第十話「海、潮風最高ぅ!(3/3)」
「うーー海ではないか!!では早速!!ひぃぃぃ!ちべたぃ!!」
「はしゃいでんなぁ・・・しかし、案外人いないんだな・・・」
土曜日だというのに、浜は、ずいぶんと閑散としていた。
「田舎の浜だからな・・・遊ぶならもっといい所あるだろう」
「まぁ!存分に騒げるからいいんだけど!」
「時に桜、あの水着はお前が選んだのか?」
「え?あ、あぁ成り行きで」
「へぇ、あんなフリフリが趣味なのか」
「ち、チゲーヨ!偶然手に持ったものがアレだったんだよ!」
「ふーむ」
「それに、あまりお前を待たせたくなかったし」
「ほぅ、まぁ似合っていると思うから、太郎にしては上出来だ」
「なんだよ、その上から目線!」
ペタ
「ひえぇ!つめてぇ!!!なんだ!」
「へっへっへー、昆布攻撃じゃ!」
「てめぇ!いきなりなんだよ!そんなもんつけんじゃねぇ!!っていうか、海藻浮いてんのかよ!!!」
「あぁ、田舎の海だからな」
「そんな強引な!!」
「はぁー愉快じゃのぅ・・・時に二人とも、早速じゃが、例の洞窟に行ってみようではないか」
「え?!いきなり!?海であそばねぇの!?」
「もう十分じゃ。太郎殿は洞窟の奥が気にならんのか!?」
「いや、気になるけど・・・海に来てから、まだ10分も経ってない・・・」
「気になるのならば、決まりではないか」
「誠二郎殿も、異論はあるまい?」
「あ、あぁ」
「はぁ、しょうがねーな・・・しかしその洞窟っていうのは、もしかしてあれのことか?」
沖の方まで伸びている崖に、穴がポツンと空いている。
「じゃと思うが・・・」
「あそこまで、200Mはありそうな気がするんですけど・・・」
「途中で溺れたら死ぬな」
「ちょっと、そんなこと真顔でいうなよ!」
「準備運動、しっかり」
「誠二・・・行く気満々なのね・・・」
こうして俺達は、崖の穴に命からがらたどり着いた。
ここが琴実さんの言っていた洞窟か・・・ていうか、先が真っ暗で何も見えないんですけど・・・懐中電灯とか無いと進めないじゃん・・・・・・って
いうか!!!!!
「あかり!泳げないなら先に言え!!!!俺はイルカでもなければシャチでもねぇ!!」
「は、ははは~」
「泳いでる人間にいきなりしがみついて、上に乗る奴があるか!!」
「あは~・・・すまぬ・・・」
「・・・そん時はまだ足のつく所だったから良かったけど・・・マジ、もう疲れちまったぜ・・・」
ゴゴゴゴゴッゴゴ
「桜、そんな文句を並べている間に、奥から何か向かってきているみたいだが」
「え?ま、まさか・・・」
「例の、押し戻す水かの!?」
「まだ一歩も進んでねぇぞーーーー!!!!」
ザパーーン
「うわぁ!」
「きゃわぁ!」
「ぅう!」
思った以上の勢いのあるその水に、全身をすくわれ、海に落とされてしまった。
何とか体制を立て直し、立ち泳ぎを始めて周囲を見渡すが・・・案の定あかりの姿がない。
「あいつ、どこだ?!」
足の届かない、底も見えないこの沖の海で、泳げない奴がいきなり放り出されたら、それこそ死ぬ!
押し戻された時の事考えてなかった、あいつどこだ、やべぇぞ!
「桜!無事だな」
「あぁ、でもあかりがいねぇ」
「俺も潜って探してみたが、見当たらない」
「くっそ!まじか!」
「桜、落ち着け、落ち着いて」
「落ち着けるか?!ダチが海で流されてるかもしれないのに!」
ザバーン
「ぷはーーーはぁはぁ」
「え??」
「危ないところでしたねぇ、死人は出ないはずのこの洞窟で、死人第一号になる所でしたねぇ。はぁはぁ」
「こ、琴実さん?!」
「はい、お嬢様なら無事ですよ~」
「あ、あかり!!」
しっかりと意識を持ったあかりが琴実さんの腕に掴まっていた。
「はぁはぁ、海怖すぎじゃ・・・真っ暗じゃった・・・」
「あかり・・・よ、よかった・・・」
「琴実さん、なぜここに?」
「えぇ、誠二郎様・・・泊まりに来ていただくお客様の安全管理も私の勤めですので、海で遊ぶとなると、こんなこともあろうかと、マリンジェットのスタンバイは当たり前です。」
「だ、だったら、洞窟までそれに乗せてくれよ・・・」
「いえ、そこまで干渉はいたしませんよぉ、折角皆様で楽しんでおられるのに・・・でも、ライフジャケットも無しに、良く挑みますねぇ・・・私が渡さなかったのもちょっとアレでしたが・・・。」
「いや、俺たちも・・・確かに無謀だった・・・しかし、桜、立ち泳ぎもいい加減疲れる。帰ろう。」
「そうだな・・・、あかり、もう十分だろ?多分だけど、洞窟の向こう側も、こんなふうに穴が空いていて繋がってるだけだぜ?そんで向こう
から海水が入り込んで流れてきてるんだと思うわ」
「・・・わかった・・・わかったのじゃ・・・。」
「ごめん、琴実さん、俺は泳いで戻るから誠二とあかりをそれに乗せて行ってくれ」
「はいぃ~わかりましたよ~」
ブルッォォォォォ
行ったか。
さて、俺、何格好つけてんだろう、
実際体力の限界だわ~・・・行きにあかり乗せてきたせいだ、絶対そうだ。
あぁ~水を掻く力が弱い弱い。
進まないったら進まない。
仕方がない、もういっぺん洞窟の入口に登って、琴実さんがジェットで助けに来るのを待とう。
よっと、
「はぁはぁ・・・あ”あぁぁぁ」
横になると、岩がヒンヤリしていてきもちいい。
まぁ、いずれまたさっきの水が来るから、いつまでもこうしてはいられないけど・・・。
ん・・・?
あれ・・・?
なんだこの音・・・洞窟を通る風が鳴らしてるのか・・・?
風が・・・あぁ、すげぇいいメロディを奏でてる・・・。
何だこれ、本当にこの洞窟が鳴らしてる音なのか・・・?
信じられない、こんなにはっきりとしたメロディを奏でるなんて。
ずっと聞いていたい、これからどんな展開をするんだい?
おお、そうきたか~、定番の定番じゃないか、ハハ。
でっも、嫌いじゃないね。
どれ、俺とセッションしようぜ!
・・・・・・ブルォッロロロロロ
「桜本様ーーー!お迎えにまいりまし・・・た・・・桜・・・さま?」
「今いいところです!琴実さんはオーディエンス第一号だ!」
「ま、まさか信じられません・・・風と桜様のソウルが手に集まって・・・ギターの形を成している・・・音も・・・本物。」
「っはは!なんだい、そのヒネクレた展開は!でっも、嫌いじゃないね!」
ゴゴ、ゴゴゴゴゴゴ
「あ!桜様!押し戻す水がきますよ!」
「おっ」
「危ないっ!」
「おぉおおおおおおおっ」
ザパーーーー!ドーーーン!
「な!!!何てことですか・・・!あの勢いの水が・・・桜様の前で止まった・・・!」
「どうだい、俺の音の壁は・・・!ふふ、今ならハッキリと言える。そう、ここは、名前の通り、押し戻す洞窟。俺があんたの水を押し戻して
やんよ!」
グイーーーン
「つくづく信じられません・・・水の塊が・・・どんどん・・・元来た道に後退していく。なおも膨れ上がる桜様のソウル・・・」
「おお、お前も楽しんでくれてるか!セッション最高!!じゃあそろそろ締めに入るか!おおおおおおお!」
ザパーーーーーーーーーーーー!!!
「んをぁあ!!!」
「あ、桜様!!」
ブロロロロロロロ
次、目を開けると、俺はマリンジェットのシートの上に乗せられていた。
「大丈夫ですか?」
「はぁはぁ・・・負けた・・・んだな・・・俺が負けちまった・・・っくそ・・・。」
「負ける・・・?ですか?」
「あぁ・・・はい・・・ここはどうやら・・・一定期間で吹き出る水を、向こう側の入口と、こっちの入口とで、押し合う戦いが出来る場所です。」
「ぇ?」
「だから、今現在、この反対側の入口にも・・・誰か熱いソウルを持った人間がいるってこと。そいつの音が風に乗って、こっち側にも聞こえてきたから、ついセッションしてしまって。水をソウルで押し合うバトルにまで発展したんだと思います。」
相手の顔は見えないけど・・・中中繊細な音を鳴らす奴だった・・・。ギターではないな・・・キーボードか?
「とにかく、あのお二人の所に戻りましょう」
「あぁ・・・そうだ、迎え・・・ありがとうございます。」
「いえいえ、それが私の義務ですから~」
「はは、義務ねぇ」
「太郎殿~~遅かったではないかぁ・・・」
「あぁ、ただいま、誠二もありがとう」
「ん?なんで礼などいう・・・なんか妙にスッキリした顔しているな。」
「あぁ、あの洞窟、最高の場所だったぜ!」
「最高の場所・・・?」
「た、たろうどの・・・ワチキが死にかけた場所を・・・最高の・・・最高の場所となあぁぁぁぁ!!!」
「うわぁ!怒るな!殴るな、痛い痛い、ゴメンゴメン!!」
こ、こいつらには黙っておこう・・・イテテテ。
俺達は、別荘へと戻り、琴実さんが作り途中であったであろう「腕より料理」の手伝いをし、バルコニーで皆で食べた。
まぁ・・・まさかの腕より料理が・・・バーベキューだったとは・・・材料切るだけじゃん!!!
琴美さんも、なかなかのお人だ。
「琴美さん、折角なんだし、お酒飲んでもいいですよ?」
「え?誠二郎様・・・、そのお酒など、私、仕事中でございますし。」
「気にすることは無いよ、ここには俺達しかいないし、別に」
「ふふ、ありがとうございます。でもお気持ちだけで。これから、何が起こるか分かりませんし、運転しないとダメになるかもですし。」
「琴実さんは、堅いな、はは」
昼過ぎから火を囲んで、ゆっくりと時間をかけてバーベキューを食べるのも、悪くないな。
海の方に太陽がゆっくりとその存在を傾けていった。
「太郎殿ぉ~なんじゃか、この葡萄ジュース・・・フラフラするのじゃ~」
「お前それ!!まさか、いやその通りアレじゃねぇーか!!」
「あらあらワインですねぇ」
「こ、琴実さん・・・」
「ペットボトルに自家製のワイン詰めてきたので・・・あぁきっと勘違いされて冷蔵庫から取ってきてしまったのでしょうか」
「ちょっと、ちょっとちょっと!俺達まだ未成年だから・・・!そんな勘違いしやすいものおいておかないでください!」
「ふぁぁ~っくぅ!太郎殿ぉ~なんでいつも意地悪ばかりいうんじゃ~?」
「ぐあ!あかり、くっついてくるな!」
「ワチの感情~ちっとも気づいてくれないじゃろ~?」
「はぁ!?何言ってんだよ!誠二!助けてくれ!」
「・・・自分で何とかしろ」
「はぁ!??!」
「太郎殿・・・・・・」
「な、なんだよ・・・」
じーっと俺を見てきやがる・・・
!!!!!!!!!!!!んが!!!
・・・この場の空気が固まったのが分かった。
俺の口に、あかりの口が触れている。
「―――んーー!」
「してしまったではないか・・・」
やっと離れたと思ったら、あかりはそのまま寝てしまっていた。
「あらあら・・・うふふふ」
「うふふじゃないですよ!!!」
俺の、俺の人生初のキスが・・・酔っぱらいの・・・
「太郎、おめでとう」
「おめでとうじゃねえええ!俺はもっとちゃんとしたファーストを夢見て!」
「はいはい、そこまでですよ~。桜様は、あかり様を部屋まで運んでいただけますか~?」
「な、なんで俺が!!」
「それが、男!というものですゆえ」
「くぅ」
俺は仕方なしにあかりを背負って、部屋まで連れて行った。
そして、じーーっと様子をみている。ただ寝ているだけだっツーのに。
「置いてすぐ戻ってくるなんてヤボな真似はするなよ」
っていう誠二の見送り言葉が鎖になっている。
コンコン・・・
「はあぁい」
「失礼しますね」
「琴実さん」
「様子はどうでしょうか?」
「どうも何も、ただ寝ているだけっすね。見ているだけで、正直暇っす」
「でも、目を覚ますまでは、居てあげてくださいね。」
「んえぇ~」
「まぁ、ほら!PSP持ってきましたから!これでなんとか・・・」
「ふぁい・・・。」
「では、失礼しました。」
――――――
「まさか、こんな超展開になるとはな」
誠治郎は一人、バルコニーの柵に手をついて、海を眺めている。
「誠二郎様」
「あぁ、琴実さん・・・」
「いくら夏とはいえ、ずっとここにいられては風邪を貰いますよ。」
「あぁ、ありがとう。でももう少しここにいる。」
「ふふ、そうですか?分かりました。では、私はキッチンにいますから、何かあればお声をかけてください」
「あぁ」
「ふぅ・・・休暇も良いが・・・早くメンバーだな・・・ベースはポシャったしな・・・」
ポロンポロン
「ん?この音・・・」
隣の別荘のバルコニーから聞こえてくる。綺麗なピアノの音色。
「お父様、分かりましたよ!もうちょっと夜風に当たってからもどる~」
「ん・・・あれは、あの子は・・・」
「もう少しで、私の曲が完成する・・・!昼間、あの洞窟で鍛えた成果が出てるかな」
ポロン、ポロロン
「洞窟?・・・あぁ、ふふ、恋のメロディか」
ポポロン。
うまいな、いい音だ。
「あの、君!」
「うわわわわわ!!!なに、だれ?!どこから?!」
「こっち、こっち」
「あ、あれ?あ・・・・・・貴方は!!!!菊の嬢さま!!!!!?どうしてここに!?アレ!?」
「君は、真知子・・・だったっけ?」
「は、はい、真知子です、幸子の方じゃありません!真知子です、は、はい」
「ちょっと、最初から今の曲、聞かせてもらえないかな?」
「い、今の曲・・・?今の・・・あ、あわわ、は、はいっまだ、完成してないですけどっ」
「構わないよ」
「はい、じゃ、じゃあ」
ポロンポポロンタラララン
(ま、まさか・・・私が菊の嬢様を想って作っていた曲を・・・こんなタイミングで・・・)
ポポリンタララン
「うむ」
(本人目の前にして、不完全な曲を・・・)
タラ・・・
「どうした?」
「いえ・・・ここまでしか出来てなくて・・・」
「そうか、いい曲だった、完成品が楽しみだよ」
(違うんだ、あなたにはもっとしっかり完成してから聞かせたいんだ)
「はい、また聞いてくださいね!」
「あぁ!」
「ところで、その!菊の嬢様・・・お一人で、この海に?」
「いや、ダチと一緒だ」
「お友達?もしかして・・・あの桃太郎とあの女の子ですか?」
「あぁ」
「そ、そうですかぁ」
「何だったら、こっちの家にちょっと遊びに来ないかい?いまちょっとカオス状態だけど。」
「え・・・わ、私何かがおじゃましていいのでしょうか・・・」
「え?別に構わないじゃないか?お互い休暇中なら楽しまないとな」
「・・・は、はい!!是非行かせていただきたいです!!じゃあお父様に言って、ちょっとお邪魔していいか聞・・・」
「どうした?」
「いえ・・・きっと許可おりないだろうなぁって」
「許可?なんでだ?」
「私は、言うなれば籠の鳥状態だし・・・お父様はずっと私を手の内に置いておきたいタイプだから・・・」
「はは、あかりと一緒だな。」
「じゃあ、許可なんか取らないで、そこからこっちに来なよ」
「え?!ええ!?それってどういう?」
「ジャンプしてこっちのベランダまで来なってことだよ」
「あの、下手したら死ぬんじゃ・・・だってそっちまで3メートル以上は・・・」
「大丈夫、俺を信じて」
(ドキ・・・そんな真剣な顔でそんなこと言われたら・・・もう私はどうかしてる)
「じゃあ、行きますからね」
「あぁ」
(とう!)
「来い!!」
とすっ!
(・・・・・・あれ?)
「飛べたね」
(私は、次の瞬間には菊之丞様の胸に抱かれていた。)
「と、飛べましたね、信じられない、どうして・・・この距離を・・・」
「言霊」
―――――――
「んぅ~・・・太郎殿・・・?」
「お、おう、目が覚めたか」
やべぇ、目が合わせらんねぇ・・・
「あぅっ!だ、だめじゃ、見ないでくだしゃれ!」
べ、別に見てねぇけど・・・もしかして、あかりは酔ってても記憶はバッチリ残るタイプか・・・?
「あ~その、なんだな、気分はもう大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃ・・・なんじゃ?ずっと付いていてくれていたのか?」
「あ、あぁ、まぁ寝ゲロとかされて、喉詰まらせて死なれても困るからな」
「・・・・・・水」
「え?」
「水が飲みたいのじゃ」
「あ、あぁ!わかった!今持ってくるからな!待ってろよ!」
バタン
「太郎殿・・・ダメじゃ、胸が締め付けられる・・・うぅ、ちょっと熱いのじゃ・・・ちょっと着替えを」
バタン!
「水!持ってきたぞ!!!」
「あ」
「え?」
生まれたままの姿、早乙女あかり、ここに見参。
「あぁ~水、ここに置いておきます」
「う、うむ、ありがとうなのじゃ」
バタム
なぜに、裸になってやがる・・・!!!!
あぁ~何なんだこのイベント盛りだくさんのお泊り会は!!
バタン
「太郎殿」
「う、うわ!はい!」
「ちょっと、夜風当たりにバルコニーに行きたいのじゃ」
「あ、あぁ、分かった」
バルコニー・・・誠二ともう一人・・・女が何か抱きついている図が見えた。
「飛べたね」
「飛べましたね・・・どうして、この距離を・・・」
「あーあかりさん、なにかお取り込み中のようで・・・黙って退散したほうが・・・」
「誠二郎殿は・・・あんなに堂々と・・・」
「あかりさん、聞こえてます?」
ふんぐ!!
俺はあかりに思い切り抱きつかれた。それも結構な力で。
「太郎殿・・・すまぬ、でも、どうしてもこうしたくなってしまうのじゃ・・・太郎殿、ワチキは、太郎殿を好いてるらしい」
「・・・・・・・・・あぁ」
「すまぬ、すまぬな・・・」
俺は、若干頭が混乱してしまい、それ以上は何も言えなかった。
「お、太郎にあかり、大丈夫だったか?」
誠二に気づかれて、声をかけられてしまった。
「あ・・・あぁ、見ての通りあかりは大丈夫そうで」
「あ!桃太郎!!!」
「んげ!お前は幸子&真知子!の・・・えと」
「真知子の方です!!!」
「そうだったか!え?!何でこんな所にいるんだ?」
「あぁ、丁度俺たちと同じ日程で、ここに遊びに来ているらしいんだ」
「そ、そうよ、何か文句ある!?」
「い、いや、別にそんなに凄まれるほど文句はありません」
「でだ、太郎、頼みがある、皆で、今からこの真知子とセッションしないか?」
「な、なに!?真知子、楽器なんかやってるのか!?」
「えぇ、そうよ?なに、やってちゃマズイ?」
「何やってんだ?」
「キ、キーボード・・・」
「ほぉぅ・・・アリだな、どんなもんか見てやらなくもない」
「なによ、その上から目線!」
「あかりはどうだ?真知子とやってみないか?」
「・・・・・・え?あ、あぁ、そうじゃな、別に構わん」
「じゃあ、真知子、この別荘にはセッションルームがあるから、そこに案内するよ。キーボードも確か置いてあるはずだ」
「は!はい!よろしくおねがいします!」
こうして俺達は、各々の楽器を手にセッションルームへと入っていった。
音響ブースには琴実さん・・・音量バランスなどをいじってくれるそうだ。
「じゃあ、何か?何をやるんだ?」
「え、えと、フェアリーのシリウスなんてどうかな?」
真知子が曲を提示してきた、俺もその曲は嫌いでもないし、レベルも高くない。
「分かった、じゃあ、それをやろう。」
「じゃ、はじめるぞよ?」
あかりが、カチカチカチカチと曲をはじめる。
因みにあかりはこの曲を何も知らないから、最初は聞いてるだけ、後から曲のメロディに合わせて、自分でドラムを叩いていく。
もちろん、ちゃんとした楽譜通りでは無いけど、しっかりとリズムが取れており、なお、曲の雰囲気に合っているようにたたける。
それがあかりのすごいところだ。
「あらあら、綺麗に鳴ってますねぇ~・・・でも、なんでしょうかこのオーラの傾き様は・・・あかり様からは桜様へ、真知子様からは誠二郎様
へ・・・それにあまり関係なく、前にオーラを出す、男性陣二人・・・バラついてますねぇ・・・。」
ダーン。
曲が終わった。
「っで、菊の嬢さま!どうでしたか?!私のキーボード!」
「あぁ、良かったと思う、バッチリ感情が伝わってきていて」
(えぇ誠二郎様にはそうだと思います・・・けど、この琴実には真知子さんの想いというものは伝わってきませんでした。)
「た、太郎殿、どうじゃった?初めてにしてはうまく叩けていたであろう?」
「あ、あぁ!ちっとも変だと思う所は無かったし、うまくなったよなぁ」
(えぇ確かにあかりさんはうまいです、とても・・・けど、この琴実にはそれ以上のモノは伝わってきませんでした。)
「琴実さん!どうだった?今の!!」
「えぇ・・・皆様とてもお上手です」
「おっしゃ、やったな誠二!」
「う~ん・・・ダメだよ桜・・・あれは琴実さんの最低評価の言葉だ・・・」
「なに!?あんなに綺麗にみんなの音が出ていたのに」
「それなんだ・・・前にも言ったが・・・いい音が出てるだけじゃそんなの誰でも出来る・・・想いをもっとオーディエンスに聞かせなくては」
「むぅ・・・」
「えぇ・・・私、琴実は、あの洞窟で聞いたような、あの様な音を聞きたいです、桜様。」
「あ、あぁ・・・負けちまったけど・・・確かにあの時とは力の入れようが段違いだったな・・・」
「え?ど、洞窟!?」
「ん?どうした、真知子」
「洞窟って・・・昼間?」
「あぁ、あの洞窟で誰かとセッションして、オーラで水を押しあったけど、楽しかったなぁ」
「ま、まさか!あの相手が桃太郎!?」
「あ?どうしたんだよさっきから・・・・・・って、まさか・・・」
「昼間、私も洞窟にいて・・・」
「げぇ!もしかして、洞窟の反対側にいて、水を押しあったのっておまえかぁぁぁぁ!」
「えぇぇ!?桃太郎だったの!?すっごい押しの弱い音だったわよ!」
「なんだとぉ!!!?」
「さっきから何を二人で言っておるんじゃ・・・」
「あかり!なんでもいい!曲をスタートさせてくれ!真知子だけには負けたくねぇ!!!!」
「お、おおう?!」
「あかりさんとやら、早く始めて頂戴」
「あ、あい分かった・・・!」
カチカチカチカチ
「負けられないんだからね!」
「お前は昼間俺に勝っただろ!」
「あら、そうでしたわ、オホホホホ」
「なんて腹立つ真知子!俺のオーラで吹っ飛ばしてやる!」
(そうですねぇ~この競争心から生まれる音も、またいい物なんですよねぇ~、皆が皆、実力を認め合って曲を奏でるのもいいですけど、
それ止まりですもんねぇ~。それよりは競争し合ってた方が断然迫力が違いますから。ふふふ、)
「おい!キーボード!余計なフレーズたしてんじゃねぇよ!!!」
「あぁ!?桃太郎こそ、ちょっと音遅れてるじゃないのよ!!!」