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7:知らぬ親心

 綾は、背を上下するタワシの感触に目を細めながら、

「…モリビト、とは国を守る人の事ですか?」

 気になった単語を問う。

「ああ、そうだよ。リョウの国にはいないのかい?」

 綾は返事に窮した。

(守人とは、自衛隊のようなものだろうか…?)

 どう答えればいいものやら悩んでいたが、

「守人は文字通り、守る人だ。守人には、その国の人や流浪の人が雇われるんだけど、よっぽど腕っ節が強くないと無理だね」

 どうやら答えなくても大丈夫な様子。

「命の懸かった危ない仕事だけど、遣り甲斐はあるだろうね。あたしにも力があれば、選んでいたと思う。自分の力で、誰かを守る事ができるんだから」

 タミヤはコクリと頷き、微笑ましそうに続けた。

「子供たちの憧れの的でね。みんな口を揃えて、将来の夢は守人になる事って言うんだよ。特に男の子がね…親の立場からすると、心配で心配で堪らないんだけどね」

 ふふふ、と、苦笑する。

 タミヤの言葉からして、タミヤとラカスの子も守人なのだろう…と、予想がついた。

 案の定、タミヤは予想を確実なものにする。

「あたし達の息子はね、西の門を守ってるんだ。滅多に帰ってこないから、心配だよ…」

 痛ましい、けれど信頼の籠もった声音だ。

 綾は、そんな心配をされたことがなかった。それよりも、綾がいなくなってしまうことを望んでいる。綾の両親は、綾が雪崩に呑まれ、しかも知らぬ世界へ迷い込み、嬉々としているに違いない。

「無事に帰ってきてくれりゃいいんだけどね…綾のご両親も、きっと心配しているだろうね」

 綾の唇が、嘲るように歪んだ。それは、髪の毛に隠れてしまって、タミヤの目には届かない。

(心配しているはずがない。むしろ喜んでいるだろう…二人、今度こそ幸せに暮らせると…)

 いま思っている事を口にすれば、タミヤは傷つくだろう。

 綾は、そうはしたくないと思ったので、黙っていた。

(何故だ? 住む世界も違う…まったく関係のないこの女を、傷つけたくないと思うのか…?)

 答えは、出せない。しかし、悪い気分ではなかった。

(ここでは、私の存在を認めてくれるのか…)

 本当の世界では、誰もが綾の存在を疎むのに…

(…だが、私の力を知れば、怖れるであろうな…)

 軽く首を振り、思考に沈む頭を持ち上げた。

「リョウ、故郷に帰るまで、ゆっくりしてていいからね」

 優しい言葉を注ぎ、タミヤはしばらく黙して綾の背を擦る。

「さぁて」

 木桶で汲んだお湯で、汚れを流した。赤黒い泡が、足元をすり抜けていく。

「よし、綺麗になったよ」

「ありがとうございます」

 綾は丁寧に頭を下げた。

「少しかるといいよ。疲れがとれる。服も、そこに置いてあるから」

 カーテンの方を指差し、タミヤは浴室を後にする。

 タミヤの退出後、緩慢な動作で湯船に浸かる。

 ふぅ、と、吐息する。

「…気持良い」

 両膝を抱え、浴槽に凭れた。

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