プロローグ 龍との邂逅
このことは知ったのは5月18日。高校入学から日も浅いとある一日。
俺の名前は神崎龍、小学から一貫して「ドラゴン」のあだ名を持っている。
あだ名以外の特徴で言えば、右手の甲の傷と、左手のひらの傷だろうか。
右手の傷は蛇のような龍のような文様が入っている。左には刀傷が十字に入っている。
古傷なのか痣なのか知らないけど、小学校3年位に気づいてから今までずっとこうだ。
両親は教えてくれなかった。今は聞くことすら出来ない、亡くなってしまったから。
家事のスキルは母に、勉学運動は父に習ったから不便なく学校生活は送れる。
資金については、両親の遺産+知り合いの援助金でまかなっている。
そんなある日、俺は土日の休みを利用して倉庫整理をしようと思い立った。
☆☆☆
「久々にイジるから、埃がヤバいな・・・」
俺は倉庫の扉を開けた瞬間に立ち上った埃に軽く咳き込みながら、倉庫へと入っていく。
そこには懐かしい玩具や父が集めていた意味不明な道具、母のオカルトチックなアクセサリーがどっさりだ。
「要らないものは捨てないとな・・・」
俺は少し寂しさを覚えつつ、手探りで奥へ進む。
すると。
ワシャ。 本か何かの紙類を俺は掴んだようだ、思いっきり握ってしまった。
「何だ何だ・・・」
俺はそれを引っ張り、倉庫から出る。
埃を落とし、軽くモップ掛けをしてリビングへ。ソファに座って手に持つ本(?)をまじまじと見る。
それは。
「・・・・母さんと父さんから?」
それは『龍へ 父母より』と書かれた題名の無い紙の束。
手製なのだろう、その均一な紙の束の左斜め上には小さな穴が空いており、そこに黒い紐が通っている。
「どれどれ・・・?」
俺は興味本位で中を覗く。こんな物の存在は知らなかった。
だが、俺の予想に反して、中に書かれていた文章は奇っ怪な物だった。
「龍族の末裔であり、|《龍殺し(キラーエンブレム)》の息子である我が子、龍へ・・・?」
聞きなれない英単語が連なっている。
龍族の末裔? 龍殺し? 何がどうなっているんだ?
その後も何やら難しい英単語が並んでいた。簡潔に説明するとこうだ。
この世には「架空の生物」が存在する。(吸血鬼、エルフ、ドラゴン、妖怪その他)
だが、それは「架空」ではなく、実際に「実在」したのだという。
そしてその生物達は「神獣」と呼ばれ、その神獣の遺伝子を次ぐ人々を「神族」と呼んだ。
彼らは常人よりも遥かに知力・腕力が優れ、最も神に近い人々とも呼ばれた。それが神族の名の由来だそうだ。
だが、その内地球の覇権を侵略されると心配した常人達は、|《神殺し(ゴッドイレイザー)》を作った。
対神族の科学武装集団、そして彼ら神族は|《神殺し(ゴッドイレイザー)》と衝突した。
最後に、「龍が17歳の誕生日を迎える時、真実を告げられる」と達筆で書かれていた。
「・・・・息子にファンタジー小説の作家になって欲しかったのか?」
話を読み終え、俺は感想を漏らす。
話は突飛だ。ここまで来ると、本当に両親の頭が大丈夫だったか気になってくる。
「大体・・・俺の17歳の誕生日って今日じゃねぇか」
俺は今日、5月18日が誕生日だ。
それとも、今日誰か両親の知り合いがここに来て何か話すとか、そういうオチか。
どうせ何もないだろ、と俺がソファの背凭れに体を預けると。
「ふわぁ、まったく・・・龍! 龍はおらんか!!」
「はいッ!?」
誰もいないはずの二階から俺を呼ぶ声がする。
それも呼び方がめっちゃジジくさいぞ。
「なんじゃ一階か」
「(!? 誰!? も・・もしかして・・・本当に来ちゃったの!? その手の知り合いと話すの初めてだけど!?)」
内心凄く焦っている。
怖いし、何より不法侵入者だ、何をしでかすか分かったものじゃない。
だが、予想に反してそこに居たのは。
「貴様が剛樹の息子の龍か、何やら軟弱じゃの」
龍、だった。