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にこにこおじいちゃんせんせい

 ある小高い丘のうえに小さな小学校がありました。


 生徒のかずはみんなで百人。元気いっぱいのこどもたちです。


 この学校にはひとりの年寄り先生がいました。みんなは彼を“おじいちゃんせんせい”と呼びます。おじいちゃんせんせいは白い口ひげをたくわえています。いつものりのきいた洗いたてのシャツを着ています。こしは少し曲がっていますが、しっかり歩きます。


 そして、おじいちゃんせんせいは今日もにこにこ笑顔です。


 * * *


 ある日、こどもたちは図画工作のお勉強をしていました。


 この日の課題は“おかあさん”の絵を描くことです。もうすぐ、母の日がくるのでそのプレゼントづくりをしているのです。


 みんな、楽しそうに絵をかくなかで、おじいちゃんせんせいはひとりだけ悲しそうに顔をふせる女の子を見つけました。その子の名まえはひろみちゃんです。ひろみちゃんはおかあさんのことが大すきです。


 「ひろみちゃん、どうしたんだい?」


 「おかあさんの絵、まちがえちゃった…」


 そのひろみちゃんの絵はたしかに、少しだけ、失敗したあとがありました。赤いクレヨンでお口をかこうとしたのでしょう。それがほんのちょっとだけ、びっ、とはみでていました。


 しかし、おじいちゃんせんせいはその絵が失敗しているなんて少しも思いませんでした。ひろみちゃんが一生けんめいがんばって取り組んでいたことを知っていました。


 「どこもおかしくないよ。よくかけているよ」


 「ちがうの。まちがったの。かきなおさなきゃ…」


 ひろみちゃんは新しい画用紙をとりだしました。でも、おじいちゃんせんせいはひろみちゃんの絵を見て、ふむふむ、とうなずきます。


 「どれ、おじいちゃんせんせいにまかせなさい」


 おじいちゃんせんせいはひろみちゃんにアドバイスをします。


 「この絵のおかあさんは上品に笑っているね。だからもっと大きな笑いかたにすれば、まちがいも気にならないよ」


 ひろみちゃんはためしに大きく笑うおかあさんをかいてみました。


 「でもこれじゃあ、へんだよ」


 たしかに大きく笑う口をかくと、まちがいのあとは消えました。しかし、こんどは口だけが大きくなりすぎてバランスがおかしい。


 「なら、目も大きくかいてごらん」


 「おめめも?」


 ひろみちゃんは大きな口にあわせるように、大きな目をかきました。


 「おはなは?」


 「おはなも大きくかいてごらん」


 「耳は?」


 「耳も大きくかいてごらん」


 ひろみちゃんはだんだん楽しくなってきました。画用紙に大きな口と、目と、はなと、耳のおかあさんがかかれていきます。


 「できた!ありがとう、おじいちゃんせんせい!」


 完成した絵はとてもすばらしいできあがりでした。大きな大きな笑顔のおかあさんの絵は、ちょっとへんだけど、それでもクラスいちばんのできあがりになりました。


 * * *


 ある日、おじいちゃんせんせいのクラスでは宿題がでました。


 こどもたちは次の日、やってきた宿題をおじいちゃんせんせいに出しました。


 でも、たかしくんは宿題をやってこなかったのです。


 「おじいちゃんせんせい、ごめんなさい」


 「ふむふむ、どうして宿題をしなかったのかね?」


 おじいちゃんせんせいはたかしくんを怒りませんでした。いつもの笑顔でやさしく話しかけます。


 「だって、宿題ってめんどうなんだもの。宿題するよりともだちとあそんだほうが楽しいよ。せんせい、どうしてぼくはお勉強しなくちゃならないの?」


 うーん、とかんがえこむおじいちゃんせんせい。これはむずかしい質問です。おじいちゃんせんせいは机のなかから一まいの紙を取り出しました。


 「たかしくんはアリさんを知っているかい?」


 「うん、知ってるよ」


 「アリさんはね、人間とおんなじなんだよ」


 「えー?」


 たかしくんはおじいちゃんせんせいの言葉の意味がわかりません。おじいちゃんせんせいは紙にアリさんをかいていきます。


 「アリさんは地面の下にとても大きな巣をつくるんだ。たくさんの部屋があるんだよ。たべものを入れておく部屋、あかちゃんをそだてる部屋、ジョウオウアリの部屋…」


 おじいちゃんせんせいは紙にアリの巣をかきます。そこにはさまざまな役わりのある部屋がたくさんありました。


 「ねえねえ、おふろの部屋はないの?」


 「ほっほっほ、あるかもしれないね」


 「台所もあるよ、きっと。えんぴつ貸して!」


 たかしくんはおじいちゃんせんせいといっしょにすてきなアリの巣をかきました。そこにはおトイレとか、せんたく場とか、家族でくつろぐ部屋もありました。


 「アリさんってすごいね。こんなりっぱなおうちをもっているなんて、うらやましいなあ」


 「そうだね、でも、たかしくん。あのちっちゃなアリさんがこんなにすごいおうちをどうやってつくると思う?」


 そう言われるとたしかに不思議です。あのツメの先ほどしかない小さなアリがいったいどうやってこんなに大きなおうちをつくるのでしょう。こんどはたかしくんが、うーん、とかんがえこむ番です。


 「……わかんないや。アリさんじゃあ、どんなにがんばったってできっこないよ」


 「それができてしまうんだな。アリさんはね、家族がものすごくたくさんいるんだ。だから、一匹だとほんの少しのことしかできないけれど、みんなが集まればこんなにすごいおうちだってつくれてしまうんだ」


 きっと一匹のアリさんが一生のうちにできることなんてたいしたことではないでしょう。そのアリさんは自分が何をしているのかさえ、わかっていないかもしれません。ですが、そのほんの少しのがんばりが集まって、大きなことをなしとげることができるのです。


 「たかしくんはどうしてお勉強をしなくてはならないのかわからないと言ったけど、それがわからないのもしかたがない。アリさんの巣もこうやって完成したものと、それをつくりあげるまでにかかったアリさん一匹一匹の苦労はぜんぜん関係のないもののように思えてしまうからね。でもね、たかしくん。ほんとうに大切なのは現にりっぱなおうちをつくりあげたアリさん一匹一匹の力なんだよ。それがないと、なにもはじまらないんだ」


 おじいちゃんせんせいの言うことは少しむずかしいけれど、たかしくんはなんとなくその意味がわかった気がしました。今はまだ、がんばりの理由がわからなくても、これからずっとさき、その苦労が大きな“巣”をつくりあげていたことに気づくことでしょう。


 「でも、ぼくはアリさんみたいにはたらき者にはなれないなあ」


 「おやおや、アリさんだっていつもいつもはたらき者というわけではないよ。せっせと体を動かしているように見えるけれど、たくさんのアリさんがずる休みをしているんだよ」


 「なんだい、それじゃあ宿題をさぼったぼくと同じじゃないか」


 「そうだね。でもずっと休んでいるわけではないよ。どんながんばり屋さんだってはたらきづめではつかれてしまう。だから、休み休みでいいんだ。毎日、少しづつ少しづつ、がんばっていけばいいんだよ」


 それから、たかしくんは以前より少しだけ、お勉強をがんばるようになりました。でも、その“少し”は彼にとって大きな“少し”となることでしょう。


 * * *


 ある日、こどもたちはお弁当をたべていました。


 おじいちゃんせんせいもこどもたちといっしょにお弁当をたべます。


 お弁当の時間になると、みんなは仲よしグループで班をつくります。いつもおじいちゃんせんせいがどこの班に入るかでもめます。


 楽しいお弁当の時間が終わるとつぎは待ちに待ったお昼休みです。なので、こどもたちはいそいでごはんをたべます。とくに男の子はたべるのがはやい。みんなはやく校庭にいってあそびたいのです。


 ところが、いちろうくんはごはんをたべるのがおそい。いちろうくんもはやくたべおわってあそびにいきたいのですが、どうしてもみんなのように、はやくたべることができません。


 いちろうくんはいつもひとりだけ、教室にのこっていました。


 「やあやあ、いちろうくん。せんせいと二人だけになってしまったね」


 いちろうくんがさびしそうにしていると、その席のとなりにおじいちゃんせんせいがやってきました。おじいちゃんせんせいは年寄りなので、ごはんをたべるのがそんなにはやくないのです。


 「おじいちゃんせんせい、どうしたらはやくごはんがたべられるようになる?」


 「いちろうくんがたべるのがおそいのは、すききらいがあるからではないかな?」


 そうなのです。じつは理由がありました。いちろうくんはすききらいが多いのです。とくにニンジンとピーマンは大の苦手です。


 だというのに、いちろうくんのおかあさんはお弁当によく野菜をいれます。しかもそれをのこしてくると、とても怒るのです。


 いちろうくんはきらいな野菜をお茶といっしょに飲みこみます。だから、たべおわるのがおそくなってしまうのです。おじいちゃんせんせいはそのことを知っていました。しかし、おじいちゃんせんせいはいちろうくんをしかることはありませんでした。


 「ニンジンもピーマンもほんとうはたべたくないよ」


 「ふむふむ、ならいちろうくんがきらいな野菜をせんせいがたべてあげよう。せんせいはニンジンもピーマンも大すきなんだ」


 この提案にいちろうくんは大賛成です。すぐにお弁当のニンジンとピーマンがはいった野菜炒めをこっそりおじいちゃんせんせいにあげました。


 「ではいただきます。もぐもぐもぐ……うん!これはおいしい!おいしいなあ」


 おじいちゃんせんせいはにこにこ笑顔で、それはそれはおいしそうに野菜炒めをたべます。いちろうくんはそれが信じられません。


 「せんせいもいちろうくんくらいのときは、すききらいが多かった。でもね、おとなになると、たべられるようになるんだよ」


 「へーえ、不思議だね」


 おじいちゃんせんせいがあんまりにもおいしそうにたべるものだから、いちろうくんはいつかは野菜をおいしくたべられるようになろうと思いました。ただ、今はまだ進んでたべられそうにはありません。


 いちろうくんとおじいちゃんせんせいは、それから昼休みは毎日のようにいっしょにごはんをたべるようになりました。これでいちろうくんもさびしくありません。ごはんをたべきる時間はだんだん短くなりました。


 * * *


 ある日、おじいちゃんせんせいのところによしこちゃんが相談にきました。


 「おじいちゃんせんせい、あのね…」


 よしこちゃんはなかなかお話できません。おじいちゃんせんせいはいつもの笑顔でよしこちゃんが落ち着くまで待ちました。よしこちゃんはうまく話せませんでしたが、おじいちゃんせんせいはなんとなく相談の内容がわかりました。


 「ふうむ、つまり恋のなやみというわけだね?」


 よしこちゃんは顔を赤くしてうなずきました。どうやら、クラスメイトのけんじくんのことをすきになったようです。しかし、よしこちゃんはどうしてもその思いをけんじくんに伝えることができません。


 おじいちゃんせんせいはけして茶化したりせず、笑顔だけれども、いつもより真剣な笑顔で考えます。


 「では、手紙を書いてみるのはどうだろう?」


 よしこちゃんもその考えは思いついていました。しかし、かんじんの手紙の書き方がわからないのです。


 「せんせい、どうすればいいの?」


 「うーん…」


 おじいちゃんせんせいはこまりました。じつは、おじいちゃんせんせいもそういった手紙を書いたことがないのです。


 「ごめんよ、よしこちゃん。せんせいにもわからないよ」


 「せんせいにもわからないことがあるの?」


 「あるとも。年をとってもわからないことはたくさんあるんだよ」


 その返事をきいて、よしこちゃんはますます落ちこみました。でも、おじいちゃんせんせいも相談されてはほうっておくことはできません。


 「よし、わからないのならそのすじの“せんもんか”にきくのがいちばんだ。なんでもひとりで考えこんでしまうと、頭のなかでいろんなことぐちゃぐちゃになってわからなくなってしまう。そんなときは、意地になってひとりで解決しようとしてもうまくいかないものさ。でも、ほかの人にうち明けてみると、ぜんぜんたいしたことなかったりする。そのときは大もんだいのように思えても、後になってふりかえってみると、なんでもないことのように感じる」


 「ほんとに?」


 「もちろんだとも。だから、よしこちゃんがこうやってせんせいになやみをうち明けたことはすごいことなんだよ」


 そう言って、おじいちゃんせんせいはよしこちゃんをほけん室につれていきました。ほけん室には、ほけんのせんせいがいます。ほけんのせんせいはおじいちゃんせんせいほど年寄りではない、おばちゃんせんせいです。しかし、少なくともおじいちゃんせんせいより恋のなやみについてはくわしそうです。


 「まあ、ラブレターの書き方をおしえてくださいですって?そんなもの、ふかく考えなくてもいいの。自分が思ったことをそのまま素直に書けばいいのよ」


 それは、なんともあっさりした答えでした。なるほどたしかにそのとおりです。おじいちゃんせんせいはむずかしく考えすぎていたのかもしれません。ほんとうに伝えたいことはことばでかざらなくても十分、すてきに伝えることができるはずです。


 「でも、なんて書けばいいのか思いつかない…」


 「そういうときは、まずペンをもってみなさい。そして、紙と向いあいなさい。すると、なにも思いつかなくても自然に手がうごくものなの。なんどでも書きなおしていいわ。頭でごちゃごちゃ考えなくてもいいのよ。どうしてもしんぱいなら、せんせいに見せにきなさい。おかしくないか見てあげるわ」


 ほけんのせんせいが言ったことは、ひょうしぬけするくらいかんたんなことでした。でも、ひとりで考えこんでいたのなら、その答えを見つけることはもっと大変だったでしょう。


 なにも考えずにありのままの思いを伝えること、それでもたくさんなやむこと。恋愛ってむずかしい。おじいちゃんせんせいはもの知りだけど、まだまだ勉強することがあるようです。


 よしこちゃんは、ほけんのせんせいの言うとおり、ラブレターを書くことができました。さてさて、けんじくんに思いは伝わったのでしょうか?


 * * *


 ある日、こどもたちは学校のそうじをしていました。


 みんな、まじめに取り組みますが、なかにはそうでないこどもたちもいます。


 その日も何人かの生徒がそうじをサボってあそんでいました。


 「こら!なにをしているんだ!」


 それを注意したのはわかい男のせんせいです。彼はあたらしくせんせいとして丘のうえの小学校にきた人で、とてもはきはきした気性をしていて、こどもたちの間では“おこりんぼせんせい”とよばれています。


 おこりんぼせんせいはこどもたちをつかまえてお説教しました。こどもたちはこのせんせいのことをおそろしがっていましたから、緊張でがちがちです。すぐにあやまってにげだすように、おじいちゃんせんせいのところにいきます。


 「まあまあ、そうおこらずに。これでこの子たちもそうじをするようになるでしょう」


 「しかし、そうは言ってもですね。わるいことはわるいことと、しっかりおしえなければならないのです」


 おこりんぼせんせいはこどもたちのしつけに熱心なせんせいでした。こどもたちをきちんとしたおとなにするために、心をオニにしてお説教をします。それが彼のせんせいとしてのめざすべき目標でした。


 だからでしょうか、おこりんぼせんせいはおじいちゃんせんせいのことをあまりよく思っていませんでした。たしかにおじいちゃんせんせいは、いいせんせいです。でも、いくらなんでもこどもをあまやかしすぎです。なんだか生徒にたいしてこびへつらって、人気とりをしているように見えました。


 おこりんぼせんせいには信念がありました。けれど、こどもたちはやさしいおじいちゃんせんせいのまわりにばかり集まります。上級生だと、おこりんぼせんせいの言うことをきかない子も、おじいちゃんせんせいの言うことにはしたがいます。下級生はおこっていないときも、緊張してよそよそしいふんいきです。


 それに、近ごろはこどもたちのおかあさん、おとうさんからもあまりいい評判をされていないのがわかります。べつに、ほめられたくてせんせいになったのではありません。しかしそれでもおこりんぼせんせいは、つかれを感じずにはいられませんでした。


 「なんだか、おつかれのごようすですね」


 おじいちゃんせんせいはいつものにこにこ笑顔でおこりんぼせんせいを気づかいます。


 おこりんぼせんせいは思い切っておじいちゃんせんせいに相談してみようと思いました。


 「わたしはこどもたちの将来のことをいちばんに考えています。だから、いけないことをすればきびしくもする。その考えはまちがっていないと思うのです。なのに、最近はほんとうにそれでいいのか疑問に思ってしまうのです。少々のわるいことは見のがして、生徒たちのごきげんうかがいのような楽な仕事をしてしまえ、と」


 おこりんぼせんせいは自分のことを相談するついでに、おじいちゃんせんせいのあまさを取り上げて注意する気がありました。きっと、この相談にはおじいちゃんせんせいは答えられないと思ったのです。


 おじいちゃんせんせいは、ほほう、と声をあげて答えました。


 「あなたの信念にまちがいはない。せんせいは高いこころざしをもっていらっしゃる。どんな子にたいしてもまっすぐに向かいあうということは、だれにでもできることではありません」


 ただ、とおじいちゃんせんせいは付けくわえます。


 「その信念とは逆の考え方があります。せんせいは今、そのふたつの考え方の間でゆれていらっしゃるのでしょう。仕事をするということは、いつもそうです。理想と現実はちがいます」


 「せんせいの言いたいことはわかります。しかし、現実に理想をあわせることは自分の信念に反するのです」


 「ごもっとも。だから、わたしはね。あるとっておきの方法を知っています。それはわたしが長年、教師をやってきたことのすべてといってもいい。それをせんせいにお教えしましょう」


 はたして、そんな方法があるのでしょうか。おこりんぼせんせいは聞きのがすまいと耳をすましました。


 「それは、笑うことです」


 「え?それだけですか?」


 「はい、それだけです。ためしに次の授業のときに、笑ってみてはくれませんか?」


 おじいちゃんせんせいはにこにこ笑顔で答えました。


 半信半疑のおこりんぼせんせいは、とにかく次の授業でためしてみることにします。


 休み時間がおわって、授業がはじまると、おこりんぼせんせいはさっそく笑おうとしてみました。


 しかし、うまくいきません。どうしても顔がひきつってしまいます。そもそも、おかしいことがひとつもないのに、とつぜん笑い出すのはへんです。授業はまじめにのぞむものです。そこで意味もなく笑うことはふきんしんではないでしょうか。


 けっきょく、おこりんぼせんせいは一度も笑うことができませんでした。


 「どうです?むずかしかったでしょう?」


 しょくいん室にかえってきたおこりんぼせんせいに、おじいちゃんせんせいはききました。


 「むずかしいとか、そういう問題ではありません。なぜ、おかしくもないのに笑わなければならないのですか?」


 おこりんぼせんせいは、むきになってきき返しました。


 「おかしいときや、楽しいときに笑うのは当たり前です。でもね、それ以外のときもずっと笑い続けるということは、とてもむずかしい。自分が考えていることとがうまくいかないときが、仕事をしていればかならずあります。人はだれでも自分がどうありたいか考えているのです。そしてそれがうまくいかないときが、いちばんつらい」


 おじいちゃんせんせいはそのとき、むかしをなつかしむような笑顔をしていました。


 「たとえばね、おもい病気にかかってあと少ししか生きられないと言われたら、せんせいはそのとき笑っていられますか?」


 おこりんぼせんせいは答えられませんでした。きっと、笑ってなどいられないでしょう。


 「わたしはいつも笑っているということは、能天気な人だとは思いません。ほんとうに強い人にしかできないことだと思うのです。だから、これはかんたんなように見えて、すごくむずかしいことなのです。にげだしたくなるような、つらいことがあっても、笑っていれば強くなるように思うのです」


 おこりんぼせんせいは次の授業で、無理やりでもいいから笑ってみることにしました。でも、うまくいかずにへんな笑い方になりました。こどもたちはそんなおこりんぼせんせいを見て、目を丸くしました。


 それから、しばらくしておこりんぼせんせいは“がっはっはせんせい”とよばれるようになりました。


 * * *


 ある日、おじいちゃんせんせいのクラスの教室で休み時間に、こうきくんがみんなにあるものを見せて、じまんしていました。


 「いいなあ、おれもほしいなあ」


 こうきくんはオモチャのカードを学校にもってきていたのです。みのるくんは、それをうらやましそうに見ています。丘のうえの小学校では、このカードが男の子たちの間でもっぱらのブームなのです。それは、学校の近所の駄菓子屋さんに1ふくろ5まい入りで売られていて、たくさんの種類があります。こうきくんがもっているカードは、なかなか手にはいらないレアカードでした。


 しかし、そこにおじいちゃんせんせいがやってきました。


 「こらこら、学校にオモチャをもってきてはいけないよ」


 「はーい」


 こうきくんは注意されましたが、ちっとも気にしません。おじいちゃんせんせいはいつもにこにこ笑顔なので、おこられてもこわくないのです。オモチャをもってきていることがばれても、とりあげられることはありません。そのときだけはおとなしくしまっておいて、あとでまた、みんなにみせびらかすつもりでした。


 ところが、放課後のことです。なんと、大事にしていたカードがなくなってしまったのです。


 こうきくんはあわててさがしました。しかし、どこにもありません。ともだちに協力をもとめましたが、相手にされませんでした。学校にもってきてはいけないものをもってきた、こうきくんがわるいのですから、それも当然です。何人かの親しいともだちは手伝ってくれましたが、それでも見つかることはありませんでした。


 「おじいちゃんせんせい!」


 いよいよ日が暮れて、あたりが暗くなってくると、手伝ってくれたともだちもかえっていきました。こうきくんは半ベソをかきながら、おじいちゃんせんせいのところにきました。


 でも、こうきくんも自分がわるいことはわかっていたので、いくらおじいちゃんせんせいでも今回は助けてくれないだろうと思っていました。


 しかし、やっとのことで手にいれたレアカードをどうしてもあきらめることができなかったのです。


 「おやおや、なくしものをしてしまったのかい?それはたいへんだ。すぐにさがそう」


 ですが、おじいちゃんせんせいはこころよくこうきくんのたのみをきいてくれました。こうきくんにとってこれほど、たよりがいのある助っ人は他にいません。


 こうきくんとおじいちゃんせんせいはいろいろな場所をさがしてまわりました。つくえのなか、ロッカー、そうじ用具入れ、ごみばこ、ろうかもトイレもすみずみまで見てまわりました。


 しかし、それでも見つかりません。あたりはだんだん暗くなってきます。いつもならこうきくんはおうちにかえっている時間でした。


 「まだ、さがすかい?」


 「うん…」


 「よし、もうすこしがんばってみよう」


 うんどう場、りか室、おんがく室、たいいく館。ぜったいにないような場所も、おじいちゃんせんせいはさがしました。他のせんせいに見つからないようにこっそり聞きこみもしました。でも、だめでした。やっぱり、こうきくんのカードは見つからなかったのです。


 「きっと、みのるくんがとったんだ!きっとそうにきまってる!」


 こうきくんのあせりはしだいに、ともだちへの疑いにかわりました。そう考えるとくやしくてたまりません。かんしゃくをおこすように、こうきくんはくちびるをかんで泣きました。


 「証拠もなしに疑ってはいけないよ。さあもう、今日はかえろう。明日またいっしょにさがそう」


 おじいちゃんせんせいはこうきくんの手をひいて歩き出しました。


 ぽつぽつ、と街灯がつきはじめた夕暮れの道をふたりは歩きます。こうきくんは洋服のそでを、なみだとはなみずでぐしゃぐしゃにしながら、おじいちゃんせんせいにつれられていました。しゃっくりのときのような息苦しさがとまりませんでした。


 だから、前も見ずにただ、おじいちゃんせんせいのとなりを歩いていました。


 「ここで待っていなさい」


 しばらくして、こうきくんはある場所にきたことをようやく知りました。そこは、学校の近くの駄菓子屋さんでした。おじいちゃんせんせいはこうきくんを店の前にのこして、なかへと入っていきます。こうきくんはそれを見て、おじいちゃんせんせいが何をしようとしているのかわかりました。


 「これはせんせいとこうきくんだけの、ひみつだよ。だから、元気をだしなさい」


 それはちがうと言いたかった。こうきくんはおじいちゃんせんせいにそんなことをさせたかったのではありません。


 店からでてきたおじいちゃんせんせいはいつものにこにこ笑顔で、オモチャのカードを1ふくろ、こうきくんの手ににぎらせました。


 そのとき、こうきくんの心臓はぎゅっとおしつぶされたように痛くなりました。ひたすらもうしわけなく、あやまりたい気持ちでいっぱいでした。こんなに自分が恥ずかしいと思ったことはありません。ぼろぼろぼろぼろ、なみだがこぼれます。


 「うああああん!うああああん!」


 おじいちゃんせんせいのしたことは、教師としてはいけないことだったでしょう。宿題をサボった子、すききらいをする子、そして、学校にもってきてはいけないものをもってきた子。そんなこどもたちを少しもしからず、それどころか、あまやかすようなことをしたのですから。


 でも、それでも、おじいちゃんせんせいは、ほんとうにこどもたちを愛していたのです。わが子のようにいつくしんでいました。おじいちゃんせんせいのやさしさは、ただそれだけでした。


 こうきくんはおじいちゃんせんせいのシャツに顔をうずめて泣きました。それから、たくさんあやまりました。そしてもう、学校にオモチャはもってこないと約束しました。


 おじいちゃんせんせいからもらったカードのふくろにはレアカードは入っていませんでした。しかし、そのカードはこうきくんの一生の大事なたからものになりました。


 * * *


 ある日、まさるくんとしんじくんは学校がお休みの日におじいちゃんせんせいのおうちにあそびにいく計画をたてました。


 それを聞いておじいちゃんせんせいは、よろこんでふたりをおうちに招待しました。


 おじいちゃんせんせいのおうちは学校からそう遠くにはありません。まさるくんとしんじくんは朝にしゅっぱつすることにしました。お昼ごはんはおじいちゃんせんせいのおうちでごちそうになることにきまりました。

 

 おじいちゃんせんせいのおうちは古いですが、すてきなおうちでした。庭は畑になっていて、あおあおとした草木が手入れをされています。白い小さなお花も咲いていました。それから、たくさんのどうぶつがいます。にわとりさん、あひるさん、やぎさん、いぬさん、ねこさん。おじいちゃんせんせいのおうちは、とてもにぎやかです。


 「こんにちは、おじいちゃんせんせい!」


 「いらっしゃい、さあ、おあがり」


 おじいちゃんせんせいはいつものシャツ姿ではなく、着流しでした。おうちのなかに入ると、一昔前のセンスの調度品がならんでいます。どれもきれいにかたづいて、すっきりしていました。


 「こんにちは、まあ、かわいい生徒さんだこと」


 居間には、ひとりのおばあさんがいました。おじいちゃんせんせいの奥さんです。品のよさそうな人でした。お茶とお菓子の用意をしていました。


 まさるくんとしんじくんは、おじいちゃんせんせいとおばあさんと、いっぱいお話をしました。学校のこと、ともだちのこと、あそびのこと、お勉強のこと、家族のこと。


 「ねえねえ、おじいちゃんせんせいは昔はどんなせんせいだったの?」


 まさるくんがたずねました。そういえば、おじいちゃんせんせいはあまり自分の昔話をしない人でした。まさるくんもしんじくんも、おじいちゃんせんせいがわかいころの話に興味があります。


 「おじいさんは、わかいころね、それはそれはおっかないせんせいだったのよ」


 「えー?」


 ふたりはとても信じられません。おじいちゃんせんせいがおこるところなど、一度も見たことがないからです。


 「おばあさん、やめてくれ」


 「いいじゃありませんか。ほら、あの棚のうえの写真を見てみなさい」


 おばあさんはからかうように言います。そこには一まいの写真がありました。さんにんの人が写っています。ひとりは、おじいちゃんせんせいでした。しかし、かみの毛もおひげも黒々としていて、せなかもしゃんとまっすぐでした。そして、こちらをにらみつけてくるかのようにいかめしい顔つきです。まゆ根がよって口もへの字にまがった、しかめっつらでした。


 まさるくんとしんじくんはびっくりしてしまいました。こんな顔をしたおじいちゃんせんせいがいるなんて、おどろきです。


 「おじいちゃんせんせいは、昔はたいへんな“きかんきせんせい”だったのよ」


 おじいちゃんせんせいは、こりゃたまらんと席をたちました。くれぐれもふたりの生徒に昔話をするなとおばあさんに念をおして、にげるようにどこかにいってしまいました。こんなに恥ずかしそうなおじいちゃんせんせいを見るのもはじめてです。


 しかしそんなことを言われては、ふたりとしても気にならないわけがありません。おばあさんは、おじいちゃんせんせいの言いつけなどおかまいなしに、話してあげました。


 「わかいときのおじいさんは、とてもきびしい人だった。わるいことをする生徒がいれば、すぐに手をあげて言うことをきかせるような人だった。たしかにそれはやりすぎだけれど、わるい人ではなかったのよ。いつも、こどもたちのことを考えていたわ」


 おばあさんはそう言って写真のおじいちゃんせんせいを見ていました。写真のせんせいのとなりには、わかいときのおばあさんが写っています。きれいな女の人でした。


 そしてもうひとり、ふたりの間に少年が写っています。その子は色白でやせていて、とても病弱そうでした。しかし、とても楽しそうなにこにこ笑顔でした。その笑顔は今のおじいちゃんせんせいによく似ていました。


 「あの子はつよしくんと言うの。つよしくんは、そう、おじいさんがいちばん気にかけた“生徒”だった。他のだれよりもきびしく接していた。いっしょにあそんであげたりはしなかったけど、りっぱなおとなになってもらいたくて、たくさん勉強をおしえていた。でもね、つよしくんとおじいさんにはお別れする時間がきたの」


 「お別れ?」


 「そうよ。もう会えないの」


 まさるくんとしんじくんはそれをきいて、いつかおじいちゃんせんせいとお別れしなくてはならないときがくるのかと思うと、悲しくなってしまいました。


 「おじいさんも悲しんだわ。すっかり気落ちして、“きかんきせんせい”ではなくなってしまった。こしもまがってしまった。いつもため息をついて、せんせいの仕事をやめたいって言っていた」


 だけれど、とおばあさんはつづけました。


 「つよしくんはね、最後のお別れのそのときまで笑っていたわ。いつもにこにこ笑顔だった。そして、おじいさんにも笑っていてほしいと言ったの。彼はほんとうに強い子だったのよ。そのときからおじいさんは“にこにこせんせい”になった。それから今でも約束をまもりつづけて“にこにこおじいちゃんせんせい”になったのよ」


 まさるくんとしんじくんはおじいちゃんせんせいと、そしてつよしくんのことをすごいと思いました。自分がもしその立場にいたなら、とうていまねできなかったでしょう。


 そうしてしばらくすると、おじいちゃんせんせいがかえってきました。一息ついて落ち着いたのか、さっきのようにあせってはいません。


 「さて、まだまだ時間はあるぞ。なにをしてあそぼうか?」


 おじいちゃんせんせいは、にこにこ笑顔でふたりに話しかけます。まさるくんとしんじくんは、その笑顔がいぜんよりも大すきになりました。


 「おじいさん、なら、“ピコピコ”をしてあそべばいいではありませんか」


 おばあさんは提案します。まさるくんとしんじくんは、“ピコピコ”が何なのかわかりません。おじいちゃんせんせいは、それをきいてなんだかそわそわするような、思いつめるような、落ち着かない感じになります。


 「おじいさんはね、ずっとひとりで“ピコピコ”の練習をしているのよ。今日はかわいい生徒さんたちに相手をしてもらえば、どうですか?」


 おばあさんはそう言ってテレビの台のしたから、ゲーム機をとりだしました。とても古いテレビゲーム機で、まさるくんとしんじくんはあそんだことのないものでした。


 おばあさんはおじいちゃんせんせいの返事もきかずに準備をはじめます。どうやら、飛行機で撃ち合いをするシューティングゲームのようです。しんじくんはテレビゲームが大すきなので、興味しんしんです。


 「おじいちゃんせんせい、いっしょにあそぼうよ!」


 そう言われて、おじいちゃんせんせいは分厚いメガネをかけると、色あせたコントローラーをもちました。ゲームがはじまると、おじいちゃんせんせいはあざやかな動きで操作しました。そうとう、やりこんでいることがわかります。見る見るうちにしんじくんは追いつめられていきます。


 「うーん、まけないぞ!」


 しんじくんも必死におじいちゃんせんせいに追いつこうとします。すると、急におじいちゃんせんせいの飛行機の動きがにぶくなりました。しんじくんはそのすきをのがさず、見事おじいちゃんせんせいに勝つことができました。


 「やったー!勝ったー!」


 おじいちゃんせんせいは泣いていました。なみだでテレビ画面がよく見えませんでした。もちろん、くやしかったからではありません。心底うれしかったのです。


 ずっとこのゲームをだれかとやりたいと思っていました。ほんとうにあそびたかった人はもういないというのに、未練がましくひとりでずっと練習していたのです。救われた気分でした。


 「このゲームは楽しいかい?」


 「うん、楽しい!」


 「しんじくんばっかりずるいよ。ぼくともあそぼう、おじいちゃんせんせい!」


 おじいちゃんせんせいは泣いているのをさとられないように、すぐになみだをぬぐって笑いました。


 古いゲーム機には、“つよし”と名まえが書いてありました。


 * * *


 ある秋の日、おじいちゃんせんせいはお便りをもらいました。


 それは葉っぱのお便りで、“おはなのきっさてん”からのものでした。


 昼休みになると、おじいちゃんせんせいは校庭の一角にむかいます。


 今日は、がっはっはせんせいもいっしょです。がっはっはせんせいはあれ以来、おじいちゃんせんせいのことをしたっています。


 おはなのきっさてんは、はなちゃんと、かおりちゃんと、きよこちゃんが経営しています。他の女の子も従業員だったり、お客さんだったりします。“おはなの”とついていますが、これははなちゃんの名まえからとったものです。


 「いらっしゃいませ、二名さまですか?」


 「はい、おねがいします」


 まず、きよこちゃんが案内をします。おじいちゃんせんせいは常連なので自然に入っていきますが、がっはっはせんせいは少しぎこちない。がっはっはせんせいはどちらかというと、昼休みは男の子たちとスポーツをしてあそぶようなせんせいなのです。


 いわし雲がうっすらとひろがる秋の空のしたで、おはなのきっさてんは大はんじょうです。


 「コーヒーをどうぞ」


 かおりちゃんが厚紙でつくったコップにコーヒーをいれてもってきます。紙でできているのですぐに飲まないとこぼれてしまいます。


 「ありがとう、いい香りですね」


 とは言っても、ほんもののコーヒーではなく、どろ水なのでほんとうに飲んだりはしません。飲むふりだけです。飲みおわったらかおりちゃんにさげてもらいます。がっはっはせんせいもおじいちゃんせんせいに習って、同じようにしました。


 「とう店じまんのケーキをおめしあがりください」


 最後にはなちゃんがケーキをもってきてくれました。平べったい石のうえに、黄緑色っぽいなにかがのっています。がっはっはせんせいは、はじめて見るのでそれが何でできているかわかりません。


 「おもしろいでしょう?これは、椿の実でできているのですよ」


 椿の木は学校の垣根としてあちこちに茂っています。秋になると実をつけて、木のしたにたくさん落ちるのです。


 「椿の実はかたいカラにつつまれています。石をつかって割らないと中身がとりだせません。それに、すりつぶすのも一苦労です。いい香りですが、あおくさい独特のにおいもありますしね。それを女の子たちは、こうやってわたしたちをもてなそうとがんばってやるのです」


 ですが、おはなのきっさてんではたらく女の子たちはいやな顔ひとつしません。自分たちのすきでやっているのだから当然です。


 「こどもたちはおとなから見ると無知でたよりない存在のように見えます。ですが、それだけではありません。こうやってだれにおそわらずとも、社会のなんたるかを学ぼうと自らはたらきかけることができるのです。そしてときに、おとなも答に窮するようなことも知っています」


 おじいちゃんせんせいは、ありがとうおいしかったよ、と言ってはなちゃんたちと握手しました。おじいちゃんせんせいの皮の余ったしわしわの手をこどもたちはぎゅっとにぎって、うれしそうに笑いました。


 「……ああ、おいしかった。またきてもいいかな?」


 「はい!どうぞおこしください!」


 がっはっはせんせいもお礼をいって握手しました。いぜんの彼ならこのおはなのきっさてんに来てこんなことを言うことはなかったでしょう。こどもの目線に立つことで見えてくることもあるのかもしれません。


 おじいちゃんせんせいは、財布から大事そうにちり紙につつまれた葉っぱのお金をとりだしました。これは前にはなちゃんたちからもらったものです。


 おじいちゃんせんせいは、こどもたちとした約束はどんなにささいなことでも、わすれずにまもるのです。がっはっはせんせいはお金をもらっていなかったので、今回は彼の分もおじいちゃんせんせいが払いました。


 * * *

 

 「せんせいは、すごい教師ですね」

 

 「わたしがですか? いえいえ、そんなことはありません。わたしのやっていることを見習わないでください。宿題をやっていない子を見逃したり、廊下を走る子をおこらなかったり、それはまあ、ひどいものです」

 

 「自覚はあったのですか」

 

 「それはもちろん。でもね、わたしのその“あまさ”を“やさしさ”に変えてくれるのは、いつだってこどもたちです。あの子たちがもし、わたしに頼りきって、わがままを言うようであったならば、わたしの“あまさ”はただあまやかす結果にしかならなかった。本当にすごいのはわたしではなく、こどもたちなんです」

 

 「がっはっはっはっはっは! これはおもしろい! まさか、せんせいは気づいておられないのですか?」

 

 「何のことでしょう?」

 

 「なぜ、こどもたちがそんなにすごいのか、その理由です」

 

 「はて、言われてみれば、かんがえたこともありませんでした。なぜ、すごいのか」

 

 「お教えしましょう。なぜ、あなたの教え子たちが、あんなに素直で、ひとにやさしくて、そしていつもにこにこ笑顔なのか……」


 丘のうえのある小さな小学校には、おじいちゃんせんせいとよばれる、やさしくてあったかいせんせいがいました。


 だれからも愛されて、そして、だれをも愛していました。


 こどもたちといっしょにあそんで、お勉強をして、ごはんをたべて、笑います。みんな、おじいちゃんせんせいのことが大すきでした。


 だから、おじいちゃんせんせいは今日もにこにこ笑顔です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気に読んでしまいました。読んだあといい気持ちになれました。 [一言] 素晴らしい作品と思います。これからも頑張ってください。
[良い点] 読んでいてとっても暖かくなりました。これからの冬も凌げますね。おじいちゃんせんせいのような心優しい人を見ると、作者様の心まで見えてきそうです。最近こういう素晴らしい童話を書ける人はめったに…
[良い点] なんだかあたたかくなった [一言] とてもいい話でした。 けど、魔王子から来たのでどうしてもオチを探そうとしてしまいました。 ……本っ当にすいません!
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