ龍、今はこちらじゃなくお主自身の事に集中せい・・・!」

「くくくっ!」


俺とセシリアの会話に笑い声が混じる。

少女の手には一本の剣が握られている。だが、少し異様だ。

刀身が半透明なのだ、まるで雷や電気のように、目に見えない物を具現化したような・・・・。


「まさか、レーザーギアだけが我の武器だと? くくくっ、浅はかだな、実に浅はかだ」

「そ・・それは・・」

「何だテイマー、貴様はそこで寝そべっているが良い。大事な大事な龍が今から殺される様を何もできずに見つめているがよい」

「ぐ・・・?!」


急に腹に重圧が掛かる。

それが少女から投げられた数キロのダンベルだと気づくのには数秒かかった。

少女は平然としたまま剣を片手で構える。


「高圧電流を柄と鋒で発生させ、それを具現化して留める。 通称サンダーブレイド、その身にもう一度受けるがいい」

「く・・・!」


少女が距離を詰める。

4つの浮遊物体から乱発でレーザーが放たれる。セシリアが巨大火炎を分散させてレーザーを焼き払う。

だが、少女は高く高く跳躍した。

と同時に鋒の電気発生部分、つまり蓋となっている部分を外す。

という事は、高圧電流が直線上に発射される。

セシリアの体を貫く。

そう考えて、俺は怒りや恨みにも似た、負の感情が押し寄せる。

その瞬間。

シュイン。

あの大きな飛龍が一瞬にして消えさる、と同時に高圧電流の放電が空を裂く。


「な・・・!?」

「・・・なんだこれ」


少女が俺を驚きの瞳で見つめる。

俺も釣られて体を見る、すると。

俺の体から無数の光にも似た眩い黄金の輝きが放たれていた。

背中にはさっきの巨大飛龍のミニスケールバージョンのような翼が生えている。

何より、力が湧いてくる。


「何だこれは! 《龍殺し》の我ですら知らぬ・・・この状態は、現状は・・・何だ!?」

「・・・『龍人憑依』・・・?」

「その通りじゃ、若いの」


黒龍を盾に怯えた表情でこちらを見てくる彼女の答えに、セシリアが答える。

どうやら龍と同化するイメージを強めすぎた結果、人に龍が同化してしまったようだ。

セシリアが話している間は俺は言葉を発せない、まるで一つの体に二つの魂が入り込んだようだ。てか実際そうだな。


「龍と人、まぁドラゴンテイマーとドラゴンの想いの同調率によって発生する現象じゃの」

「同調率?」

「うむ、似通った想いが強く願われ、想われる時、龍と人がシンクロする。それが今回の現象、『龍人憑依』じゃの」

「ってことは俺に龍の力が・・・?」

「その通りじゃ、妾が変身した『轟龍 ワイヴァーン』の力が宿っておる」


全身に力が漲る。

感覚や比喩ではない、事実として今拳を握れば自分の力で指が折れてしまいそうだ。

ともかく、これでやっとタイだ。

俺は少女を睨む。


「セシリアの爪一本分、まずは返させてもらうぜ」


俺は軽く駆ける。

少女は放電しきった刀身のない刀を構える。

勿論、そんなので防ぎきれる程俺の轟龍とやらの力は弱くない。

バギリ。

嫌な音をたてて柄本から刀を打ち砕く、その後も直進する拳は少女の左頬を殴る。


「ぐ・・・がぁ!?」


少女は吹き飛ぶ、辛うじて空中で受身を取り、落下防止フェンスで勢いを殺す。

少女の左頬が赤く腫れている。


「止めとけ、これ以上無駄に女の子の顔を殴りたくない」


格好つけてるわけじゃない。本心だ。

何が楽しくて自分より幼げな少女を殴らなければいけないのか。


「情けを掛けるつもりか?」

「どう受け取ろうと勝手だ、今のでセシリアの分は返したしな」

「く・・・くくっ!」

「?」

「その甘さが命取りになるぞ?」

「知ったことかよ、だけど・・・今回は見逃す。次また戦う事があれば容赦はしねぇ」

「本当に面白い奴だ。敵を生かしてなんになる? 自身の生存確率を下げるだけだろう?」

「知るかってんだ。俺は俺の正義によって動く、龍族だの神族だの神殺しだのに振り回される気はねぇ。その時に死んじまうんなら、それが俺の限界だし俺の底辺なんだろ」


俺の言葉に少女は一瞬戸惑った顔をした。

偉そうに語ってはいるが、早く帰って欲しい。

実を言うとさっきの一撃で結構溜めた力とスタミナ殆ど持って行かれたのだ。

イチかバチか、もし相手が逃げなきゃ・・・どうなるかな? 死ぬかも? 

だが、彼女は素直に反応した。


「そうか・・・ふふ、次は万全の用意で戦う。覚えているがいい」

「あー・・・俺の海馬に期待しねぇ方がいいぞ・・?」

「ふっ・・さらばだ、狭間に居る者よ」

「・・・?」


そう告げ、彼女がポケットから手のひらサイズのカプセルを取り出す。

パリン、ガラスが割るような音が響く。もう一度目を向けるとそこに彼女はいない。

俺は何が起きたかさっぱりわからないまま、後ろで座り込んでいる少女の元へ向かう。

だが。


「あ・・・アンタ、何してんのよぉ!?」

「痛いッ!?」


何故かおお振りなビンタを喰らう。

途端に意識が飛ぶ。どうやら力の使いすぎのようだ。

真っ暗闇な空間へと、俺は落ちていった。

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