第十話 決着、膠着、激突!
お互いに未だとして睨み合いが続く。
俺はドラキュラ王に一つ尋ねる。
「お前はなんでこんな事をするんだ?」
「ふっ、愚問だな。私達は元々選ばれし人種だ、それは龍族とて同じ。ならばどの神族が最も強いか、それを決めてその神族だけを伸ばして行けば世界の覇権等いともたやすく手に入る。あくまで私達が所属する吸血族が優れているという事実が、貴様の問う理由だ」
「それを聞いて安心した」
もし下手に復讐や恨み辛みの話ならば、介入すべきか迷うところだが。
相手は力や権力、「最も優れている」という点を執拗に気にする集団。
ならば、手を抜く道理はない。
「お前に人間様の底力見せてやるよ」
「やってみろ、私が負けることなどない」
☆☆☆
一方、グラナスは目の前の敵に苦戦を強いられていた。
相手の長剣は魔剣クレイモア。
斬る・叩く・潰す、という異なる三種の技を一つで可能にする魔剣。
そもそもとして長剣(両手剣や大剣と同じ)は両手持ちが基本スタンスだ。
だが相手は片手にて身丈もある長剣を操る。
「何だ、この程度かよ」
挑発や罵倒などではない。
純粋に、ガッカリとしたような声音。
戦いに明け暮れる日々を送る者の口にする言葉だ。
「この程度・・・か」
「出し惜しみはナシだぜ、戦いは常に全身全霊を尽くすってのが暗黙のルールだ」
グラナスは片手で持つ純銀製のスタブソードを両手で持って胸の前へ持っていく。
胸の前で相手に向かって剣を突き出す。
そして、グラナスは語る。
「私の保有するエクスドラゴはセントドラゴン、聖なる力を扱う龍。高貴で神聖な龍だ」
「ご高説はいらない、次で決める。血真流奥義でな」
「セントドラゴン、漢字にすれば「聖龍」と書く。神聖で光り輝く最強の龍、闇に悪に屈しない力強い意思、彼の力こそが今最も必要なんだ」
「血真流奥義 血猛獣閃」
言葉は遮られた。
魔剣が赤い怪しげな色を発しつつ、グラナスへと叩き落とされる。
速度は認識不可能。神速や超速といったレベルではない、まるで放たれた直後の時間のコマがすっぽりと抜け落ちたような、無理矢理CGで付け合わせたような、圧倒的速さ。
ガキン。ドム。
一度銀に当たり、衝撃音が聞こえるが、次の瞬間には叩き潰した音へと変化する。
回避・防御・反撃不可能、まさに最強の技。
の、はずだった。
「ケルベロススラッシュね・・・危なく昇天するところだったよ」
「・・・・お前・・」
「あぁ、驚いたかい。私のコレはセントドラゴンの『種族特技』、《星天》。神聖の象徴である天使の力を代用する事ができる」
背中には大きな白い翼。
純銀製のスタブソードは純白の雷でビリビリと音を鳴らす。
グラナスは告げる。
「終わりだよ」
次の瞬間、彼の長剣は折れた。
真っ二つに折れた。
「神技 天龍閃」
そして。
「神技禁術 聖突閃」
ジーザスという男は、粉々に砕け散った。
☆☆☆
菜々香はアリアと共に一人の女と相対する。
スンダル。
血操法という聞きなれない技を扱う者。
「血操法、血液を錬成する事で発動できる技、貴方では破ることすらできないわね」
スンダルは高笑いした。
菜々香はそれを見つめ、アリアを見る。
「そ。だったら何? 破る破れないで勝負は決まらない、勝つ負けるで決まるのよ」
「敵の技を破れない時点で勝つなんて無理でしょう?」
「さぁ・・・ね?」
距離はそんなに開いていない。
5m・・・いや10mといったところか。
スンダルの右手に赤い球体ができる。
右手にはつっかえ棒位の細さの槍、だが長さはそれの比ではない。
「血操法 朱槍朱盾」
右手の球体は少しずつ平坦に伸びていき、厚さ20cm程の分厚い盾となる。
槍も先端が鋭利に変化。
「これでも、勝てるって・・・言うのかしらッ」
距離を一瞬で詰める。
菜々香は必死に避ける。
アリアはバックステップで後方へ移動。
アリアの黒炎や菜々香の光の龍術を朱盾で防ぎ、アリアや菜々香へ朱槍で攻める。
防戦一方な菜々香達。
それを見てスンダルは嘲笑する。
「ほーらほら! かかっておいでなさいな、勝ち負けが勝負の基準なのでしょう!? 防戦一方では勝てる戦いも負けてしまうのではなくて!?」
「うるっさいわね」
その時、槍と盾は砕けた。
スンダルが驚愕の色を現す。
「『宝龍』達の『種族特技』、《内部破壊》。攻撃は武器や防具の耐久度へ直接的にダメージを与える、これが内部から耐久度を食い尽くし、装備品は破壊される。勿論だけど人体へも有効ね」
宝石の名を冠する龍にとっては血で出来た槍と盾なんて、ガラス玉と同じ程度の物。
だが、これで終わりではない。
「宝龍術、龍術よりもさらに一つ上、『宝龍』の使い手のみが扱える必殺の奥義」
「くっ!」
スンダルが瞬間的に自分の周りに血液の鎧を作る。
そして両手持ちの巨大な大盾を持つ。
厚さは1m、尋常じゃない防御力を誇る。
「ふふっ、これでもまだ勝てると?」
「手を引きなさい、死ぬわよ?」
「調子に乗らないで頂戴、小娘如きにやられるわけがないわ」
「・・・そう」
アリアが黒々としたオーラを放つ。
菜々香は右手を八卦のように突き出す。
そして。
「宝龍術 地獄の業火」
圧倒的な黒炎が周囲を焼き尽くす。
黒炎が晴れ、元の場所には。
盾は勿論の事、スンダル自身も消え去っていた。
☆☆☆
セシリアとエリンはアレン・カレンを見ていた。
轟龍と夜龍が揃い、無敵の布陣だった彼女らは変身を解除する。
「僕たちは『二身剣術』の使い手」
「君達程度では破れない」
彼らの連撃が始まる。
双子は神業レベルの息の良さで、上下左右から攻撃を繰り出す。
右を避ければ左、上を避ければ下、前を避ければ後ろ。
圧倒的な連携力が彼女らを追い詰める。
だが。
キィン。
甲高い耳を痺れさせる音が鳴り響いた。
その直後、彼らの真っ赤な剣はどちらも折れていた。
「「!?」」
「『九頭砕き』」
「私の技だよ。ヒューマニアドラゴンの変身能力を活かして、瞬間的に九匹の龍が武器へと攻撃する。圧倒的速さで圧倒的威力。いくら頑丈でも武器は破損するっ」
「得物無し、これでお主らは圧倒的不利じゃ。これでも続けるかの?」
「「・・・フフフ、当たり前だろ」」
彼らはそう呟くと、右手をコツンとぶつける。
人差し指には同じ装飾の指輪。
次の瞬間、彼らは合体した。
二人から一人へ、彼らは融合というか合体した。
「《二身一刀》、この指輪で融合した僕達は今までの二倍の力・俊敏性・知力を有する」
背中に差してあった刀を抜く。
刀身が赤黒く染まっているのは、血なのだろうか、元々のデザインなのだろうか。
「|《血斬りの剣》。幾数にも及ぶ獣・人を殺める事で刀身を血で染め、吸血族特有の血液の伝達率を増加させる事で、切れ味も、威力も、振りも、全てを自在に操れる」
直後、エリンの結ったツインテールの片方がバサリと切り落とされる。
「二身絶技 双剣の舞」
目の前では小規模な嵐が起きていた。
刀は一つなのにギャンギャンと刀同士がぶつかり合う音が聞こえる。
だが。
セシリアは冷静な表情を崩さない。
「ドラゴニカ王家に伝わる秘技、とくと見るがよいのじゃ。エリン」
「はいよっ」
エリンとセシリアは手を繋ぐ。
目の前の嵐に対抗するように並ぶ彼女ら。
「死ニサラセェェェェェ!」
合成音のように濁った声が響く。
ギャインギャインギャイン。
刀の打ち合いのような轟音が響く。
「・・・・ナニ?」
だが、それでも彼女達は生存していた。
彼女らの各種パーツが変異している。
それは龍と人間の中間のような容姿、傍目からでは龍とも人とも取れるそんな容姿。
「ドラゴニカ王家秘技 人龍化」
「人の体で龍を宿す。まぁ・・・龍に先に使われてしまったがの」
彼ら、否、彼は動けない。
あんな神速回転を行ったのだ、それも剣を一回に二撃ずつ放つように振り回して。
当然体にガタが来る。反動で動けない。
「人龍技 ブレイク」
バァン。
鈍い音と共に刀身が吹き飛ぶ。
驚愕と反動で動けない彼。
「融合人龍技」
エリンとセシリアが宙へ浮かぶ。
腰に差してある小太刀を取り出し、鋒を触れ合わせる。
「「ブレイドブレイズッ!!」」
重なり合った剣先から無色の光線が放たれる。
シュパシュパシュパ。
彼がいるであろう場所からは無数の剣戟、斬撃音が聞こえる。
光線が途切れる。すると。
彼の居た場所は真っ赤な血で染まっていた、だが、彼の姿はなかった。
☆☆☆
未だ膠着状態が続く、ドラキュラ王と俺。
背後から聞こえる轟音や剣戟が仲間の勝利だと信じて、一瞬の隙を見逃さない。
ドラキュラ王が腰に差す日本刀を取り出す。
奇しくも、日本刀対決。
「魔刃 血綴櫻」
『真刀 神殺し』に負けず劣らず、怪しい剣気が立ち上る。
「・・・・」
腰の刀の柄にそっと手を触れさせる。
そして。
「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」
雄叫びと共に、俺とドラキュラ王はお互いに衝突した。