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第七話「ゲット?ロスト?ベーシスト!後編」

俺の名は、桜本太郎の助。ギターもなにも弾けないのに、今度の文化祭でバンドをやることになっちまった!

まずは、バンド仲間を集める所から始まったが…どいつもこいつも癖のある奴ばかり!

ドラムス「早乙女あかり」

なんつぅか、そのライフスタイルは篭の鳥状態だった。学校が終わった後、家の伝統だかに縛られ、毎日鼓の稽古。

しかし、奴は見ちまったんだな、ストリートドラマーってやつを。

今まで家と学業の事だけをやっとけばいいと思わされてきたが、その時初めて自分がやりたい事を見つけれたんだな。




「太郎殿?何をぼーっとしておる!?早くステージに立たんか!」


「…あ?」


「ほら、始めるよ、お客さんも集まってきたよ」


あかりとGIGUYAの赤い坊主女が、俺を呼んでいる。


って、客!?


「なぁ、店員さん!客なんて呼んだのか!?」


「ミツヒサだ」


「え!?」


「あたしの名前はミツヒサだよ!店員さんは今後やめな!みんなも!」


「わ、わかったよ」


みんなもそれぞれ返事したが…質問には答えてくんなかった…。


しかし、誠二のやつ、さっきからマジ緊張してんなぁ…。かっちかちやん…。


「ほらっ、いくよ!ドラム!始めて!」


「わ、ワチキからか?」


「そうだよ、曲の大黒柱なんだよ!?」


「わ、わかりもうした!……ふぉぉお!」


ドンッタンッドン。


「うを!いきなり始めやがった!ムリ!ギターも同時に入らないとだめだから!もうすでにずれてる!ずれてる!」


たん……


止めてしまった…。いゃ、止めるだろう。


曲が始まる前、ドラマーの人がスティックを四回位たたくやつ、あれって重要なんだな、って今思った…。


「うぅ?すまぬ…」


ザワザワしちゃってるよ、客…。よく見たら、結構来てるな…百人くらい?この狭い袋小路がもう少しで埋まりそうな…


「ドラマー!しっかりね、あたしたちにしっかり合図送って!」


「あ、合図とな?」


「分からないの?だったら、せーっの!でいいよ!」


「わ、わかりもうした!」


確か、誠二が教えてくれたコード表の押さえ方通りだと、最初はこうか。


「皆、準備はよいか?」


「おう!」


「あたしも問題ないよ!」


「…あぁ、俺も問題はない」


「では参るぞ!ミツヒサを仲間に入れる試練じゃ!……せーっの!」


ドンッタン、ドンッタン

ジャラジャンッジャジャジャン。


よっしゃ!出だしにいい音がなったぞ!


次がこうで、次が…こうだな。


いい感じだ!指が痛いけど、全然我慢できる!


そして次が、こうだな、うん、いい感じだ!


そろそろサビだな!ここが一番覚えが早かった所だから、大丈夫。


この調子なら、問題無いな!


そしてこの歓声!


歓声。


歓声…?


かんせい……?


あれ?皆、棒立ち?後ろの方は…列が乱れ…帰宅者?!


あれ?皆どうしたんだよ?

いい感じに鳴ってるだろ?この曲…


誠二…?ダメだ…完全に目を瞑って歌ってる…


あかり…?ダメだ…完全に入り込んでる…。


だめだ、完全にお客無視・・・!全く響いてない!

この状況、どう打開する?

譜面にないフレーズでも入れてみるか?

いや、そんな余裕も技術もねぇ!


ペギョンッ


あぁ!余計なこと考えててミスった!


ドンドン・タンタタン!


あかり!ちょっと色々待って!

いや待ってもらうわけにいかねぇ!


ペギョギョンッ


・・・またミスった。


皆バラバラ・・・もう・・・ボロボロだ・・・。


「誠二・・・あかり・・・ごめん・・・」


俺は演奏をやめた。音楽が確かに正しくなっていても・・・何も感じることのできない音を、お客に聴かせることはできなかった。


しばらくして、この袋小路から音という音が聞こえなくなった。


「太郎殿・・・どうしたのじゃ・・・」


「・・・わっかんねぇ、わっかんねぇけど・・・何か・・・足りないんだ」


「足りない・・・?」


「誠二・・・あぁ、お前の歌が下手なわけじゃない、演奏が下手なわけでもないと思う・・・しっかりなってる・・・でも・・・」


「太郎殿・・・」


自分から演奏を止めてしまった上に、その理由をはっきり説明できない事へ、俺の頭は混乱し始めていた。


「・・・ソウル」


今までずっと黙っていたミツヒサが口を開いた。

俺たち三人の視線は、ミツヒサへと注がれた。


「楽しむソウル、思いを届けたいソウル、仲間を想うソウル。ソウルというソウルが感じられない」


「ソ、ソウルとな・・・?」


「あたしも、今の演奏は苦痛だった。彼が止めていなければ、私がとめていたかもしれないね。あたしん所で見つけたそのギターも、その使い古されたドラムスティックも、君の喉も、そんなんじゃ悲しい音しか出せないよ」


ミツヒサは、厳しい顔つきで、俺達三人を目で威圧する。


「そんな悲しい音を出し続けられちゃ誰もいい曲だなんて思わないだろう。私をゲットする試験とか言っていたけど・・・そんな気分で演奏を始めたというなら!あたしは絶対に許さないよ!」


風貌も手伝ってか、相当な迫力がある。俺は固まるしかなかった。

それは皆も同じだろう。


「・・・演奏が下手でもいい、譜面を飛ばしたっていい、重要なのは、この場所を、この環境を、この時間を、その相棒と一緒に、仲間と一緒に、精一杯楽しむ事なんじゃないか?」


俺はその言葉を聞いて、ギターに視線を落とした。

こいつは・・・自分で声を出すことも動くことも出来ない。

ずっと店の倉庫に眠っていて、俺を呼んでくれたこいつ。

ずっと、待っていたんだ、この時を、こいつは!

こいつが一番輝ける場所っていうのは・・・!


「ギターの彼、何かわかったかい?」


ミツヒサはニヤリ顔で俺にそういう。


「・・・ギターの彼か・・・、こいつをただ持ってるだけじゃ、確かにただのギターの彼だよ・・・。でもな、こいつを握り締めている間は!桜本太郎の助だ!こいつを唯一輝かせることのできる!桜本だ!」


俺は全力で叫んだ、ギターから微かだが暖かみを感じる。

体が熱くなってきた。


「俺も、分かった。今必要のない事を考えすぎていた・・・。ミツヒサさん。あなたには申し訳ないが、貴方をバンドの仲間に入れるなんて、もうどうでもいい事です・・・。歌いたい・・・。ベースしっかり頼みます。」


「はは、上等だよっ」


誠二の奴、あんなに吹っ切れやがって。


「ワチキは最初から楽しんでいたんじゃけどなぁ~」


「お嬢ちゃん、あんたは入り込みすぎっ、誰もついて行けやしなかったじゃないか、それにそのスティック、苦しそうだったじゃないか。」


「むぅう、そうか・・・・・・?苦しそうか・・・この棒は、街の音出し殿から貰った大切な棒じゃ・・・ただの通りすがりのワチキに、太鼓も円盤も、託してくれたんじゃ。」


「・・・それから?」


「だからあれじゃ!何もない毎日から引っ張ってくれて、折角のチャンスをくれた太郎殿や誠二殿、それに音出し殿には感謝じゃ!じゃから、みなと一杯楽しみたいのじゃ!」


「ふ~ん・・・やれば皆出来るじゃないか、今自分でどれだけのオーラが出てるか分からないだろうけどね・・・」


「桜、早乙女、そしてミツヒサさん、もう一度最初から、やりたい」


「…俺も、弾きたい。」


「ワチキも、叩きたい。」


「全く、若いね。あんたたちは」


皆の気持ちが一つになった気がした、これだったら、帰っていった客も戻ってきてもらえる程の音を出せるかもしれない。

客・・・そういえば、帰らないでずっと見ていた人がいる。


「おーい!嬢ちゃん!いい仲間もってるじゃねぇか!やっぱり俺は嬢ちゃんを見込んでよかったぜ!俺の分まで、俺の相棒を可愛がってやってくれよ!さぁ、叩いてくれ!もう一度聴かせてくれ!」


「お、音出し殿!?きていたのか!?」


お客は一人でも関係ない、精一杯楽しむし、あかりの恩人なら尚更、思いをしっかり伝えてやるぜ。

俺達4人は、顔を見合わせ、頷きあった。


誠二がマイクに向かう。


「今から演奏する曲は、自分が子供の頃に、良く親が聞いていた曲。リチャードソン・マンチェスターの『アゲイン』。どこへ行くにも、親がかけていて、半分ノイローゼになりかけた。まさかの縁で、自分が歌う側になるとは・・・。でも、今はこの歌が好きだ。この仲間と歌うこの曲は、きっと素敵なものになると思う。始めます、『アゲイン』」


あかりの、せぃのっ!という声からこの曲は始まった。

正直、笑っちまうスタートだけど、それが妙に心地よかった。


「じょ、嬢ちゃん達・・・なんてオーラ出しやがる・・・立っているだけで・・・精一杯だ・・・足が、ガクガクする・・・俺の長い経験で、ここまでの奴らは・・・くぅ、嬢ちゃん達・・・この若さでこれか・・・!!しかし、最高にハイな気分だ!!」


袋小路に人が入ってくる。

俺たちのオーラというものに煽られ、地面を踏みしめながら一歩づつステージに近づいてくる。

俺のギターも楽しんでるのが分かる、俺も楽しいぜ!

俺はあかり、誠二、ミツヒサと目配せし、その瞬間、自分から更に強いオーラが出るのを感じた。

アイコンタクト、目を見るだけで、相手がどんな気分なのか分かる。

皆精一杯楽しんでるのが分かって、嬉しくなったんだ。


いつの間にか、袋小路には人がギュウギュウに集まっていた。


必死に腕をあげ、演奏に応えてくれている。


会場内には、大歓声があふれていた。


・・・・・・・・・


「ちょっと、真知子さん?あれ、菊の嬢様じゃなくて!?」


「えぇ、幸子さん、絶対そうです!そしてその隣、桃太郎!!!?」


「あぁ、なんて事でしょう、二人の愛はここまで進んでいたのね!」


「幸子さん、問題はそこじゃないです!何でこんな所でこんな事をしているかです!」


「えぇ、真知子さん、そうですわね・・・。でも・・・・・・心地いい歌ですわね。」


「はぁ、確かに・・・幸子さん・・・・・・ちょっと入ってみましょう」


「そうですわね・・・・・・・・・ブベラッ!!」


「ちょっと幸子さんどうしたの!?」


「な、なにやらすごい風圧で、ここから先進めないんですの・・・ゴホゴホ」


「何もないじゃないですか?私は普通に入れますよ?ほら。」


「な!?どうしてですの!?どういうことですの?!」


「ひゃぁ!それより幸子さん!顔、すごい擦り傷になってますよ!?」


「えぇえ!?嫌だわ!救急車を呼んで頂戴!!!顔だけは勘弁ですわぁ!」


「病院に、病院にいきましょう!」


・・・・・・・・・・


「おい、誠二、袋小路の入口の二人見たか?」


「あぁ、まちことさちこだったな」


「なんか一名・・・大変なことになってたみたいだけど・・・」


「よく分からないが、幸子ってほうは、俺らのサウンドと相性がよくないみたいだな」


俺と誠二は、アイコンタクトだけでそんな会話ができた気がした。


こんな時間が永遠に続けばいいと思った。


でも、これも文化祭が終わったら、終わりなんだろうな。


そう思ったら、一音一音、すごく愛おしい音なんだと認識した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


次回予告


「さくら、皆で海いかないか?」


「せ、誠二からそんな提案珍しいっ」


「練習続きだからな、リフレッシュだ!」


「ていうか、それよりミツヒサが仲間に加わったのかどうかの方が重要だろ、先にそこだろ!」


「海じゃと?ずっと山の神社だったからのぅ。行きたいのう!」


「じゃ、行くで決まりだ。」


「ちょっと、なんかいつも俺のこと無視だな・・・」


第8話「海、潮風最高ぅ」


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