第五話「やくざにやっちゃった」
「どう落とし前つけてくれますの?あぁ!?」
本当に厄介なやつに捕まっちまったな…
「っんだよその目!きにいらへんわぁー!なんかいいてー事でもあるんかい!」
「…あぁ…俺も気にいらねー」
あ、やべぇ、なに言ってんだ俺…余計めんどくさくしちまった…
「……ええじゃないか、こっちに来いや」
ってぇな、襟つかむんじゃねーよ、伸びるだろうがよ。
ん…袋小路…?
「命乞いするなら今の内やぞ、こらぁ!」
う!わき腹に膝?!当たる!
「けほっ……今の内って言ってる割には…もう手ぇ出してんじゃねぇか…」
「あんなぁ兄ちゃん、社会には礼儀っちゅーもんがあるんよ、ぶつかられて詫びも貰えんかったワシは被害者なんやぞ?」
っく、二言目には説教かよ…
「っつ!髪ひっぱんじゃねぇ!」
「ワシはごめんなさいが聞きたいだけなんよぉ~あぁん~?そらっ」
うく!腹に、
「くぅ…」
「強情な兄ちゃんや、ただ詫び入れて、金だしゃいいだけやぞ?」
「死んでも…ぃやだ」
「そうけぇ…せやったら、もうええわぁ~ほら、その大事そうに抱えてるもんわたさんかい」
う、お、俺のギターのことか、何を考えてんだ・・・何しようとしてんだ。
いずれにしても、絶対渡すもんかよ。
「ほら、わたさん・・・かい!!」
「うぅ!!」
こ、こいつ普通に顔を殴りやがる・・・。また、くるっ!
「そら、ほぉぅら!」
「ぐぅ、がは・・・!」
・・・・・・・
「はぁ、はぁ、どうしたん、もう立っていられへんのかいな・・・。ほなら、こいつちょっと借りますわ。」
最悪だ・・・こんな奴に俺のギターを・・・触られちまった・・・。
「おーかわいそうなギターちゃんやわぁ、こんな奴ん所に買われちまって。」
「・・・・・・?」
「んじゃ、かわいそうなこいつを救ってあげましょかぁ」
「・・・・・・!?」
な、何しようとしてんだ・・・?
「こいつも、お前に弾かれるくらいなら、死にたい言うとりますわ!服のんお代はこれでチャラでええわ」
「!!!!!」
お、俺のギターを、こ、壊す気だ、地面に叩きつけて!!!
「わしゃーやさしいなあ・・・ほな、さよなら、やて!」
「や・・・・・・!ぃやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
ドーーーーーーン!!!!
うぉ・・・。
「んがあ!!」
「・・・な、なに?」
「だ、誰や・・・われぇ・・・いきなりうるさい音ならしたんわ・・・」
「あんたこそ誰だい、人の店の近くで穏やかじゃないことしてるのは」
そこには、180センチ位の身長の、ボウズで真っ赤な頭の女が立っていた。
GIGUYAの・・・店員さん・・・。
それも、ベースを抱えて・・・。
「あんた、その子のギター・・・今壊そうとしてたね?」
「・・・!!このあまぁ!」
危ない!殴られる!
ドーーーーン!
な、なんだ、あの女、ベースから凄いオーラと、空気圧が。
「うぎゃあ!」
そのオーラと空気圧が、あの体格の男を一気に吹っ飛ばした! ?
「お、女、われ、一体何をしとんのや!」
「これは、あたしの怒りのサウンドだよ!」
「何わけの分からないこといっとんのんか!こいつめが!!!」
「聞きな!!」
こ、この曲は・・・聞いたことがある・・・
ラブミーテンダーの『神裁き』!!
コテコテハードロックで、この世界で弾ける奴は、そういない。
攻撃的な、全てが攻撃的な音で構成されている。
それに増して、この女のオーラ・・・真正面から受けたら、一体どうなる?!
「あ・・・あぁ・・・ぐあおあ・・・」
ドゥーン・・・。
終わった・・・。俺も吹っ飛ばされるのを堪えるだけで精一杯だった!!
「あ・・・あ・・・あぁ・・・」
この女・・・たったワンフレーズで男を抜け殻にしちまった・・・!!
「君・・・大丈夫?」
「うおっ」
いつの間に近づいてきた・・・いや、あまりのことに思考がとまってたのか・・・
「たてるかい?」
「あ、あぁ」
「ほら、ギターも無事だよ」
「お、おう」
「どうしたんだい、まったく、だらしないな」
「・・・え?」
「男なら、やられっぱなしじゃなくて、やり返せばよかったじゃないか」
随分な言い草だな・・・。でも・・・。
「・・・・・・ギタリストは・・・手が命だから」
手を折ったりしちまったら、こいつを輝かせることができないから。
「おぉ?ははっそのとおりだね。あんたは本物だね。いい覚悟だよ」
むずがゆい顔をするひとだな・・・。
「・・・それはそうと・・・、あいつどうすんの?」
「決まってるジャン、サツだよ、サツ」
「は、そこまで大げさにしなくてもいいだろ!」
「何言ってんだい、金、稼げるときにかせいどきな」
「はぁ!?」
「治療代だよ、治療代・・・もしもしケーサツですか?」
「お、おいまて!!」
なんて行動の早い奴・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・
こうして俺は、この女と一緒に警察署へとやってきた。
ヤクザは逮捕。
「太郎殿!」
「桜!」
話を聞きつけた、こいつら二人・・・。
のこのこと警察まできやがった。
「大した怪我はしてないみたいだな、良かった」
「ま、まぁあちこちいてぇけど・・・」
「お主が太郎殿を救った者か?」
「あ、ああ、そうだけど、アタシは別に何もしちゃいないよ」
「何もしていないのに、桜が助かるはずがない、ありがとう」
「ちょっとやめてよ、頭は下げないで、本来なら、その桜君に下げてもらいたいものだからね」
う、そういえば礼を言ってなかった・・・。
でも、今更礼なんていえねぇよ、はずかしい・・・。
「ん?あの、失礼ですが、その後ろに立てかけてあるのは?」
「あぁ。これかい?アタシのかわいこちゃんさ」
ベースだ。
思い出しただけでも鳥肌が立つ・・・あの音・・・。
「ベースじゃな。と言うことは、貴女はべーしすとなのか?」
「あぁ、そうさ」
なんだなんだ、誠二郎とあかりが目を丸くして顔を見合わせてる・・・。
嫌な予感が・・・。
「ワチキたちのバンドに入ってたもれ!」
やっぱりか。
「え?」
「文化祭でバンドをやることになっていて、ちょうどベースの席が空いているんです、お願いします。」
そんなに簡単に勧誘しちゃって良いのかよ・・・
でも、あの音・・・本当に心に響いた。まだまだ聞いていたい。
うまく話が通ればいいのだが。
「ふ~む・・・」
悩んでる。
「コレは?」
コレって。親指と人差し指で丸を作りやがった・・・金か!!
「そ、それは、出来るだけご用意いたします」
「ははは、冗談冗談!でも、誘ってくれるのはうれしい。」
「では?」
「うーん、一つ条件が。」
「なんでしょう」
「ここにいる全員で、アタシとセッションしてよ、それから決める。全員、やれるんでしょう?」
「な、なんですって?」
え・・・・・・?
なに!?
全員と言うことは、俺も含まれているのか!?
いや、絶対含まれてんだろう。
あかり、お前俺を見て不安そうな顔してんじゃねえ!
「明日、君たちの学校が終わってから、GIGUYA脇の袋小路に集合ね、期待してるから」
そうやって俺らは解散した。
本格的にまずい・・・。
ギター触るのは今日が初めてです。
どうしろと。
「明日、学校抜けて練習するから、桜、いつもの公園で待ってる。早乙女もいいな?」
なんて誠二郎はいいやがってたが・・・
一日で身になるものじゃないだろう・・・。
まぢ、どうしよ・・・。
次回 『ゲット?ロスト?ベーシスト!前編」