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一話

 ようやく授業も終わり放課後になった。俺はいつも通り美術室に行く。


「また美術室に行くのか?」


 同じ同級生に声を掛けられる。


「そうだよ」


 俺は適当に手を振って別れる。その後に友人達は俺の聞こえない所で、こんな話をしていたようだ。


「神様ってのは残酷だよな。あんなに絵を描くのが好きなのに、まったく才能を与えないんなんてさ」


「まったくだよ」



 美術室に着くと誰も居なかった。これもいつも通りの事だった。


 この中学校には美術部がなかった。人数が足りなくて潰れてしまったらしい。仕方無しに最初は教室で絵を描いていた。


 それを美術の先生が見つけて、美術室を使うことを許可してくれたのだ。それ以来、この美術室で気が向いた時に絵を描きに来ている。


 絵を描き始めたのは、いつの事か忘れてしまった。気付いたらいつも絵を描いていた。だが、絵を習った事はなかった。


 小さい頃は親に頼んで習い事に行かせて貰おうとしたが残念な事に家にはそこまでの金が無いらしくて行かせて貰えなかった。


 それで我流でずっと描いてきたのだが、まったく上達せずに中学二年生になってしまった。


 一度、美術の先生に教えて貰うとしたのだが、何かと忙しいらしく時間を取って貰えなかった。まあ、美術室を貸して貰えるだけでも有難い事なので良しとしよう。


 いつも置かして貰っている場所から描き掛けの絵を取り出す。机に絵の具を並べて、早速始める。自分なりに色の構想を考えて塗ってみる。


 今回の作品は今日で描き終える事が出来そうだ。しばらく無心で取り組んでいく。出来上がりが近いと余計に気合が入る。


 気が付いた時には下校の時間になっていた。あと少し完成なのだが時間が足りなかったようだ。仕方無しに帰る。使った道具を綺麗に洗って美術室を後にする。明日こそは完成させる。そう誓った。


これが、いつもの俺の日常だった。だが、それは少しだけ変化した。



次の日の放課後、俺はいつも通り、美術室で絵を描いていた。いよいよ描いていた絵が完成する。最後の部分を塗る時は緊張する。ここで失敗しては水の泡だ。そして最後の一筆を入れて、今回の絵が完成した。


絵を手に取り眺める。


「・・・はぁ」


 そしてため息を付く。


「何で上手く描けないんだ」


 どう引っくり返っても小学生の絵だった。はっきり言えば下手だった。何度も自分なり工夫をしてみるのだが、まったく上手くならない。中学生になってから一体、何枚目の絵だろうか。情けなくなる。


 とりあえず、ひと段落付いて、ちょうどトイレに行きたくなったので用を足しに行く。洗面台で手を洗っている。鏡に映った自分の顔が目に止まる。


「冴えない顔だな」


 そう自分に愚痴った。美術室に戻ろうと廊下を歩いていると窓から夕日が入ってくる。


 もう、そんな時間になっていたのか。今日はこれで終わりにしよう。そう思った。

美術室に到着しドアを開ける。夕日に教室が照らされている。どことなく幻想的な雰囲気を醸し出している。


「へぇ」


 そこに、聞き覚えの無い声が耳に届く。どうも女子のようだ。その幻想的な世界に映る姿は絵に描きたくなるほどマッチしていた。


「それにしても下手だなぁ」


 クスッとその苦笑に俺は我に返る。自分の絵を誰かが見えているのだ。慌てて自分の絵の所まで走りよって掴み取る。


「あっ」


 それに驚いて彼女が後ずさりをする。


「勝手に見るな」


 俺が怒鳴るように言うが彼女は大して気にしていないのか、また微笑を浮かべている。


「ごめん、君の絵だったんだ」


 澄んだ声でそう言う。俺もようやく落ち着いて彼女は見る。制服を着ていて俺と同じくらいの年齢の子だった。だが、一つ不可解な点があった。それは彼女が違う中学校の制服を着ていた事だ。


「ああ、これ」


 こちらの気持ちが通じたのか制服のスカート掴んで彼女が微笑む。


「私、転校生なの。明日から、この学校に通うから見学に来たのよ」


 と彼女は言う。なるほどと俺は納得した。


「よろしくね」


 そう言って彼女が微笑んだ。その表情に少しドキッとする。


「もう、こんな時間だ。帰らなきゃ」


 時計を見てそう言うと、彼女はドアへと向かっていく。


「また、ここに来ていいかな?」


 彼女が後ろを向いたまま、そんな事を聞いて来る。


「別にどっちでもいいけど」


 と俺はぶっきらぼうに言う。それを聞いて彼女がクスリと笑って


「ありがとう。それと・・・」


 クルリと彼女がこちらを振り向いて


「あの絵、下手だけど嫌いじゃないよ」


 最後にそう言って立ち去った。


「・・・お世辞なんていらねえんだよ」


 誰も居ない美術室で俺は愚痴った。俺の描いた絵が夕日に染まって哀愁を漂わせていた。


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