1:異形の子
それは、とても幼い頃の記憶。
言葉を遣えず、泣いて知らせるしかない無力な私。
世界は、判然と私に流れてくる。
『──…ねぇ、この子…私たちの言ってるコトが判ってるんじゃない?』
母の声…どこか、怯えを感じる声音だ。
『なに言ってるんだ。生まれて二か月の赤ん坊だぞ?』
父の声は、呆れた溜息に混じる。
『でも…でも、時々……赤ちゃんらしくないって言うか…本当に…』
『智鶴。俺たちは、その子の親だ。親がどうして、我が子を普通じゃないなんて言えるんだ』
『でも…』
『母親がしっかりしないで、どうする? 大丈夫だ』
『え、ええ…』
母の声は、納得しきれていなかった。
『……お腹を痛めて産んだからこそ、判るのよ…』
父には聞こえないように、小さく小さく零す母。
視界を開くと、母がすぐ側にいて、柵の中の私を窺っている。
私がじぃっと見返していると、母の表情はだんだんと曇り、恐怖に強張っていった。
──やっぱり…!
母の口が、そう動いたのを憶えている。
母はずっと私を怖れ、父は私を相手にしない。まるで、私が存在していないかのように、目を逸らしている。
私は、普通ではない。
異形の者。
ならば、誰も私に関わるな。
そっとしておいてくれ……
──ゥア゛ァアァァァー!!
頭に響く、五月蠅い泣き声。
私とパートナーを組んだ男の子が泣いている。
…五月蠅い、男のくせに!
幼稚園のお遊戯で、発表会の練習をしていたんだ。
…耳障りだ!
何が気に入らないのか、男の子は泣き続けた。
『ギャアアアァァ──!!』
男の子の泣き声は、悲鳴になる。
…黙れ!
周囲の子たちが、悲鳴に戦いていた。
『綾ちゃん! 手を離しなさい!!』
先生が、男の子から私を引き剥がす。
『ちょっと待って…変だわ。手首が、折れてるかもしれない…!』
『早く病院へ! 保護者に連絡をして下さい!』
慌ただしくなった室内。
『綾ちゃんを別の部屋へ…』
『はい。さぁ…』
先生に促され、私は皆との間に完全な壁を作った。
周囲の目は、畏怖に色付く。
時が流れても、色は変わらない。
皆が私を怖れる。