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声━ONCE UPON A TIME  作者: 室町弥生
出会い編
1/3

面影

 Recall(思い出せ)

 何故こんな状況になっている。


 Recall(思い出せ)

 俺は普通に歩いていただけだ。


 Recall(思い出せ)

 徐々に頭の中に風景(ビジョン)が浮かんでくる。確か病院の前。


 Recall(思い出せ)

 あれはだいたい15分前のこと……



 日課である妹のお見舞いを終えた帰り道。彼女は今日も優しい寝息をたてながら眠り続けていた。

 8年と3ヶ月と12日。それは彼女が眠りについてからの日数。

 いつの間にか、その小さな胸は膨らみ始め、その白い顔は大人の女性に近づき始めていた。

 しかし、身体がどんなに成長しようとも、彼女の2つの瞳を見れることはなかった。

「…………茜……」

 俺はかすかに彼女の名前を呼びながら、まっすぐな黒髪をそっと撫でる。すると、彼女は気持ちよさそうな声を出す。幻聴かもしれないその声は、俺を少し幸せにする。


 病室を出て、階段を下った。病院の階段に住む妙な恐怖に追われるままに、俺は外へと出る。

 

 グレーの空を眺め、ひとり天気予報をしていた、ちょうどその時。

 『……ちゃん……たす……て……』

 どことなく聴こえてくるその声に引き寄せられ、一歩また一歩と自然に足が出る。

 


 そして、気が付いたら、ここにいた。


 澄み切った青い空。地平線がはっきりと現れている。どうやら俺は他の場所に飛ばされたらしい


 一体ここはどこなのだろうか。

 まぁ、とりあえずそんなことはどうでもいい。二の次だ。

 それよりも……


 (なんで俺は鬼に追われているんですか!)

 後ろから迫りくるのは、無数の鬼。

 赤鬼、青鬼、黄鬼。あーなんてカラフルで綺麗なんだー……って

 「何故だ! 何故なんだ!」

 「ごらぁぁぁ! 待ちやがれ!」

 「ぎゃあああああああ!」

 自分でも驚くほどの大声を出しながら、なにもない一本道をひたすら逃げ惑う。

 「ちくしょう。俺が一体何をしたっていうんですか!」

 いくら叫んだところで逃げ場は現れないし、鬼は止まらない。とにかく真っ直ぐに走る。足に上手く力が伝わらない。普段からしっかり運動をしておけばよかったと、つくづく思う。

 だんだん足の神経に意識が回らなくなってくる。

 「しまっ……」

 足に激痛が走り、急速に顔と地面が接近する。

 終わった。鬼はすでに目前まで迫ってきている。俺は静かに目を閉じた。


 ……あれ?生きてる?

 手が、足が、口がしっかりと動く。

 咄嗟に俺は目を開いた。


 「目を開けるな!」

 「へ……?」

 誰かが俺を鬼からかばうように立っている。それは幼い少女のように見えた。

 俺は彼女に言われるがままに、再び目を閉じる。


 目を閉じた瞬間、無数の悲鳴が聞こえた。そして、すぐに静かになる。

 しばらくして、鬼のかすれた声が耳に届く。

 「その黒髪に刀……貴様、鬼殺しの帝王(デーモンキラー)……桃太郎か……?」

 「さて、何のことでしょうか?」

 再びの断末魔と共に辺りは静寂に包まれる。

 

 「もう開いていいぞ」

 静けさの中に少女の声がこだます。

 恐る恐る目を開くと、そこには無数の鬼の死体と、血まみれの日本刀を手にした少女が立っていた。

 

 俺は彼女を見つめたまま言葉を失い、立ち尽くす。

 凛とした彼女の顔には、何故か茜の面影があった。

 「伊波陸。貴様をわたしの仲間にしてやる」

 少女の気高い声は俺の耳に響いた。しかし、心まで響かない。俺の心は虚ろな気分に支配されている。

 俺は俺自身も気付かないまま、静かに頷いていた。

 

 


 

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