"紫陽花"
君は真っ白なクロスの敷かれた食卓に行儀良く掛けると、瞳を輝かせて料理を待って居る
前菜は本日の場合、メインディッシュでも在った
サラダを芝居掛った動作で恭しく提供する
湿度の多い季節に合わせて作られた、涼やかな葉と花弁の盛り合わせだ
花から抽出して作ったソースを多めに添えて居たのが、口に合うと良いが
僕が一礼すると、君はフォークで皿の上の花を貫いた
植物の躰が刺し貫かれる、さく、という音
花弁と共に突き刺された、花茎が立てた音だろう
それを聞きながら、僕は脳裏の内側で自分が君にフォークで貫かれる想像を行って居た
淡藤色の小さな花が、君の柔らかな唇の奥に整列した白い歯に食まれて消える
唾液の中で咀嚼された生命は、潰されて形から解放されるのだろう
小さな嚥下が視えた
踏み躙られて引き裂かれたた美は、惨たらしく溶かされて滓に成る
ただしこの場合に限っては、食餌が糧とはなら無い事を僕は知って居た
「此処までとしますか?」
両の眼を瞑目して味わって居る君の、顔が白磁の様な色になって居る事に気付いて
僕は声を掛けた
君が瞼を下ろしたまま、落ち着いた表情で首を横に振る
次は葉が、その次はまた花弁が、それらが繰り返された最後には花茎が、花と同じ淡藤色のソースと共に君の唇の先へ消えて居った
総てを食べてしまった君が、こふこふとナプキンを口に当てて噎せ始める
僕は、ナプキンの先に隠された血の紅さについて想像を何度も重ねた
君の顔は、既に「白い」などという言葉では表現出来ない程に、死の影が濃くなり始めて居た
『死』を堪える事に限界を迎えて
君が、どう、とテーブルに斃れる
食器が床に転げる事も意に介さず、僕はただ君を視た
窓の外は、まだ雨だ
この花が死を齎すのなら、雨は天に地に、死を与えて居るのだろうか
雨は、死を育む
風が吹き、窓の外で紫陽花が揺れる
嵐が近いのだろうか
僕は窓を閉じると、もう動く事の無い君の髪を優しく撫でた




