第2話
次の日に全校朝礼があった。長い校長の話の後、例の彼女が引っ越してきた事が紹介された。今は内の制服を着ていた。
そして放課後、何となく美術室によって見る。
「最近は熱心だな」
と友達に言われる。そういえば、ここ最近、美術室に行ってばかりだ。たまには他の事をした方がいいかもしれない。そんな事を考えながら美術室に到着。ドアを開けると
「あっ来たね」
と笑顔でこっちを見ている彼女がいた。本当にまた来たようだ。
「本当に来たのかよ」
俺が面倒くさそうに言うと彼女は苦笑して、
「改めてよろしくね」
と言う。どうにも分からない彼女だった。
「こんな所にいないでクラスで友達作った方が良いんじゃないのか」
俺は彼女にそう言いながら絵を描く準備を始める。彼女はそれを聞くと表情を寂しげなものに変えた。
「良いのよ。またすぐに引っ越しちゃうから」
机の上に座って膝を抱える。窓の外を眺めている。その姿は愁いを感じさせた。
「私のお父さん転勤が多くて、すぐに引越しするの」
そう言って天井を見上げる。
「深く付き合うと別れるのが悲しくなるし、変な付き合い方するといじめられるし」
彼女がチラリとこちらを見る。俺は準備が出来て、どんな絵を描こうか腕を組んで思案している所だった。
「だから、良いの」
彼女がそう言うんだから、それで良いんだろう。
「一体、何を描こうとしているの?」
そう言って机から降りて、こちらに近づいてくる。机の上にある絵を見ようとしているようだ。ところが、
「あれ、まだ描けていないの?」
と彼女がつまらなさそうに言う。実は未だに何を描くのか思いついていないのだ。
「うるさいな、今考え中なんだよ」
少しうっとうしく感じて俺は突っぱねるように言った。だが、彼女はあまり気にしていない様だ。
「そうやって、美術室に引きこもっていないで、たまには外に出て題材を探してみたらどう?」
彼女はそう言うと閉めてあった窓を気持ちよく開け放つ。その瞬間に光が一気に入ってくる。彼女は窓から乗り出すように外を眺めた。
「ほら、この風景だって描いてみたら楽しいかもよ」
そう言って外を指して言う。何も思いつかないので、見てみるのも良いかと思ったが、言われるとおりにするのも何だか悔しかった。なので敢えて面倒くさそうに立ち上がり、付き合ってやるかと言う感じで、のそのそと立ち上がり彼女の横から窓の外を見る。
「ふーん」
と興味がないように振舞っているが、実際に見てみると良い題材になりそうだった。
美術室の外は校庭になっている。そこで運動部が練習をしている。その姿が躍動感に溢れ迫
力があった。
「なかなか良いでしょ」
近くにあった彼女の顔がこちらを見る。目が合ってドキッとして後ろに下がる。
「まあな」
と照れ隠しに目をそらして言う。
「今度、外に出て描いて見たら。いつもと違う所で描くのも楽しいと思うよ」
そう言って勧められる。確かに、たまには外へ出てみるのも良いかも知れない。
「それも良いかもな」
と俺が言うと、彼女はニッコリと笑う。どうも何か企んでいる様な顔だ。
「なら、一緒に外に出てみようよ」
「えっ」
いきなり、予想もしない事を言われて俺は驚いて戸惑った。
「ほら、この辺に大きな公園があったじゃない。そこで何か描いて見せてよ」
確かにこの辺では一番大きい、有名な公園がある。原っぱもあればアスレチックもあるし、バス
ケコートやソリ乗り場等、色々ある公園だ。だが、雰囲気は落ち着いて散歩に行くには持って来いの所だ。
「そりゃあ、あるけど。いきなりどうした。そんな事を言い出して」
あまりにも唐突に提案されたので彼女が何を考えているのか理解できなかった。
「別に、ただ君の絵をもっと見てみたいと思っただけだよ」
下手だと笑ったくせに良く言うと俺は思った。だが、嘘を言っているようにも思えない。
「ね、どうせ暇でしょ。今度の休みに行ってみようよ」
「分かったよ」
勢いに押されて、ついに行く事になってしまった。まあ、暇だから良いかと思うことにした。