表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

5:初めての惑い

 巨大な門をくぐると、そこは背の高い壁に守られた国だった。

 そこかしこに活気が溢れていて、綾を尻込みさせる。

「レスターさんに玉幽さん!」

 朗らかな男の声に、呼ばれた二人が反応を返した。

 門の側にある詰め所から、四十代後半の男が出てくる。感じの良さそうな顔をしていた。

「無事で何よりです。それで、どうでした?」

「酉を一体、落としましたよ」

 白金の髪の男──レスターが、にこやかに答える。

「そうですか…近頃は、本当に、魔物がよく出没するようになってしまい、他の国へ行くのが至難の業…」

「俺は平気だった」

「レスター!」

 新緑髪の男──玉幽が、無神経なレスターの台詞を低くたしなめた。

「ははは。気にしないで下さい、玉幽さん。心強いじゃないですか」

 男は肩を揺らして笑ったが、すぐに表情を改める。

「しかし、魔物などというものが出始めたのは十七年程前…突然現れ、人を、国を襲い、そして今、数が増してきています。どうしたものでしょう…」

「どうにもならないサ。原因を突き止めない限り…」

 レスターは唇を半月に歪めた。しかし、紫水晶の瞳は微かも笑っていない。

「…そのために、守人がいる」

 暗くなった場を、玉幽が執り成す。

「そうですね。頼りにしていますよ」

 と、ここで男が、二人の後ろにいる綾に気付いた。

「おや、そちらの娘さんは…?」

「魔物に襲われたようだね」

「え!? それは、よく無事で!」

 男は目を丸くして驚き、綾に微笑みかける。綾は戸惑った。

「怪我もないようで、この方達に発見されてよかったですね」

 何の関わりもない男に心の底から無事を喜ばれ、綾はどう反応を返せばいいのか判らない。

「ラカスさん。この娘をお願いできますか?」

 レスターの言葉に、ラカスという男は大きく頷いた。

「それは、もちろん!

 では、ここを任せてもいいですか? 家に連れて行きます」

「お願いしま〜す♪」

 何故か、レスターはウキウキしている。それが、綾の気に障った。



 血塗れの綾を、人々が好奇の目で注目する。綾は居心地が悪かった。

「やぁ、ラカスさん! その娘は誰だい?」

 知りたくてウズウズした表情で、中年男が挨拶がてらに声をかける。

「やぁ。東の守人に助けられた娘ですよ」

「東のと言えば…あの若い二人かい?」

「そうです」

「さすが、若いのによく…よかったな、嬢ちゃん!」

 会話を聞いていた人々が、若い守人たちを称え、綾の身の上の幸運を羨んだ。

 綾は顔を伏せ、歓声から逃れるように耳を塞ぐ。

(五月蠅い…皆、私を知らないから、そんな顔ができるんだ…!)

「さあ、もうそこだ」

 ラカスは綾の背を促し、案内した。

 並ぶ石造りの家。その内のひとつ、白い石の家の前で止まった。木製の扉を引き、室内へ。

「あら、ラカス。その娘はどちらさん?」

 丸い体型の、ラカスと同い年くらいであろう女性が、腕一杯に衣類を抱えて出迎えた。

「この娘は、レスターさんと玉幽さんに助けられたんだ。魔物に襲われたらしい」

「まあ!」

 女性は目を丸くし、コクコク頷く。

「そうかい、そうかい…大変だったね。名は何と言うんだい? あたしはタミヤだよ」

 ニコリと、破顔一笑。心を和ませてくれる笑顔だ。

「荒井綾、です」

 タミヤの優しい雰囲気から、素直に姓名を答えてしまったが、ここは知らない場所。言葉は通じているようだが、どういう文字を用いているのだろうか。

「アライリョウ?」

 やはり、日本名が聞き慣れないのだろうか、綾の名を繰り返したタミヤのイントネーションが少しおかしい。

「綾、と呼んでください」

「リョウ、良い響きだね!」

 タミヤは心得たとばかりに、また破顔する。

 面と向かって人と接したことのない綾は、名を褒められ、心が浮くことに戸惑った。

「それじゃ、タミヤ、この娘の世話を頼むよ。私は仕事に戻るから」

「はいよ。リョウのことは任せときな」

 タミヤが頼もしく頷くので、ラカスはそんな妻に柔らかく微笑み返す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ