第一話 ヒューマニアドラゴン
それは、正真正銘龍だった。
皆が想像するような巨大な龍ではない、全長2mあるかないか位の小型サイズの龍だ。
そして、その龍が俺を呼んでいる。
「あ・・・俺が龍ですけど」
「ふむ、剛樹とよう似ておる、が・・・いかんせん覇気がないのお」
いきなりダメだしされた。
剛樹とは俺の父の名前だ、神崎剛樹。母は神崎龍香という。
「・・・・・龍だぁあああああああああああああああああああ!!??」
「今更驚くかのッ!?」
落ち着いて考えてみたら、叫んでいた。
だって・・龍だよ? 目の前に小型とはいえドラゴンが居るんだよ? 驚くよそりゃ。
ってか・・・龍って喋れるんだな。
以外な発見にさらに驚きつつ、俺は龍へと質問した。
「龍・・・なんですよね?」
「うむ、ヒューマニアドラゴンという希少種じゃ」
「???」
「なんじゃ・・・龍種も知らぬのか、剛樹め・・・教育がなっとらんぞ」
「父さんとは知り合いなんですか?」
さっきから父の名前をファーストネームで呼んでいる事から、相当親しいのだろう。
龍も「うむ」と軽く頷いて、口を開いた。
「お主の母、龍香の暮らす『ドラグリア王国』の王女じゃ、剛樹とはよく酒を酌み交わした」
「ドラグリア・・・? って・・・か・・・」
良く分からない説明をされてスルーしがちだが。
「アンタ女なのかぁああああああああああああああああ!?」
「うるさいのぉ!」
本日二度目の絶叫。
ってかそんな喋り方の女見たことねぇぞ!!
俺はマジマジと彼女(?)を見つめる。
・・・・・・・すごく・・・龍です。
「そうじゃ、妾は『ドラグリア王国』の王女、セシリア・ドラゴニカじゃ!」
「セシリア・・・さん?」
「うむ・・・まぁ、今からお主の『エクスドラゴ』となるから・・・セシリアでよいぞ」
「『エクスドラゴ』?」
「そんな事も知らぬのか!?」
すごい驚かれた。
大体一般人に「ねぇねぇ、エクスドラゴって知ってる?」て聞いても100%「NO」の返答しか来ないだろ。
つまり逆説的に俺は一般人であるということだ。
「元々は『エクスクルーシブドラゴニカ』、専属配下龍となる儀の意味を指す。つまり簡潔に説明すると、妾が今からお主のペットになるということじゃ」
「ぺ・・・ペット?」
不覚にも吹き出しそうになった。
ってか・・・お断りでしょ。餌とか知らないし、餌代とか掛かるし。
まず日本のペットの中に「ドラゴン」という選択肢は存在しないはずだが。
「妾達ドラゴニカ一族は、男子は王座を引き継ぎ王国を統制する。女子は散り散りになった有力者達のエクスドラゴとなる事で自身の強化と飼い主である主の強化を図る。これがドラグリア王国の現状じゃ」
「けど・・さすがにポンポンポンポン女子が沢山産まれるでもないんでしょ?」
「逆じゃぞ、龍」
俺が質問すると主語のない指摘で返されてしまった。
「逆?」
「うむ、龍族にとって『男子は産まれづらい』」
「・・・・ってことは」
「龍族の人口の8割は女子じゃ」
「ぬわ・・・ぬわ・・ぬわんだってええええええええええええ!?」
龍族の男女比率のおかしさに頭がパンクする。
ってことは見渡す限り殆ど女子なのかよ・・・想像したくねぇ。
男女バランスが取れてるから世界は均衡なのだ、それが一辺倒に傾いたらどうなるかは明らかだ。
女による男の争奪戦。もし男の人口が8割なら、男による女の争奪戦。
無用な争いが起きてしまうのだ。
「龍族・The・End・・・か」
「勝手に終わらすでない」
独り言が漏れていたらしい。ちゃっかりセシリアにツッコミを入れられた。
「さて・・・誓約通り、エクスドラゴを行う」
「何をするんだ?」
俺は相手が女子であり、今から配下となると言うことを聞かされて口調が砕けてきた。
あまり尊敬語・丁寧語・謙譲語は得意ではないのだ。
「まぁ・・まずはこの見てくれでは行いづらかろう、|《人化》」
瞬間、全長2m前後の細長い体が黄金に輝く。
そして、次の瞬間には徐々に小さくなり、175cmある俺よりも小さくなる。
少し横に膨らみ、人型に似てくる。
パァァァァ、と眩い黄金が一層輝く。それは一瞬で、それが終わると部屋はいつもの明るさに戻っている。
だが、セシリアの格好が変わっていた。
「・・・人間・・?」
「そうじゃ、妾達ヒューマニアドラゴンの『種族特技』は|《人化》、ドラゴンという異形の姿と人間という不完全体への姿を共有する龍種じゃ」
「じゃが、不完全体とは言え、今世界の覇権を握るのは人類。ならばその体に変身する事で秘密裏に覇権奪還を目論む事も可能じゃ。ヒューマニアドラゴンは優秀なんじゃぞ」
今はセシリアの説明よりも、彼女の格好に目がいってしまう。
セシリアの年齢は俺と同じくらいだ。
17、16くらい。だからこそ喋り方とのギャップが酷い。
珍しい赤髪、真っ赤というよりは緋色に近い。瞳は青く澄んでいて、肌は雪のように白い。
背丈は160前後、体の凹凸もそこそこハッキリしていて、十中八九美少女だ。
「なんじゃ? ジロジロと見おって・・・」
俺が彼女の体を観察(エロい意味じゃないよ! そのまんまの意味だよっ!)していると不審げに睨まれた。
「まぁ・・ともかくじゃ、龍年齢で行けば200を超える妾でも、人間年齢で言えば16、7。さして問題はなかろう」
「200超えてるって・・・どんなだよ・・・」
人間界ならばギネスレベルだ。一発登録だ。
龍族は長生きなんだなぁ・・・何か秘訣とか、天性的な何かがあるのかな?
俺が一人考え込んでいると、セシリアに頭を叩かれた。
「痛ッ、なにすんだよっ」
「何すんだではない! 今からエクスドラゴを行うと言っておろうが!」
「なんなんだよエクスドラゴって!!」
「さっき説明したじゃろう!?」
「違うよッ! エクスドラゴを行う、って何を行うのさ!?」
俺とセシリアは熱い口論を繰り広げた。
だが、俺の言葉でセシリアが押し黙る。少しだけ頬が朱に染まっている。
嫌な予感がしつつ、俺は質問の答えを促す。
「何をするのさ・・?」
すると、彼女は慌てながらもこう答えた。
「わ・・妾と、誓約のき・・・きき・・キスをす・・するのじゃ!」