第八話「海、潮風最高ぅ!(1/3)」
「誠二郎様!おはようございます!昨日見ましたよぉ!もう、格好良すぎですよ!」
「ちょっと真知子さん、抜けがけは許さないと、何度言ったら・・・!」
「ねぇ、誠二郎様!昨日午後の授業抜け出したのは、あの為だったのですね!?幸子さんと心配していたんですからっ!でも本当に素敵でしたぁ!太郎の奴はひどい演奏で、誠二郎様の邪魔ばっかり!もぅ~誠二郎様のワンマンステージでもよかったのに・・・!!」
「あら・・・真知子さん、そんなに騒がない方がいいですわ。」
「え?」
「幸せそうな顔でお休みになられてますわ。」
「あ・・・本当だ・・・」
「残念ですが、今日は構って頂けなさそうですの・・・」
「うぅ・・・・・・っあ!でもこれ、激レアな表情ではないですか!?」
「うっ!・・・そ、そうですわね・・・この天使の様な表情!写真・・・写真一枚だめかしら?」
「ふ、普通に考えたら盗撮ですよ、幸子さん・・・でも、一枚だけなら・・・あぁ、理性がなくなっていくのが分かる。」
「け、携帯を準備しなさい、真知子さん。」
「は、はい・・・カメラ起動しました・・・!」
「で、では真知子さんやっておしまい!」
「えぃっ!」
カシャリッ
「たのもーーーーーーーー!!!」
「ひぃ!!!」
「おはーっす!誠二は来てるかー?!」
「っげ!桃太郎にあの女!!」
「なんだよお前等、また誠二に付き纏ってたのか?」
「ぃ、ぃえ別に何もしてませんことよ!寝顔が激レアだったからって、ついアレしたわけじゃなくてよ!」
「はぁ?」
「太郎殿、このオナゴの携帯に、誠二殿が写っておるぞ」
「ひぃ!いつのまに後ろに!?」
「真知子さん、ここは退散ですわよ!写真、しっかり保存するのよ!」
「えぇ、もうバッチリです!逃げましょ!」
「では、皆さん、ごきげんようー」
変な二人は去っていった、朝からマジでうるさくて迷惑な奴らだ・・・。
なんだったんだよ、一体。まぁ、どうでもいいけど。
「太郎殿、誠二殿は熟睡じゃ。」
「仕方がないな、昨日の今日だしな。また放課後集まろうぜ。お前は自分の学校戻ったほうがいいぞ。名門高校優等生が、今じゃ突然グレたサボり魔なんだろ?」
「むぐぅ、そうなってしまっておる・・・好きなことをするというのは、難しいのぅ・・・両立というやつをせねば。」
「ま、俺は今日は、学校しっかりでるわ。」
「分かったのじゃ、また後でじゃの」
「あぁ」
あの袋小路ライブの次の日は、こんな感じでスタートした。
何というのだろうか、誠二もあかりも自分の中で同じ事に気づいているだろうが、妙な達成感が今現在、胸の中にある。
別に、ギターを弾くのが嫌になったのでも、飽きたのでもない。
でも、昨日の夜のあの出来事は、爽快感、開放感、射倖感が最大限まで高まった夜だった。
だから、何というか・・・少し日常が恋しくなったのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後俺達は、下町のお好み焼き屋に集まっていた。
「チーズもんじゃ1、海鮮焼きそば1、これだけでいいな?」
「おう、十分だよ、これ以上頼むと、晩飯になっちまう。」
「お主等、ここで食して、帰ってからまた食すというのか?!」
「え?何か変か!?俺達は普通にやってるけど・・・」
「いや、良くそんなに体に入るもんじゃな~と・・・」
「あかり、狙ったのか?」
「ん?誠二殿、何を言ってるのじゃ」
「入る 『もんじゃ』な~って。」
「あぁ、誠二、もんじゃか!よく気づいたな!くっだらねぇ!」
「ね、狙ってなどおらぬ!偶然じゃ!!!ワチキはくだらなくはない!」
「はは、悪かった。」
こんな下らない話をしてはいるが、皆の頭のなかには、「ある一点」が引っかかっているはずだ。
誰も切り出さないのは、具体的な打開策が思いついていないからだと思う。
誰も切り出さないなら、俺が切り出してやる。
「・・・で、ベースどうする?」
「・・・そうじゃな・・・」
「・・・」
皆やはり顔がちょっと曇っちまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昨晩のライブ後、俺達はGIGUYAの店員専用の休憩室を借り、休んでいた。軽く放心しながら。
ミツヒサは片付けを手伝ってから、ここに来るそうだ。
結果を告げに。
「お待たせー、ライブ楽しめたよ、ありがと」
「ミツヒサさん、こちらこそです。・・・・・・それで・・・どうですか?ベースやってもらえますか?」
「それなんだけどな、申し訳ないけど、今回はパスだ」
正直、絶対大丈夫だと俺は思っていた。
最高に楽しかったし、グループとしての相性は抜群だったと思った。
「ど、どういうことだよ!?」
「そういうことだ。」
「納得いかねぇ、どういうことだ、どういうことだ!?」
「うるさいねぇ・・・そのままじゃやっぱり納得してくれないか。・・・・・・アンタ等とあたし、進んでる時間が、世界が・・・違うと思わないかい?」
「はぁ?」
「あたしはアンタ等の今の世界、とっくの前に経験して躓いて、仲間と一緒に克服して、ここまで履い上がったんだ。・・・・・・アンタ等と一緒に参加しちまったら、これからアンタ等がぶつかる壁に、いとも簡単に答えを教えてやってしまう。今日のライブも、簡単に手助けしちまった。アンタ等、素直で放っておけない奴らだからな・・・」
「・・・答えを簡単に知ってはならぬのか?」
「そんなの当たり前さ、その人物がどれだけ音に向き合ったか・・・。苦悩し、仲間がいるなら一緒に克服していく、こうすることで音に深みが出てくるってもんさ。言いたいことは分かるね?なんでこんなことで躓いてんだよ。なんて思ってる奴が一人でも居たら、グループとしての気持ちが分裂しちまってるだろ?」
「・・・・・・えぇ、確かに・・・。」
「誠二・・・」
「分かってもらって嬉しいよ、あたしの助言もここまでだね。後はあんた達で頑張んなよ。まぁ、応援は力いっぱいさせてもらうけどね。」
「ミツヒサさん。貴重な体験、ありがとうございました。俺達は、必ず貴方のいる世界まで、たどり着いてみせます。」
「あぁ、楽しみにしてるよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はい、チーズもんじゃお待たせねー、焼きそばはちょっと待ってね。ん~~~?なにぃ、あんた達、何いきなり沈んでるのよ?さっきまで騒いでたくせに。」
「おばちゃん・・・」
「おばちゃん言わない、これでもまだ35なんだから」
「わりぃ・・・」
「折角可愛い子ちゃん連れてきて、そんな暗い顔してんじゃないのよ。」
「かわいこちゃんて、誰?そんなのどこにも居ないだろ?」
「の助君、アンタさいてーね。」
「えぇ!?なんでサイテー言われなきゃなんねぇ?!」
「桜、お前最低だ。」
「誠二まで・・・!」
「あぁ、うつむいちゃったじゃないの」
「早乙女あかり!?お前そんな事で落ち込むタマだったっけ!?!?!冗談に決まってるだろ!」
「太郎殿は・・・」
「な、なんだよ?」
「いや、なんでもないのじゃ」
何だか、いつものあかりじゃないな、ノリが悪いというか・・・やっぱり昨日の今日だし、ナーバスになってんのか?
「・・・んもう~、湿っぽくなっちゃったわね~、仕方ない、ここは私が完璧なもんじゃ作ってあげるから、皆、元気だせ!」
「お、おばさんの焼くもんじゃ、久しぶりだ。楽しみだな。」
「菊の嬢君、おばさんもやめてね。一応ここの、看・板・娘」
「あ、すまない・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・
「ありがとさん、また来てね!」
俺達は、おばちゃんが焼いてくれたもんじゃと焼きそばを食い、店を後にした、熱くてうまいもんを食べたおかげか、多少心の不安はとれたように感じる。
「あぁー美味かった!さぁーーーこれからどうする?」
「そうだな。」
「なぜじゃか、まだ帰りたくないのぅ」
「出ました、女子の殺し文句、まだ帰りたくない!」
「何を言っておる!さっきから太郎殿いじわるではないか!?」
「カカカ、いい反応をしよるわ!」
「太郎めが!許さぬ!!」
「まぁ、二人とも、そこまでにしておくんだ。周りの視線が痛い。」
う、通りすがりの人にメッチャ見られてた。この時間、サラリーマンとか人がいっぱい通るの忘れてた。は、恥ずかしい!
「でだ、俺もまだ帰りたくはないんだ・・・」
「お、誠二もか?」
「・・・提案なんだが、明日から土日で休みだろ。皆で海に行かないか?近くに俺の親の別荘があるんだ。そこを使わせてもらって、今夜から行かないか?」
「う、海だって!?別荘だって!?誠二くんがメッチャアクティブ発言!」
「で、どうだ?太郎は大丈夫だろうが、早乙女は泊まりとか大丈夫か?」
「わ、わちきは・・・多分大丈夫じゃ。あの日から父上はワチキに無関心のようで、今逆に自由すぎて怖い位じゃ。」
「そうか、じゃあ今から解散して、家で準備してきてくれ。集合は準備出来次第、駅で。早乙女は、もし無理だったら電話してくれ。」
「承知したのじゃ。」
「俺も、了解だ!」
「じゃあ、一旦解散!!」
・・・・・・・・・・・・・・
その頃、真知子の部屋。
「あぁ、この写真・・・」
「もう、一番の宝物になっちゃった・・・あ、ちゃんと保護しておかないとね」
「あぁ・・・それにしても本当に・・・」
「・・・ねぇ、桃太郎とあの女子と、何をやってるの?」
「私も混ぜてくれないかな・・・?」
「はぁ・・・。」
コンコンコン。部屋をノックする音。
「おーい!真知子!そろそろ出発するぞ!」
「あ!父さん?!はーい!ちょっと待って!!」
「後1分なー!」
「はいはい、今でますって!」
ガチャ。
「おいおい、わざわざこんな時までそれ持っていくのか?」
「これも、私の宝物だから♪一緒に連れてくの♪」
「仕方がないな、潮風にあまり当てるなよ」
「はいはいって!」
「母さん、出るぞー」
「はーい。」
車のドアが閉まる。その車は軽快に発車した。
「誠二郎様、私も貴方の近くにいきたいです。」
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次回「海、潮風最高ぅ。後編。