第四話
次の日、昨日の事がちょっとした話題になっていた。
「おう、お前も中々やるな」
教室に入って早々言われる。何のことかさっぱりだった。
「転校生とデートしたんだって」
どうやら、彼女と公園に行った事がばれたようだ。それが噂になって広まっているようだ。
「ああ、ちょっと外で絵を描いていただけだよ」
と返すが友人はニヤニヤと笑っている。気味が悪くて仕方が無い。
「まあ、あの転校生となら良い絵の先生になるだろう」
急に友人が変なことを言い出す。俺は何の事だかさっぱり分からない。
「あれ、知らないのかあの転校生……」
俺は自分の知らない事実をここで聞く事になった。それは俺にとって衝撃的な事だった。
放課後、いつもの様に美術室へと向かう。俺は少し苛立たしさを感じていた。そのせい
で足早になる。美術室に到着して、教室のドアを開ける。
「あっ来たね」
彼女はいつも通り来ていた。机にはたくさんの絵が乗せられていた。どこから出したのか、それは俺が今まで描いた数々の絵だった。
「なに、勝手に見ているんだよ」
俺がきつい低めの声で言う。彼女は慌てて
「ごめん、ちょっと見つけちゃって」
そう言うが片付けずに、いつまでも見ている。
「君の絵は下手だけれども、やっぱり私は嫌いじゃないな」
その言葉に俺はカチンと頭にくる。
「そりゃあ、あんたにとっては、下手くそで見てられない絵だろうよ」
それを聞いて彼女は驚いてこっちを見る。
「どうしたの、今日は?」
彼女が不安そうにこちらを見る。俺にとってはその仕草すら俺を苛立たせた。それは彼女が
「全国コンクール金賞にとっては、こんな絵なんて下手で見てられないだろうよ」
「あ」
彼女が固まるのが分かる。そう、彼女はそれこそ全国で一番の絵の上手い少女だった。しかも、金賞二回。おしくも今年は銀賞だったようだが、それでもその天才ぶりが有名だったのだ。
「別に隠していたわけじゃ……」
と言い訳をされるが、頭にきているので聞く耳を持たない。自分は絵が上手いのに俺の絵を見て下手くそだとせせら笑っていたかと思うと我慢ならなかった。
「あんたにとって、こんな絵取るに足らないもんだろ。一々、お世辞で嫌いじゃないなん
て言って頭に来るんだよ」
「違う、私は本当に……」
まだ、そんな事を言っている。
「本当に良いなと思ったんだよ」
こちらを見て訴えるが火に油を注いでいるだけだった。
「もう、ここに来るな」
俺は怒鳴りつけるように言って美術室のドアを叩きつけるように閉めた。
怒りに我を忘れていた。ふと、廊下を歩きながら何でそんなに自分が怒っていたのかと疑問に思った。よく考えると、ただ嫉妬していただけなのかもしれない。自分が至れない頂上に彼女がいる事に。
そう思うと申し訳なく思った。単なる八つ当たりだったのだ。どうやっても下手なままの自分の画力に苛立っていたのをぶつけてしまったのだろう。
そう思うと苦い気持ちになった。ただ、戻ろうとは思わなかった。俺はそのまま家に帰った。